一人増えた食卓は、意識しないでいられない。
一人増えた才迫家の食卓。俺は黙々と箸を動かし両親と未希ちゃんの会話に耳を傾けていた。
「見ない間にすっかり大人の女性になっちゃって。未希ちゃんは今年で20歳だったかしら?」
「はい! 大人になったかどうかは微妙ですがね。遅い反抗期で実家を飛び出しての結果が今ですし」
「まあね、若い時は色々あるのが当然ですから。変に気遣うことなく自分の家だと思って自由に過ごして。ね? お父さん」
「うむ、母さんの言う通りだ。ゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます。お金を入れることはもちろん、家事もバリバリ手伝っていく所存ですので、どうか扱き使ってやってください!」
「いいのよ、気にしなくても」
「いえいえ、今は動いて動いてとにかく動きまくっていたいので!」
「あら、そう? それじゃお言葉に甘えてお願いしちゃおうかしら」
「合点承知! 任せちゃってください!」
力こぶを作って調子良いこと言う未希ちゃん。両親はニコニコと頬を緩めている。
会話の内容から未希ちゃんがここに住むことになったのは察するまでもなかった。両親も既に知っている様子だったし、初耳だったのは俺だけのよう。
未希ちゃんが来ることをどっちかが事前に教えてくれていれば心の準備もできたのに……まったく。
内心で両親に文句をぶつけつつ、俺は隣に座っている未希ちゃんをチラと横目で見やる。
昔はなにかと向こうの家族と会う機会が多くてしょっちゅう遊んでいた記憶がある。
最後に会ったのは小3の時の夏。今でも鮮明に覚えているあの過ちを最後に未希ちゃんとは疎遠になっていた。
……凄く、綺麗だ。
口にはできない率直な感想だった。
記憶の中での未希ちゃんも大人びていたけれど、それは幼かった頃の俺が抱いていたもので、今ここにいる未希ちゃんは紛れもなく大人の女性だ。
明るく元気一杯でちょっぴりお調子者な性格、肩にかかるくらいまで伸びた艶のある黒髪……あの頃と重なる部分もあれば――メイクが施された顔やお洒落で高そうなイヤリングといった月日を感じさせる部分もある。そして…………胸も。
「――ん? どうしたの、ハルくん」
「え? あ、ああ、いや、なんでも」
視線に気づき顔をこっちに向けてきた未希ちゃん。
「そっか! ――にしてもハルくん、大きくなったね。昔は私よりも小っちゃかったのに、いつの間にか身長越されちゃっててビックリしちゃったよ」
「――――ッ」
頭を撫でられる感触に心臓がドキリと跳ねる。
「ご――ごちそうさまッ!」
「ちょっと治親ッ、まだ残ってるじゃない!」
「ごめん母さんッ、もうお腹一杯で無理ッ!」
見ないふりをしていた恥ずかしがここにきて許容範囲をオーバーし、堪え切れなくなった俺は早足で部屋へと逃げた。
「…………はぁ」
自室に戻り一人の空間を確保できたことで緊張感が一気に解け、床に
「頭を撫でられた程度でなにを動転してるんだ俺は……」
経験がなかったわけじゃない。むしろ頭を撫でられるのなんて過去に何度もあったはず。
「……………………」
この歳にもなってそれはさすがにちょっと……そんなむず痒さ。でも、それだけじゃなく他の感情もあったような気がして――。
ブーーーーー、ブーーーーー、ブーーーーー。
絶妙ないタイミングでポケットに仕舞ってあったスマホが振動し始めた。間隔からして誰かからの着信だと俺は察する。
「…………舞花、か」
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