第35話 再会

2022年5月19日


 彼との約束の日、私は昼過ぎに彼のお店に着くように家を出た。1月に別れて以来、4ヵ月月ぶりの再会である。考えてみればたったの4ヵ月。もう随分長い間会っていないような感覚だった。別れていたのも2ヵ月半。数字にすると大した事はない。その間、私は彼の事が本当に好きだったんだと思う。そうでなければこんな短い期間はあっという間に過ぎていくに違いない。

 久しぶりに会える嬉しさから気持ちの高まりを感じ、1度別れた経験でもう次に何があっても怖くない強さもあり、彼の秘密を知ってしまった余裕もありながらの再会だった。


「久しぶりやね。」

「うん。いらっしゃい。何食べる?」

「うーん。甘いもの。」

「じゃあ、フレンチトーストとかどう?」

「うん。それにする。後紅茶も。」

 天気が良かったのでお店の庭の席に座り、フレンチトーストと紅茶を待った。私の他にお客さんがいなかったので彼はすぐに準備して持ってきてくれた。私は彼ととりとめのない会話をしながらフレンチトーストにナイフを入れた。ああ、思い出した。これ奥さんのブログで見た自慢のフレンチトーストだ。メープルシロップがかかっていて程よい甘さに仕上がっている。なんて皮肉。。騙されたふりをしながら、私は彼から奥さんの作った料理を出されて食べているのだから。でも食べ物に罪はない。全て美味しくいただいた。以前食べたチーズケーキの味はいまいちだった。私はお菓子作りが好きでチーズケーキもよく作るのだが、自分で作った物の方が美味しかった。彼のお店で出しているケーキは何種類かあってコロナ流行前なら出来立てのケーキもすぐに売れてしまったみたいだが、今はすぐに売れない事で冷凍するのだそうだ。やっぱり冷凍すると味が落ちる。ベイクドチーズケーキなのに少しパサつくのだ。


 食べ終わると中に入ろうと言われていつもの席に座った。紅茶を飲んでいる間、彼はお店を閉めるわと言ってあっという間に2人の空間が出来上がった。

 そして彼はあのセフレの話を始めた。あの時、毎日楽しければいい、先の事考えずにセックスしてる、と言っていた彼。

「セフレと何度会ったの?」

「セフレじゃなくてやりもくの人ね、何度やろう。1回、うーん、2回会ったかなぁ。1度目は2万払って、2度目から割引きするわ言われたけど、虚しくなり過ぎて後悔半端なかったから止めといた。」

「ふーん。。」

 以前もセフレじゃなくてやりもくの人ね、と言われた。それは覚えているが、毎回言うことが変わるから今度は否定しないかもと思ってわざとセフレと言ったのだが、また訂正された。それにしても1度会ったか2度会ったかもわからないのか。そんな事ある訳ない。大体この返事自体矛盾している。2度会ったか迷いつつ、2度目は止めといたと言うのだから。先の事考えずにセックス、その意味は毎日セックスしてるとも取れる。セフレでなければ奥さんとしてたという意味なのか。。わからない、でも独身だと騙されているふりをしている私はそれを追及することは出来ない。

「動画は撮ったけどね。」

「そうなん。見せて。」

「ええっ!もう消したわ。ホンマはあかんって言われてこそっと撮ったら全然上手く撮れてなくて、おかずにならんから捨てたわ。」

「ああ、そう。」

 やっぱり最低なやつだ。以前私と撮った動画も寄りを戻してからまた送るわと言われてないものがあった。きっとおかずにならないから捨てられたんだろう。

「あ、写真なら残ってるわ。」

 彼が見せてきたのは2枚の写真。鼻から胸まで写っているのと、脚を広げて性器が写っているもの。

「顔が写ってないわ。」

「うん、撮らせてくれんかった。」

「胸大きいね。」

「おっぱいは美味しかったよ。でもこのおでぶちゃんにお金払ってセックスしたんやで。」

「。。。」

 だったら何だ。何やら不服そうな発言だけど、ちゃっかり写真や動画を撮っている彼を軽蔑する。写真を見せられたらもっとショックを受けるのかと思ったが不思議とヤキモチも妬かなかったし、ショックもない自分に驚いた。それよりも、彼女に写真を見せておっぱいが美味しかったと平気で言ってくる彼を何とも気持ち悪く感じる。バカにしてるのか。若干の殺意も覚えた。殺せるなら殺したい、殺せば捕まるまでは彼を自分のものにできる。でも、愛してるからではない気がするし、捕まってまで殺す価値もない。じゃあどうして別れない?このままで済ます訳にいかないから?彼の正体を暴く為にお金をたくさん使ったから?何だかわからない。自分がどうしたいのかわからない。でも確実に以前会った時より俯瞰して、妙に落ち着いて彼を観察している自分がいた。


「セックス終わったらすぐに携帯いじり出してさ、虚しくなった。」

「そう。別に私と寄りを戻さんでも、彼女はもう探さんの?」

「Rさんみたいな人と出会うのに、何人と会わなあかんかわかれへん。100人は会わないとあかんわ。」

 要するに、私は都合がいいと言うことか。

「こんな写真見せられてるのに、不思議と全然ショックじゃないわ。」

「そうなん。僕の事冷めたって事?」

「そういう訳じゃないけど。」


 その後私たちはお店でセックスした。体調が悪いから無理かもと言いながらも彼はセックスしたかったようだ。いつも自信がないのか、できるかわからないと先に伝えてくる。この日も元気だった訳ではないし、すぐに絶頂に達したけれど、彼はとても満足していた。もちろん動画も久しぶりに撮った。これもオナニーのおかずにならなければ捨てられるのだと思う。まあそれもどうでもいい。その日はランチしに来ただけ。次の週はデートをするし、長居せずその後すぐにお店を出た。帰り道も私は何がしたいんだと鬱々考えながら帰路に着いた。


 帰る頃、彼からLINEが入った。

「今日は良い日だった、有難う。」

「そやね、良い日だった。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る