私望動機

かつどん

私望動機

「あなたの志望動機を教えてください。」


僕の就職活動が始まり、毎日のようにこの質問をされるのに嫌気がさしていた。


高校進学、大学進学を経験してきたが、この質問が一番嫌いだった。


高校の時はなんて言ったかな。


「貴校の校訓に共感したからです。」


そんな感じだったかな。


大学の時はなんて言ったかな。


「貴校の文学部で心理学を学びたいからです。」


そんな感じだった気がする。


正直もうあまり覚えてない。


どうにしろ、僕の志望動機なんて薄っぺらでネットの例文を引っ張ってきたようなものだった。



僕には夢とか、やりたいことが無かった。


あるとしても、人の役に立てる仕事がしたいなとかそれぐらい。


大学生の時、「友達に人の役に立つ仕事って何かあるかな?」そんな会話をした事を思い出す。


すると友達は「全部じゃね?」とそう言った。


あぁ、確かに。


その一言に納得せざるを得なかった。


もともと「仕事」ってものが人の役に立つことで、全ての仕事が誰かの人の役には立っているのだ。


だからたくさんある仕事の中から、この仕事を選んだ理由が必要なのだ。


どうして、この仕事で人の役に立ちたいのか。


どうして、自分の能力、才能とかがその仕事に活かせると思ったか。


でも僕にはそれが無い。


憧れの仕事もなければ、能力も才能も、これだけは誰にも負けないなんてものは持ってない。


結局、僕はからっぽな人間なのだ。



ここ最近、よく夢を見る。


「あなたの生存動機を教えてください。」


冷たい目をした面接官がそう聞く。


僕は答えられない。


遠回しに「やりたいこと、才能、能力も何も持たないやつが、なんで生きてるんだ」そう言われている気がした。


すると続けて面接官は「あなたの死亡動機を教えてください。」と聞く。


やっぱり僕は答えることが出来ない。


「生きる理由も死ぬ理由も無い、何がしたいんだお前は」そう言われた気がした。


「じゃあ無能な僕はどうしたらいいですか。」


僕がそう面接官に聞くと「以上で面接を終わります。」そう言って部屋から出ていってしまう。


そして僕だけが部屋に取り残される。


そんな夢だった。



月日が経ち、晴れて僕は就職した。


相変わらず僕はからっぽだった。


生きてる理由も死ぬ理由が見つからないから。


僕は就職した後もずっと、自分の志望動機を考えている。

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私望動機 かつどん @katsudon39

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