第7話


「おじゃまします」


「今親出かけてるからいないよ」


「そうなの?緊張してたからよかった」


「ふふっ、適当に座って」


 見慣れた部屋だが、愛に悟られないように部屋をじろじろ見渡してみる。


「恥ずかしいからあんま見ないでね」


「あ、うん」


 愛は机を挟んで俺の向かいに座った。


「彼氏連れてくるの実は初めなんだ」


「そうなの?なんか嬉しいなぁ」


「竹内君ってさ、一年の時学校でちょっとした噂になってたんだよ、知ってる?」


「噂?どんな?」


「イケメンで運動神経も良くて勉強も出来るって」


「そうだったの?知らなかった」


 確かによく告白されるとは思ってたけど噂になっていたとは。


「本当はね、私一年の時に告白しようとしたんだ。でも勇気が出なくて‥‥」


「俺たち会った事あったっけ?」


「ないよ、私の一目惚れだったから」


「そうなんだ、でも一年の時に西野さんに告白されても俺オッケーしてたと思うけどな」


「ほんと?」


「だって西野さんは俺の超タイプだもん」


 俺がそう言うと愛は顔を赤らめていた。


「てかさ、竹内君って何中だったの?」


「北中だよ」


「そうなの?じゃありな知ってる?」


「分かんない、苗字は?」


「確か‥‥‥忘れちゃった!」


「あぃ‥‥‥‥西野さんも北中?」


「私は西中だったんだけどね」


「だよね、西野さんみたいな可愛い子いたら覚えてるはずだもん。そのりなって子と仲良かったの?」


「あ、うん。一時期遊んでたんだ、でも中三の夏に家族に不幸があったみたいでさ、それからもう会ってないんだぁ」


「そうなんだぁ」


 この時はこんな話したっけぐらいにしか思っていなかった。まぁ会話まで一々覚えてる方がすごいけど。


「てか愛でいいよ」


「え?」


「呼び捨てでいいよ、私もりょうやって呼ぶからさ」


 愛が少し恥ずかしそうに、でも勇気を出して言ったんだろうなってのが伝わってきて、そんな愛に俺はときめいていた。


「うんそうだね!」


 その時愛のスマホが鳴り、画面を確認して愛が残念そうに言った。


「てか、ごめんそろそろ親帰ってくるっぽい‥‥‥」


「じゃあ‥‥帰るね。明日また学校で」


「うん、気をつけてね」


 愛は玄関まで見送ってくれた、俺が見えなくなるまで手を振って。俺ってこんな青春してたんだなと、心がワクワクする感じがしていた。


 しかし、そんな感情に浸るのも束の間、俺はその帰り道で声をかけられた。


「おっ、りょうやじゃん!」


「えっ」


 この大柄で目つきの悪いやつは確か‥‥。


「俺だよ、中三の時同じクラスだった佐野だよ!」


「佐野‥‥‥‥あぁ‥‥」


「おいおい、もうちょい喜んでくれよー」


 こいつ‥‥。


 忘れもしないこの男は俺の大嫌いなやつだ。佐野、その名前を聞いた瞬間、こいつの不気味な笑顔と共に記憶が一気に蘇ってきた。


 俺は頭に血が昇っていくのが分かった。


「なんだよそんな怖い顔してよ、今もバスケしてんだろ?あいつもきっと喜ぶぞ〜」


「お前なぁ‥‥」


「あ、この話は禁句だったっけ?」


「お前‥‥‥‥なぁ!!」


 その時俺は無意識に拳を振り上げていた。


 そして全身に鳥肌が立つのを感じた瞬間ブルブルっと震えた。

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