私の春に、あなたを添えて

かつどん

私の春に、あなたを添えて

桜並木の帰り道。


花びらが宙を舞っていた。


空に散りばめられた花びら、それはいかにも春を感じさせる綺麗な景色だった。


私は高校入学してから、一つだけずっと考えていることがあった。


私は変わってみたかった。例えば…恋をしてみたりとか。


周りの友達はどんどん変わっていった。高校生になって恋をして彼氏を作って、いつからかみんなが輝いて見えるようになった。


「私もあんなふうに変われるのかな」


いつからかそんなふうに考えるようになった。


さらに言えば、変われない自分にどこか焦りを感じていた。


でも、私は人を好きになる感情がよく分からなかった。


人の事をもっと知りたいだとか、ハグとかキスしてみたいとかが周りの会話を聞いてもピンと来なかった。


結局時間だけが過ぎて、いつの間にか高校二年生になってしまった。


「私は今年も変われないのかな」


去年と変わらない桜の景色に自分を重ねながら、そんな事を考えて歩いていた。


「栞ー」


ふと、後ろから私を呼ぶ声がした。よく馴染みのある声だった。


振り返ると軽く手を振る凛の姿がみえた。


「一緒に帰ろ」


「うん」


私が頷くと凛は少し微笑み、私の隣に付いた。


一緒に歩いていると時々、凛の手が私の手に触れる。


「凛、ちょっと近くない?」


「そうかな、いつもこんな感じじゃない?」


そっか、いつもこんな感じか。そう言うならそうなのかな。


「そういえば凛、また男子に告白されたって聞いたよ」


「もう噂になってるんだ。早いなぁ」


凛は困ったなと頭をかく素振りをしながら言った。


実際、凛はすごくモテた。


顔もスタイルもいいし、陸上部で走ってる姿はかっこいいしで、一言で表すとクールだった。


さらに、その反面で寝癖を付けて学校に来たり、さっきみたいに無意識に距離を近づけてきたりする天然さも兼ね備えてるから恐ろしい子だ。


「凛はさ、彼氏とか作らないの?」


「うーん...なんだかなぁ...うーん...」


凛は言葉をどもらせる。


この手の話をするのは初めてじゃなかった。


ただその時は決まって、凛はいつも曖昧な答えではぐらかす。


何か理由があるのか、何か隠しているのか。


どちらにせよ、そんな凛を見てると私は少し安心してしまう。


凛は私と違ってそういう機会があるのにそれを避ける。


つまり凛も変わることから避けてるんだ。


いや、本当にそうなのかは分からないけど。


でも凛が変わらないままなら、私も変わらなくてもいいのかなってそう思えていた。


「ねぇ、栞」


突然、凛が足を止めた。


「どうしたの」


ふぅ、と凛が一呼吸する。


「私、栞のことが好き」


その瞬間は風が頬を撫でるように、あまりにも自然だった。


私はその言葉の意味に気づくまで少し時間がかかった。


「そんな、冗談でしょ」


私の声は自分でも分からるくらい震えていた。


初めて受ける人からの好意に動揺が隠せなかった。


「冗談なんかじゃないよ」


凛は私の目をじっと見つめる。本気なんだ。


私は凛から目を逸らしてしまった。


今、凛は変わろうとしている。


今まで凛とは似たもの同士だと思っていたのに、そうじゃなかったんだ。


変われないのは私だけなのかな。


いろんな動揺が押し寄せてきて胸がキュッとなる。


「去年のこの帰り道覚えてるかな。栞が私に話しかけてくれたんだよ。入学したての時は全然クラスに馴染めなくてさ、私ずっと1人だった。」


覚えてる。あの時は私も思うように馴染めてなくて。それもあって、凛が私と似てるように見えたんだよ。


「だからあの時栞が話しかけてくれた事がすごく嬉しかった。多分それがきっかけ。それからはもう、なりゆきで...とにかく栞と一緒にいるのがすごく落ち着くんだ。」


たったそれだけなんだ。それだけの事で。


「私は栞が好き。付き合って欲しい。」


私は少し笑みがこぼれてしまう。


凛からの純粋で、真っ直ぐな思いが嬉しくて、なんだか、変わってみたいだなんて馬鹿らしく思えてしまった。


凛が好きなのは今の私。なら変わる必要なんてないのかもしれない、そう思った。


凛が私の答えを待ってる。答えを出さなきゃ。


私はふと、空を仰いだ。


桜の花びらがひらひらと舞う隙間から、空の青が見える。


それはやっぱり去年と変わらない景色だった。


でも...何かが...


不意に少し強い風が吹く、まるで私の背中を押すように。


私はちゃんと凛と向き合う。


「私、凛の気持ち全然気づいてなかった。すごい嬉しい。」


頬が、耳が、胸が熱くなるのを感じる。


「これからよろしくね。」


これが私の答えだった。


凛がクスッと笑い「やった」と呟いた。


本当に嬉しそうな笑顔で、それを見てると私まで嬉しかった。


「じゃ、帰ろっか」


凛はそう言うと、私の手をギュッと握り、歩き始めた。


あぁ、そっか、気づいたよ。


凛が笑ったり、手を握られたりしてこんなにも胸が暖かくなる。


私の恋は...いや、私自身は凛から手を伸ばしてくれた事で大きく動きはじめたんだ。


つまり、私も少し変わったんだね。それも、凛が私の事を好きになってくれたおかげで。


「ねぇ、変なこと聞くけどさ。もしも私が今と変わったら、私の事嫌いになる?」


「ううん、私は嫌いにならないよ。だって、栞は栞でしょ。」


「そっか。」


嬉しくて、つい口元が緩んで、握られていた手を解けないように握り返した。


すると、凛は私から顔をそらすようになった。照れ隠しだろうか、凛の耳が赤くなってる。


ふとまた空を仰ぐと、やっぱりさっきと同じで。


でも、去年よりも桜は綺麗で。


今年の春は少し暖かかった。

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私の春に、あなたを添えて かつどん @katsudon39

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