第19話 引っ越し準備

 彩那視点


「……ねぇ彩那さん、いつから一緒に住める?」


 紫音ちゃんの家に住まわせてもらう事が決まって、何か言いたげにしていた紫音ちゃんがおずおずと口を開いた。


「うーん、色々手配しなきゃだし……1ヶ月後、とか?」

「1ヶ月後!? そんなに!? 先に車である程度運んで、お休みの時に片付けに戻るじゃだめ? 私もお手伝いするから」


 ソファに座る私を下から見上げて、すぐにでも一緒に住みたい、と訴えかけてくる。私と一緒に住むことを心底望んでくれているのが伝わってきて何だか照れくさい。


「待てない?」

「待てないっ!!」

「ふふ、即答」

「ねぇ、だめ? ねー、あやなさんー」


 年下感全開の紫音ちゃんが腰に抱きついてきて甘えてくるのが物凄く可愛い。


「週末にこっちに泊まるとかは?」

「それじゃ場所が変わっただけで今までと変わらないじゃん……平日も会いたいもん」

「かわい」

「彩那さんは? 会いたくない?」

「会いたいよ」

「それなのになんでだめなのー!?」

「ふふ。駄々っ子?」

「あー!! 子供っぽいって思ってるんだ……ふん」


 遂に私のお腹に顔を埋めて拗ね始めた。可愛い。


「紫音ちゃん?」

「聞こえませーん」

「紫音たん?」

「……聞こえませーーん!」

「スーツとか取りに行きたいから車だしてくれる?」

「……っ!?」


 がばっと顔を上げて、意図を探ろうとじっと見つめられた。


「来週から、ここから出勤してもいい?」

「もちろん!! 待ってて!!」


 そう言うなり、走って車の鍵を取りに行って、何時でも行けるよ、と笑顔を見せてくれた。




「彩那さん、この辺ケースごと運んじゃっていい?」

「うん。ありがとう」


 荷物を取りに帰ってきて、私は必要なものを仕分けして、紫音ちゃんはそれを運んでくれている。

 物は少ない方だと思っているけれど、こうしてみると結構あって、この機会に使わないものは断捨離しよう。


「彩那さん、あと運ぶものある?」

「大きいものは引っ越し屋さんにお願いするし、もう無いかな。あ、予備の布団ってある?」

「布団? ベッドで一緒に寝るでしょ?」

「シングルサイズだよね……?」

「うん。くっついて寝れるから私は大歓迎」

「うーん、毎日となると……」


 私の家もシングルサイズだけど、週末だけだったし、さすがに毎日はきついな……


「よし! この後家具屋さん行っておっきいベッド買お?」

「賛成。でもすぐには届かないよ??」


 一緒に住めるのに別々? という悲壮感が溢れていて、今日は色んな紫音ちゃんが見られて嬉しい。


「……布団持っていく?」

「届くまで1週間くらいかな? それくらいならいっか」

「彩那さん、好き!!」

「私も」


 素直なところも、気持ちをちゃんと伝えてくれるところも、大好き。



「ダブルとクイーンならどっちがいい?」

「どっちでも。彩那さんにくっついて寝るし」

「……うん。余裕を持ってクイーンにしよっか。寝室広かったし」

「気にいったやつあった?」

「いくつかあるけど、紫音ちゃんの希望は?」

「彩那さんと一緒に寝られればどれでも」

「じゃあ、候補見て意見貰える?」

「任せて!」


 いいな、と思ったベッドを紫音ちゃんに伝えれば、ここがいいね、と言うポイントが同じで嬉しくなった。

 最終的に決めたベッドのお金をどっちが払うかで揉めたけれど、買い替えたいのは私だし、私が出すと押し切った。

 渋々折れた紫音ちゃんは、食器とか小物は出すと張り切って吟味している。早いうちに、光熱費とかもしっかり話さないとね。



「よし、これが最後かな。彩那さん、おかえり」


 2人で荷物を運び入れて、私のものが増えた部屋を嬉しそうに見渡して、改めておかえり、と言ってくれた。


「うん。ただいま」

「あー、やば……」

「紫音ちゃん?」

「嬉しくて泣きそ……」


 ちょっと待ってね、と目を手で覆った紫音ちゃんに愛しさが溢れて、ぎゅっと抱きつけば優しく抱き締め返してくれた。




「彩那さん、お酒飲まない?」

「飲みたい!」


 美味しい夜ご飯を食べ終えて、紫音ちゃんから飲もうとお誘い。最初の出会いがアレだったから、飲み過ぎないようにしなきゃ。


「何がいい? 作るよ」

「え? 作る?」

「うん。真帆ちゃんの手伝いしてた時があってさ」


 棚からシェーカーや他の道具を出しながら、何が飲みたいかを聞いてくれる。え、家で本格的なカクテルが飲めるってこと?


「甘い系で、紫音ちゃんにおまかせでもいい?」

「任せて」


 ニコッと笑って、手際よく準備を始めた紫音ちゃんを眺めながら、お店のお手伝いをしていた時はどれだけモテたんだろうと余計なことが頭をよぎった。


「お待たせ。どーぞ」

「ありがとう。綺麗」

「テキーラサンライズにしてみた。乾杯」

「乾杯」


 赤とオレンジの華やかなカクテルが差し出されて、飲むのが勿体無いくらい。隣に座った紫音ちゃんを見れば、同じものを口にして頷いている。


「飲まないの?」

「なんか勿体なくて」

「いつでも作るよ」


 微笑む紫音ちゃんがかっこいいし、私に向けられる視線が熱い。


「美味しい……どんな意味があるの?」

「熱烈な恋。彩那さん、好きだよ」

「……っ」


 落ち着こうと思って聞いたのに全く落ち着けない。

 そっとグラスを取られて、テーブルに置かれるのを見送れば、次の瞬間には紫音ちゃんのドアップ。ゆっくり唇が重ねられて、ソファに押し倒された。


「んっ、紫音ちゃん……」

「かわい」

「カクテル、まだ飲み終わってない」

「飲みたい?」

「うん」


 せっかく作ってもらったし、せめて飲み終わってから、と思って口にすればニヤリと笑った紫音ちゃんが起き上がってグラスを手に取った。


「飲ませてあげる」

「えっ、なんで紫音ちゃんが飲ん……っ!?」


 紫音ちゃんがカクテルを口に含むと、再び唇が重ねられて少しずつカクテルが流し込まれる。

 紫音ちゃんの分が飲み終わるまで繰り返されて、2つのグラスは空になった。一気に酔いが回った気がするし、身体があつい。素肌に触れる紫音ちゃんの手が気持ちいい。


「紫音ちゃんの手、気持ちいい」

「ちょっと、煽らないでもらってもいい……?」


 飲ませてあげる、だなんて強気だったのに眉を下げる紫音ちゃんが可愛い。


「好き」

「あーっ、もう……私も好きです。幸せすぎて怖いくらい。ずっとそばにいてね」


 ぎゅっと抱きしめられて、泣きそうな声でそんなことを言うから、気持ちが伝わるように強く抱きしめ返す。


「今日からずっと一緒にいるよ」

「……うん。ありがとう」


 身体を起こした紫音ちゃんの鼻がちょっと赤くて、愛しさが溢れる。これからは私がそばにいるから、一緒に幸せになろうね。

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