やがて彼女は過ちの欠片に気付く1

「……と、とりあえずここは俺が」



 仕切る人間がいないとまずいと思った俺は、まず困惑している様子の未希ちゃんに顔を向け、舞花の方に手をかざして紹介する。


「えっと、〝俺の幼馴染の涼森舞花〟。今日、どうしても未希ちゃん会いたいって言うから連れてきた」


「そ、そうなんだ。会いたいって割には視線が怖い気がするけど……舞花ちゃんって呼べばいいかな?」


「……………………」



 がっつり無視を決め込む舞花。「あ、あはは……」とさすがの未希ちゃんも笑うしかできないよう。


 ん? 舞花の表情がさっきよりも険しくなっている気がするが……まあ、いいか。


 俺はさっきの手順で今度は舞花に未希ちゃんを紹介する。



「で、こちらは俺の従姉の山浦未希ちゃん。事情があって昨日からここに〝住む事〟になったんだ」



 片眉をピクリと吊り上げた舞花が鋭い一瞥いちべつを俺に向かって投げてくる。



「一緒に住んでるの?」


「ま、まあ、昨日からそういう事になって。俺もまだ驚いていたりいなかったり……って感じかな」


「…………ふーん」



 詩代の眼差しを送られる事少々。舞花はおもむろに瞼を下ろした。


 そして再び開かれた時にはもう、瞳の位置は動いていて。俺ではなく未希ちゃんを捉えていた。



「率直に聞きますけどあなたは本当に治親のいとこさんなんですか?」


「そりゃもちろん! ハルくんより3つ上の従姉だよ?」


「……口ではなんとでも言えます。なにか、証明できるものはありませんか?」


「――失礼だろ舞花ッ!」


「治親は黙ってて」



 舞花はこっちを見もせず俺の言葉を一蹴いっしゅう。完全に未希ちゃんを疑ってかかっている。


 一方で未希ちゃんは落ち着いていてる様子。



「それならハルくんのお母さんに聞いてきてみたら?」


「……既に口裏合わせてるからそんなに強気でいられるんですか?」


「はぁ……あのね舞花ちゃん、どうして私に対してそんなに敵対的なのか知らないけど、さすがにどうなの? それ」


「なにがですか?」


「冷静に考えて、私がハルくんのお母さんと口裏合わせる必要なくないって話。まあ、舞花ちゃんは私がハルくんの従姉だって事自体を信じていなさそうだから? 無理ないかとは思うけど…………いや、やっぱり無理あるかも」



 未希ちゃんは頭痛に苛まれているかのように額を押さえ、重く息をつく。



「疑問なんだけど、舞花ちゃんは私をなんだと思ってるの?」


「浮気相手ですがなにか?」


「……え、浮気?」


「はい、そうです。言ってませんでしたが……というより何故か〝治親が紹介してくれなかった〟んですが――あたしこの人と付き合ってるので」



 そう言って――舞花はやや強引に俺の腕を取った。

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