第12話 ユウリ①
ウチ、ユウリや。
ドワーフのお父ちゃんと人間のお母ちゃんの間に生まれたハーフドワーフや。
趣味は機械いじりで、この言葉遣いはお師匠様の受け売りや。
お母ちゃんはウチが小さい頃に、病気で死んでしもた。
以降お父ちゃんは男手1つでウチを育ててくれた。
片親やけど、別に寂しいとかひもじいとか思ったことはない。
お父ちゃんもおるし、仲の良い友達もぎょーさんおる。
特に仲が良かったのが、マルクスっちゅう幼馴染の男の子。
マルクスもウチと同じくお母ちゃんを病気で亡くしててな?
片親っちゅう共通点もあって、兄弟みたいに仲がええんや。
マルクスは顔はええと思うんやけど、気が小さい上に人見知りが激しくてな?
ウチ以外に友達がおらへんみたいやねん。
ホンマはみんなと仲良くしてほしいんやけど、本人が嫌がってるから無理強いはできひん。
-----------------------------------------
「こっこんにちは」
ある日、マルクスがウチを訪ねてきた。
「あっ!マルクス。 遊びに来たん?」
「うっうん。 ユウリに渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
そう言ってマルクスが差し出したのは、真っ赤なハンカチやった。
「ウチにくれるん?」
「……うん」
「おおきに。 でもどないしたん?これ」
「実は昨日、ユウリを占ってみたんだ。
そしたら今日、赤いハンカチを持っていると幸せが訪れるんだって」
「そうなんや。 わざわざありがとうな」
占いって言っても、本とか読んでマネた自己流の占いやけどな。
こういう言い方はあれやけど……マルクスは決断力がなくてな?
何かを決断する際は、必ず占いを頼るんや。
ウチのことも占ってくれてるみたいで、今みたいに贈り物をくれたり、お出かけに来ていく服のアドバイスとか、色々教えてくれるんや。
まあ素人の占いやから、ウチは参考程度に聞いてることにしてる。
でもマルクスは本気で自分の占いを信じてるみたいで、不幸を招き入れるからって理由で生前お母ちゃんが来ていた洋服を燃やすくらいや。
さすがにそれはマルクスのお父ちゃんもカンカンやったみたいや。
度が過ぎているところもあるけど、ウチはひたむきに何かを信じるマルクスを悪い奴やとは思ってへんで?
……少なくとも”あの日”までは。
-----------------------------------------
その日、ウチは近くのレストランで夕飯を食べていた。
ホンマはお父ちゃんと一緒に来るつもりやってんけど、急にお客さんが来てしもたから、1人で食べることになった。
まあ別にこれが初めてって訳やないし、仕事やったらしゃあないよ。
「ユウリじゃないか……」
「あっ! マルクス」
ご飯を食べていたら、マルクスが店に入ってきた。
「どないしたん? レストランに来るなんて珍しいな」
「えっと……父さんと一緒に食べる約束だっただけど、急な仕事が入ったから1人で来たんだ」
「なんや。 ウチと同じやん。 せっかくやし、一緒に食べへん? 2人で食べたほうがおいしいし」
「あぁ、そうだね」
それから雑談を挟みながらウチとマルクスは楽しくご飯を食べ進めた。
「う~ん……やっぱりここのお酒は最高やね!」
ここのレストランのお酒はめちゃくちゃおいしいし、あんま強くないから飲みやすいねんな。
だからお酒に弱いウチもついつい飲んでしまうねんな。
「ふわぁぁぁ……なんやろ? ウチ飲み過ぎたんかな? 眠とうなってきた」
お酒を飲んでいる途中、ウチは強い眠気に襲われてもうた。
変やな? ウチ、お酒に飲まれるほど飲んだつもりないねんけど……」
「こんな所で寝たらお店の人に迷惑になるよ?」
「うん……だいじょう……ぶ……」
ウチは深い睡魔の世界に吸い込まれ、
そこからの記憶は途切れてもうた。
※※※
「うっ!……ウチ、寝てもうたんかな?」
目が覚めたウチは、ゆっくりと重い瞼を開いた。
「ここ……どこや?」
ウチがいたのは、薄暗い見知らぬ部屋やった。
まだ眠い感じがあって、体の動作が鈍く感じる。
でも自分が横たわってるのが、ふかふかのベッドやっていうのは感触で分かる。
「ハクチンッ!……えっ? ウチ、なんで服着てへんの?」
どういう訳か、ウチは服どころか下着すら機てない
部屋に流れる風が、ウチの体全体に流れてくる感じがした。
「痛っ!……なんなん?」
股ぐらに、今まで感じたことのない強い痛みが走った。
ケガでもしたんかな?
