2人の恋のはじめ方
奏
第1章
第1話 出会い
「あれ、
「
バイトを終えて、居候させてもらっている美和子ちゃんの家に帰れば、今日は有給で休みだった美和子ちゃんと玄関で鉢合わせした。
「そっか、今日だっけ。送っていこうか?」
「え、本当? 助かるー!」
「すぐ出る?」
「出来れば。帰ってきたばっかりだけど平気?」
「全然へーき! 運転好きだし」
中古で購入したSUVは少し古い型だけれど、むしろデザインは新型より好きだし、前のオーナーが大切に乗っていたことがわかる綺麗さで、いい買い物だった。
美和子ちゃんに拾われる前は、少しの期間車で寝泊まりしていた時もあったけどフルフラットになるから不便はなかったし、車って凄い。
「美和子ちゃん、帰りも迎え来るよ」
「遅くなるかもだし、寝てていいよ?」
「美和子ちゃんのヒモとしてはこういう時くらいは働かないとね?」
「ふふ、じゃあお願いしようかな」
「お願いされました!」
美和子ちゃんにはお世話になりすぎてるから、こういう時くらいは使って欲しい。
「着いたよ。また帰り迎えに来るから連絡ちょうだい」
「ん、ありがとう! よろしくね」
「はーい」
お店の前で美和子ちゃんを降ろして、店の前で待っていたお姉さま方を見れば、美和子ちゃんに向かって笑顔を見せる小柄で綺麗なお姉さんから目が離せなかった。私に笑いかけられた訳じゃないのに……
何とか視線を引き剥がして、手を振ってくれた美和子ちゃんに手を振り返して、お姉さま方にも会釈して車を走らせる。間接的に私の先輩になるし、礼儀は大切だからね。
お風呂に入ってテレビを見ていれば、22時くらいにそろそろ迎えお願い、とメッセージが届いた。思ったより早い。
お店の住所も送られてきたし、迎えに行きますかね。あの小柄で綺麗なお姉さんには会えるだろうか?
美和子ちゃんに聞いてみようかな……
お店の駐車場があったから車を停めて待っていれば数人が外に出てきた。美和子ちゃんっぽいな。なんか1人抱えられてるけど……酔いつぶれた??
「美和子ちゃん」
「あ、紫音着いてたんだ! ごめん、この子も送って貰っていいかな? 家に泊めるから」
近づけばやっぱり美和子ちゃんで、この子、と言われた人を見れば送った時に気になっていた小柄で綺麗なお姉さんが、美和子ちゃんともう1人のお姉さんに両脇を抱えられていて息を呑んだ。
「……っ、良いけど、大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと荒れてて飲みすぎただけだから」
何があったんだろう? 私は知ることは無いだろうけど、なんだか胸がざわざわする。
「美和子、このイケメンが噂の同居人?」
「美和子の言う通り綺麗な顔してるねー!」
「バイトはどう? 美和子に虐められてない?」
お姉様達が興味津々、と言うように話しかけてくるから苦笑してしまった。美和子ちゃん何言ったの?
「今虐めてるとか言ったの誰ー!?」
「初めまして。美和子ちゃんには大変お世話になっています。高宮 紫音です」
もう説明済みだったのか、私が美和子ちゃんの同居人で、美和子ちゃんが店長の店舗でバイトをしている事も知っていた。
美和子ちゃんが紹介してくれたから挨拶をすればそれぞれ自己紹介を返してくれた。潰れているお姉さん以外だけど。
「紫音、片側支えてもらってもいい?」
反対側にいるお姉さんを示してるから交代して、って事なんだろうけど小柄だし私ひとりで充分だな。
「美和子ちゃん、私ひとりで大丈夫。ちょっと失礼しますね」
「「「おおー!」」」
お姫様抱っこをすれば、思った通り余裕だった。というか、軽っ!そしてお酒を飲んでてもなんだかいい匂いで落ち着くし、小柄の割にスタイル抜群……ちょっと目に毒。
「うぅん……」
起きたかな、と思ったけれど、どうやらしっくり来なかったみたいで顔の向きを変えただけだったみたい。
かわい……
もぞもぞしていたけれど、私の胸に顔を埋めるような形で落ち着いた。クッションになるような大きさじゃないから居心地は悪いだろうな……
「え、やば! 紫音ちゃん、写真撮ってもいい?」
「え……? 構いませんけど……?」
何故かきゃあきゃあ盛り上がったお姉様方に写真を撮られた。もちろんその中に美和子ちゃんもいる。皆さんいい感じに酔われてますね。
「じゃあ美和子、紫音ちゃん、
「よろしくねー!」
彩那さんって言うんだ……名前まで可愛い。お姉様方はまだ飲むらしく、わいわいしながら次のお店に向かって行った。
「さ、帰りますか。紫音、ごめんね」
「何が?」
「いや、迎えもそうだし、彩那……あ、その潰れてる子ね。彩那の面倒まで」
「全然平気」
車に戻って、後部座席を美和子ちゃんに倒してもらって彩那さんを寝かせる。起きるかな、と思ったけれどぐっすり眠っていた。
「飲み足りなくてさ、帰ったら飲まない?」
「飲む飲む! コンビニ寄って買っていこう」
コンビニに着いて、もし彩那さんが起きた時に知らない人の車だと怖いだろうから、美和子ちゃんには待っていてもらって私が買いに行くことにした。
彩那さんも起きたら飲むかもだし、多めに買っておこうかな。
「おかえり。ありがとね。足りた?」
「うん。むしろ余ったからお釣り」
「お釣りはいいよ」
「美和子ちゃん……私も一応働いてるよ? ヒモだけど」
「自称ね」
美和子ちゃんは色々と買ってくれたり、ご飯に連れて行ってくれたりと私に甘い。たまに私だってご馳走するけど、あんまりスマートにできないんだよな……
家に着いても彩那さんはよく寝ていて、さっきと同じようにお姫様抱っこで寝室まで運ぶ。
「美和子ちゃんのベッドでいい?」
「うん。いいよー」
起こさないように慎重にベッドに寝かせれば寝返りを打って、膝を抱えるような感じで小さく丸まった。え、可愛くない??
そっと布団を掛けた私を美和子ちゃんがニヤニヤ眺めてきて何だか居心地が悪い。
「……なに?」
「えー? なんでもないけどー?」
いや、絶対何でもない、って顔じゃないでしょ……
「美和子ちゃん、飲も!」
買ってきた袋からお酒やお菓子を取り出してテーブルに並べればニヤニヤした顔はそのままで私の正面に座った。嫌な予感がするなぁ……
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