第20話 ビデオ通話

 紫音視点


 彩那さんの寝顔がめちゃくちゃ可愛い。シングルサイズのベッドだから、くっついて寝れて幸福感が物凄い。新しいベッドが届くのが楽しみなような、届いて欲しくないような……


 寝る前にお酒を飲んで、そのままベッドになだれ込んで、可愛い寝顔を堪能してから私も眠った。

 朝も私の方が早く起きたから、寝顔を眺めながら幸せに浸っていれば、父親から電話がかかってきた。


 確かに、恋人が一緒に住んでくれることになって、挨拶したいって言ってくれてる、とは寝る前にメッセージを送ったよ? でも、朝早過ぎない? どれだけ待ち望んでたの??


 離れたくなかったけど、一応こっちから連絡を取りたいって言ったし、リビングで電話をしてダッシュで戻ってこよう。


「もしもし?」

「紫音ちゃん、おはよう」


 相変わらず無駄に爽やかだな……


「あのさ、今何時だと思ってるの……?」

『朝の6時?』

「分かってるんじゃん……早すぎるでしょ。お母さんは仕事?」

『さっき帰ってきて、今はシャワー中』

「お母さんが出るのを待ってからでよかったのに」

『それがさ、一緒に入りたかったのに邪魔って』

「いや、別にそんなこと聞いてないけど」

『今日もさ……』


 しょんぼりしながら、今日あったことを話しだす父……親が仲良いのはいい事だけど、娘に話す内容じゃないって。


「毎回のことだけどさ、お母さんに怒られるよ?」

『大丈夫。優美ゆみちゃんはまだシャワーだから』

「後ろ」

『……え? ……優美ちゃん、早かったね?』

『はぁ……声がするから何かと思えば……それで、娘に何を話してたのかな?』


 呆れたようにため息をついて、冷たい視線を送る母。こっわ……これ絶対聞いてたわ。


『いや、何にも!! えっ、ちょっと、優美ちゃん、本気?? 本気で?? ねぇ、ゆみちゃんーー』


 父の耳元で何かを言うと、半泣きで縋っていて、また何かを言われて大人しくなっていた。


『さて、恭介は放っておいて……』

『ゆみちゃん、ひどい』

『彩那ちゃんはまだ寝てるでしょ? 朝早くからごめんね』


 まとわりつく父を無視して話す母、強い。


「うん。まだ寝てるから、早く戻りたかったりする」

『分かってる。一緒に住む話だけど、彩那ちゃんに強制はしていないのよね?』

「もちろん。ちゃんと、同意の上」

『良かった』


 母の場合、父のファンの暴走の危険性が高くて、安全のために、と縋られて同棲をすることになったと遠い目をしていたから心配してくれていたんだと思う。私の場合、ファンなんていないし危険なことなんてまず無いけど。


「彩那さんが起きて、確認して今日で大丈夫なようなら、こっちからかけるね」

『分かった。じゃあまた』

「また」


 ビデオ通話を切って、相変わらずな2人だなぁ、と苦笑してしまった。間違いなく、父はお説教だな。


 急いで寝室に戻って隣に潜り込めば、振動で起こしてしまったのか彩那さんが目を開けた。良かった、ギリギリ間に合った。


「彩那さん、おはよう」

「おはよ」

「起こしちゃってごめんね? もう少し寝る?」

「ううん。起きる」


 まだ眠そうな彩那さん、めちゃくちゃ可愛い。


「いつから起きてたの?」

「少し前だよ。さっきまで電話してて」

「電話?」

「うん。親から」

「ご都合どうだって?」

「向こうは大丈夫だって。昨日の今日だし、今日じゃなくてもいいからね」

「私も大丈夫。メイクしてからでもいいかな?」

「もちろん。向こうはまだ夕方だし、急がなくていいよ」


 大体30分後くらいなら、と言われてメッセージを送れば、問題ないと返事が返ってきた。

 なんだか私まで緊張するなぁ……



「彩那さん、大丈夫?」

「うん。緊張するけど、大丈夫」

「あ、お父さんの距離感がバグってるけど、通常運転だから気にしないでね」

「そんなに?」

「うん。私なんて控えめだからね。彩那さんに嫌がられたくないし」

「え」


 隣に座る彩那さんがすごい目で見てくるけど、すぐに分かるよ。


「じゃあ、かけるね」

「うん……っ」


 ビデオ通話を繋げば、母にくっついて満面の笑みを浮かべる父と、苦笑する母が映って彩那さんが驚いたのが伝わってくる。


『彩那さん、初めまして。紫音の母です。驚かせてごめんなさいね』

「あ、いえ。初めまして。横川 彩那です」

『で、こっちが紫音の父です』

「よろしくお願いします」

『うん。よろしくね』

「さっき少し話したけど、彩那さんが一緒に住んでくれることになって、挨拶したいって言ってくれて」


 最初の挨拶が終わったところで、早めに本題に入る。長引くとイチャイチャし出すから。主に父が。


「ご挨拶が遅くなりましたが、紫音ちゃんとお付き合いさせていただいています。こちらに住まわせて頂きたいと思っています」

『住んでくれるって決断してくれてありがとう。紫音のことよろしくお願いします』

「こちらこそ、よろしくお願いします」

『紫音ちゃん、いい子見つけたねぇ。さすが僕と優美ちゃんの娘だね。ねぇ、優美ちゃん?』


 彩那さんと母が和やかに挨拶をしているのに、母にちょっかいを出し始める父。もう少し我慢してもらってもいい? あ、怒られてる。


『ふぅ……積もる話は会った時にするとして……彩那ちゃん、今日は朝早くからごめんね。会った時に高宮家配偶者達が作ってるトリセツを渡すけど、それまでに紫音が何かしたらすぐに連絡して? 時々予想もつかない方向に暴走するから』


 え? 高宮家配偶者達が作ってるトリセツ……? 私そんなの知らないよ??


「はい。ありがとうございます。連絡先紫音ちゃんに聞いてもいいですか?」

『もちろん。何も無くても連絡ちょうだい? 苦労することが多いだろうし、共感できることがほとんどだと思うから』

「心強いです」

『それじゃあ、また』

「はい。ありがとうございました」


 あっという間に、恋人が母と親しくなりました……嬉しいけど、なんだか心配です。

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