ガチャ……。
「うっ!……」
ドアが開いた音がしたと思ったら、部屋の電気が辺りを照らした。
ウチは思わず目をつむってしもたけど、しばらくしたら目が慣れたから瞼を開く。
「……マルクス」
ウチの目の前にはバスローブ姿のマルクスが立っていた。
お風呂に入ってたんか、体から湯気がうっすらと見える。
「やあ、ユウリ。 目が覚めたんだね」
「えっあの……ここ、ユウリの部屋やんな」
辺りをよく見ると、この部屋はマルクスの部屋や。
何度か遊びに来たことがあるから覚えてる。
「そうだよ? レストランでユウリが寝てしまったからここに連れてきたんだ」
「そっそうなんや……!!」
そこでウチは自分が裸であることに気がついた。
ウチは大慌てで手元にあったシーツで体を隠した。
「ハハハ……今更隠す必要はないだろう? 俺達の仲なんだからさ」
「仲って、そういう問題やないやろ!? だいたいなんでウチは裸なん!?」
「なんで? おいおい……冷たいじゃないか。 さっき2人であんなに”愛し合った”って言うのに」
「愛し合った? なんのこと?」
「君が巻いているシーツにあるだろ? 俺達が愛し合った証がさ」
「!!!」
体に巻いているシーツをよく見ると、そこには数滴の血がついていた。
ウチは瀬宇治に冷たい物を感じ、さっきから痛い股ぐらに視線を落とした。
案の定、股ぐらには血がついていた。
アホなウチでもこれが何を指すかはすぐにわかった。
でもそれは、到底信じれるもんやない。
「まっマルクス……これって、なんかの冗談やんな?」
「冗談? いや本当だよ。 俺達は本当に愛し合ったんだ」
マルクスは幸せそうにうっとりとしていた。
ウチにはそれが怖くてしかたなかった。
「なんで……なんでこんなことを……」
「行ってる意味がわからないな。 恋人同士が行為に及ぶのは普通のことだろ?」
「恋人同士って、何を言ってんの? ウチらは付き合ってなんかいないやろ?」
「何を言ってるんだ? お互いに好き合ってるんだから、恋人同然だろ?」
好き同士?
ウチはマルクスを好きになったことなんてないし、告白もしたことがない。
そもそもマルクスがウチを好きなんて、今初めて知った。
「ホンマに何を言ってるん? ウチ、マルクスが好きなんて思ったことも言ったこともないで?」
ウチのその言葉がツボにはまったかのように、マルクスは口元を抑えて笑いをこらえている。
「もう照れ隠しはいいよ。 お前は俺が好きってことはもう知ってるよ」
マルクスはそう言って、部屋に飾られている水晶玉に手を置く。
「俺が占いをやってるのは知ってるだろ? 特にこの水晶占いは何度も俺に運命を教えてくれる。
この水晶でユウリの気持ちを占ったら、ユウリも俺と同じ気持ちだって教えてくれたんだ」
「す……水晶占い?」
「そうだ。 相性も完璧で俺達は互いに惹かれ合うために生まれてきたと言っても過言じゃない」
「……」
「そして昨日……ユウリを占ったら、今日は俺達の幸福力が最も高まる日だって出たんだ。
この日に契りを結べば、俺達の子供は最高に幸せな人生を送れるって……だけど、ユウリはとても恥ずかしがり屋だからさ。 このことを話してもきっと照れると思ったんだ」
「だっだからウチをここに?……まさか、急に眠たくなったんも……」
「あぁ、オレンジジュースに睡眠薬を入れたんだ。 俺、最近不眠症だからね」
「なっなんでそんなことを……」
「だって女の子の初めては痛いって聞いてたからさ。
ユウリとは愛し合いたいけど、ユウリに痛い思いをしてほしくなかったんだ。
どうせ気持ちは通じ合っているし、ユウリは構わなかっただろう?」
「うっ嘘や……こんなこと……信じひん!!」
信じられる訳がない。
自分が寝ている間に、初めてを奪われたなんて……その相手が親友であり幼馴染のマルクスなんて……しかもその理由が占いの結果?……こんなひどい話……信じれる訳がない!!
……だけど、体に感じる痛みとシーツの血が、ウチの大切な女の子を奪われたことを物語っている。
「ユウリ……君を見ていたらまた興奮が収まらなくなってきた。
もう1度愛し合おうよ」
「ちっ近寄らんといて!!」
近づいてくるマルクスに枕を投げつけたけど、そんなんじゃマルクスはひるみもせえへん。
「いやっ! 離してっ!!」
ウチはマルクスにシーツを剥がされ、両腕を掴まれた。
マルクスはそのままウチをベッドに押し倒し、首筋を舐めてきた。
心の底から気持ち悪いと思った。
「いやっ!!」
ウチは渾身の力でマルクスを押しのけ、無我夢中でドアに向かって走った。
「ユウリ!! どこに行くんだ!?」
「きゃっ!!」
ドアを潜り抜けた瞬間、後ろから追いかけてきたマルクスがタックルの要領でウチを押し倒した。
「ユウリ、なぜ逃げるんだ!?」
「はっ離して!!」
マルクスは馬乗りになってウチを抑え込み、ウチの顔を両手で掴んで強引にキスをしようとしてきた。
「いやぁぁぁ!!」
ウチは最後の力を振り絞って抵抗した。
普段の力なら、マルクス相手でも力負けはせえへん。
力の強いドワーフの血を半分引いてるからな。
でも目覚めたばかりで、睡眠薬が抜けきっていないウチの力では、普通の女の子と大差ない。
だから正直、マルクスの手からは逃れられへんと心の中では諦めかけていた。
「なっ!! あぁぁぁ!!」
ウチの抵抗で馬乗りになっていたマルクスがバランスを崩した時やった。
マルクスはすぐ横にあった階段を転がり落ちて行った。
「あ……ぐ……」
マルクスの体は階段下で止まったけど、そのまま動かなくなった。
上からやと真っ暗でマルクスがどうなっているのかはわからへん。
でも階段下にマルクスがいる以上、ウチは階段を降りることができひんかった。
ウチはマルクスの部屋まで戻ると、内側から鍵を閉め、電話で騎士団に連絡した。
あっ! 騎士団ちゅうのは国の犯罪なんかを取り締まる組織や。
笑騎のいた世界で言う警察?とか言う組織とおんなじやと思ってくれたら大丈夫やと思う。
それと、異世界やのに電話なんてあるの?ってツッコミはなしにしてな。
「もしもし! 騎士団ですか!?」
ウチは騎士団に事情を説明し、すぐにマルクスの家に来てもらえるように頼んだ。
※※※
それからしばらくして、騎士団がドアを蹴破って中に入ってきた。
女の騎士さんに布を巻かれたウチは、そのまま近くの病院に連れて行ってもらった。
押し倒された際にちょっと擦り傷ができただけで、大きなケガとかはなかった。
だけど、純潔を失った精神的なダメージは尋常やない。
何日か過ぎたけど、妊娠の兆候がなかったのは不幸中の幸いやった。
そしてマルクスの方は、あの悪夢の翌朝に亡くなったと聞いた。
階段から落ちた際に、首の骨を折ったみたいや
騎士団の手で病院に運び込まれたみたいやったけど、手遅れやったみたいや。
-----------------------------------------
2週間後、医者の許可が降り、ウチは裁判に掛けられた。
ウチはあの夜のことをそのまま証言台で話した。
あの後の調査でマルクスの部屋からカメラが見つかったそうや。
その中にはウチを強姦した瞬間を取った写真が何枚も入っていた。
気持ちのええもんやないけど、ウチの証言を裏付ける証拠にはなった。
ほかにも、マルクスが眠っているウチを背負っていた所を目撃している人もおったらしい。
証拠と証言がそろったことで、ウチの行動が正当防衛が証明され、ウチは無罪判決を受けた
でもウチはあんまり嬉しくはない。
結局マルクスを殺したことに変わりはないからな。
「ふざけるなっ!!」
ウチの判決に異を唱える人がおった。
マルクスのお父ちゃんであるシンさんや。
「なぜ無罪なんだ!? その女は息子を殺した悪魔だぞ!!」
「それは正当防衛だと、証明されたはずです」
裁判官が平然とそう告げるも、シンさんは引き下がらない。
「何が正当防衛だ!! 人1人の命を奪っておいて罰も受けないなど、こんな横暴が許されてたまるかっ!!
マルクスを……マルクスを返せぇぇぇ!」
でも結局、シンさんの異議は却下され、ウチはお父ちゃんと一緒に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます