グングニルは、果てない夢を見る

瑛珠

前編


 キミなら孤独って何だと思う?

 

 オイラ、変な人に出会ったんだ。

 いっつも寂しいって、一人でアウアウ泣いてるでっかい人。だから、アウって呼んでるんだけど。

 これはね、オイラと、アウと、ブンタと、ちょっとだけニィの話。ねえ、聞いてくれる?


――


「あーあ、破れちゃったークスクス」

「平民くせーんだよ、ばーか」

「これに懲りたら二度と近づくんじゃねえぞ」

「……」

 

 ちぎれた紙がバサバサと飛んで行くのを、彼――アウ――は、無言で追いかけてワタワタと拾っている。その間に三人は、満足そうに去って行った。


 王都にある学院の庭の中でも、ここはポカポカお日様が良い感じで、近くに水もあるし、思い切り芝生の上で昼寝ができる取っておきの場所なんだ。

 うーん、くあぁ〜! 眠い!

 邪魔されちゃったなあ。


 ふぁさり


 おや? 急に前が見えなくなったぞ。


「あっ、ごごめん!」

 アウが慌ててやって来て、

「あう〜大丈夫?」

 と顔にかぶさった紙をそっと取ってくれた。

 またアウて言ってる、とおかしくなった。

「昼寝してた? 邪魔しちゃって悪ぃな」

「ほんとだよ!」

 って言ったら、ものすごく悲しそうな顔で

「ごめんな……はぁ。でもちょっとだけ隣に座らせてくれ……」

 だって。

 謝るくらいならどっか行けばいいのに、変な奴だなぁ。

「別にいいよ」

 オイラだけの場所って訳じゃないし。いっつも一人でアウアウ泣くだけでしょ。害はないから。五月蝿いけど。

「いいんだね、ありがとう。今日は良い天気だねえ」

 膝を抱えて、アウが隣に座ってきた。

 うん、良い天気なのは認めるよ。お空の色、アウの髪の色と一緒だね。

 

「はぁ〜俺はいつも君に甘えてばかりだなぁ」

 また変なこと言ってる。勝手に話してるだけだよね。オイラ何もしてないよ?

「何とかしたいとは、思ってんだけどな。でも俺、暴力とかすげー苦手でさ。こんな見た目だから喧嘩売られやすくて。殴られるのが痛いって知ってるからなぁ」

「デッカイと喧嘩になるの? なんで?」

「はは、おまえには分からないか」

「わかんない」

 だよなー、とアウは拾った紙をまとめて折り畳んでから、寝そべった。寝るのかな。

 おや、腰のポケットから良い匂いがするぞ?

「お、気づいた? 食べる?」

「食べる!」

「今日は肉団子を茹でてもらった。好きだろ?」

「大好き!」

「いっぱい食べろよ、おまえに持って来たんだから」

 パクパク食べると、口の中にお肉の風味が広がるし、お団子の弾力も美味しいんだよねえ。

「ありがと!」

「どういたしまして」

 

 ピチュチュチュチュ


 鳥の声がして

 

 サァー


 風の音がする。

 すっかりお腹が膨れたぞ、眠いな。


「寝るか? 腕貸すか?」

「お腹枕でよろしく」

 オイラ、この上下する感じ結構気に入ってるんだよね。

 もそもそとお腹に頭を乗せると、

「俺も寝るよ、おやすみ」

 だって。

 全然ちょっとじゃないじゃんか!

 ま、いつものことだけどね。

 


 最初に出会ったのはいつだったかなぁ、もっと今より寒かった気がする。

 どこかふわふわな芝生で、人もいなくて静かな所ないかなぁ? って適当に学院の中を散歩してたら、此処を見つけたんだ。

 

 白いベンチも、枯れかけた小さな噴水も気に入ったんだけど、紫のパンジーが咲き乱れててすごく綺麗で。ミツバチもぷーんて散歩してて、心地よかったんだぁ。

 

 何回かここでお昼寝してたら、ある日ベンチにアウが座ってて。なぜか知らないけど、泣いてた。

 

 まぁ、今日のところはアウの方が先客なわけだし? 譲ってやるかぁと思ったんだけど(優しいでしょ)、隣座る? てズビズビしながら聞かれて。ベンチ硬いから嫌って言って、芝生に座ったんだよね。そしたらアウもベンチから降りてきて

「俺、毎日出ていけとか言われたり、意味もなく殴られたりしてさ。何もしてねぇのに……でも、勉強はしなくちゃいけないんだ。どうしたらいいんだろうな」

 どうしたら、だって。

 初対面にいきなり聞く?

「あはは、そんなこと言われてもだよなぁ」

「そうだよ」

「はー、俺相当弱ってるなぁ」

 そんなことはないけどね。

 すごく豊富な魔力の匂いがするよ。オイラ、鼻がいいからね。でも魔法使いじゃないなあ。なんだろ? ちょっとスンスンしてみるよー。


 バチィンッ


 うわ、びっくりしたぁ!

 あ、オイラのせいか。ちょっと魔力に干渉しちゃったな。


「!?」

「あーごめん、気にしないで」

「け、怪我はねぇか!?」

「大丈夫だって」

「……びっくりした、なんだ今の……」

 

 多分、アウは土属性なんだよ。

 オイラ風属性だから反発しちゃっただけ。

 でも、説明が難しいなぁ。

 

「……おまえは不思議だなぁ、なんか一緒に居ると落ち着くよ。また来ても良いか?」

 属性の相性は悪いけど、魔力の相性は良いのかもね。

「別に。好きにしたら?」

 オイラはもう行くけどね!

「はは、またな」


 


 てなわけで、ほぼ毎日のように話を聞いてあげてるオイラってば、ほんと優しいよね?

 アウは、本当は勉強をしに来ているんだけど、キゾクじゃないから他の人間達に嫌われてて、そのせいで邪魔されてて。最初は我慢してたんだけど、もう無理だってなって、ここで勉強するようにしたんだって。


 えーと、大変だね?

 

 オイラからすると、それだけ魔力がある人間てなかなかいないよ。ビリビリしてやれば? て感じなんだけど、嫌なんだって。自分は殴られたり蹴られたりしてるのにね。しばらく来ないなって思ってたら、足が痛くて歩けなかったとかって、ちょっとおバカなんじゃないかなって思う。

 


「あ、やっぱ今日もここに居たんだね」

 

 アウより頭一つ分小さいのに、アウより偉そうなのが、ブンタ。

 アウと出会う前から時々オヤツを一緒に食べてた仲だったんだけど、なんか急にすごく足が速くなって『ぶん! たったっ』てオイラのこと追いかけて来る。

 それで、ここでアウにも出会って。三人でオヤツを食べ始めたのは、こないだから。

 

「これ、新しい課題」

「あーわりぃ……」

「いいよ。またやられたの?」

 

 ブンタが呆れてる。もっと言えばいいよ。

 

「懲りないねえ。よく飽きないよね」

「多分俺にぶつけてるんだと思う」

「それで我慢するのも違うと思うけどね……」

 

 ねーねー、どうでもいいから、オヤツちょうだい?

 

「あは、お腹空いてた? ごめんごめん。干し肉あるよ」

「やったー!」

「はい、どうぞ」

 

 美味しい美味しい。噛むと余計ヨダレすごい出ちゃう。じるり。

 

「あ、休み明けの後期からちゃんと攻撃魔法来なよ。先生にも言っておいたし、大丈夫だよ」

「……分かった」

 

 モグモグ、モグモグ。

 攻撃魔法するの? アウが? まだやめといた方が良いけどなぁ。自分の魔力のこと、全然分かってないよ?

 ま、オイラには関係ないけどね。

 

「後期までの休みの間はどうするの?」

 

 ブンタも、干し肉を齧ってる。オイラの、も少し残しといてよ!

 

「今日これからギルドに戻って、ずっと修行」

 アウは、腰に差していたハンマーをするりと引き抜いて見せてくれた。

 すごく使い込んだ感じ。古いけど、なんか綺麗。

 柄が短くて地金は銀ぽいけど、凝った装飾がしてあって不思議と時々赤く光ってる。

 

「そっかぁ。王都にあるんだよね?」

 

 ブンタは干し肉を齧り終えて、手をパンパンて払ってる。オイラはまだモグモグ。

 

「ああ。北の郊外にある」

「今度見に行ってもいい?」

「もちろんだ! 乗り合い馬車で近くまで行けるから。いつでも歓迎!」

 

 アウが珍しくキラキラしてる。ギルドって楽しいのかな。オイラは興味ないけど。

 

「まあでも、おまえにしばらく会えないのが寂しいなぁ」

 

 って、オイラは別に、アウに会えなくても寂しくない。

 

「僕時々ここにオヤツ持って来るからね。一緒に食べようね?」

 

 オヤツ! さすがブンタ! 気が利くね!

 

「ふふ。じゃあそろそろ演習場に行かなきゃだから」

「おお、ありがとな」

「またね」

「またね、ブンター。干し肉ありがとー!」

 

 

「……とは言ってもな、ギルドには戻りたくねぇなぁ。親方になんて言ったらいい? 勉強順調です、って? 俺、自分が情けねえよ……はぁ」

 

 うじうじしてると頭にキノコ生えるんだよ。

 それでね、ぶぉーって毒の粉ばら撒くようになるんだよ。

 迷惑。

 

「はは、そんな顔しないでくれよ、頑張るからさ」

 

 頑張るって意味がよく分からないんだよね。一生懸命やること? ならやってるんじゃないの? それとも耐えるってこと? どこまでいけば、頑張ったことになるの?


 

「あー、みぃつけたぁ」

「こいつ、まだ居るのかよ」

「もう来んなって言ったよなあ」


 

 また例の三人だ。暇なのかな。

 すっかり場所覚えられちゃったよ。

 

「……」

「デカいだけの役立たずが」

「また泣くんじゃねえ? 泣いてみろよー」

「あ、こいつなんか持ってるぞ。武器か?」

 

 アウが手に持っているハンマーのことかな?

 

「うわー、なっまいきー」

「この俺様が取り上げてやろう」

「やっちゃえー」

 

 あれ、杖出したぞ。

 ひょっとして魔法使う気なの?

 やめた方が良いよ、そのハンマー多分……

 

「ロブ!」

 

 あーあ。

 それ確かに盗む魔法だけど、失敗多いし。

 格上に使うと自分に返って……


「うわぁっ!?」

 

 あーほら言わんこっちゃない。


「手が、手がいてえー!」

 ボタボタと、手の甲から、血が滴り落ちる。

「うわぁー!」

「テメェ、何しやがったっ」

「え? え? あう、あ……」


 うん。バカだな。

 それを使ったらどうなるのか考えずに自爆したくせに、それすら人のせいするなんて、ある意味すごいな。

 キゾクってみんなこんななの?

 おいアウ、オロオロしてないで、もう俺には手を出すな、くらい言っちゃいなよ!


「だ、大丈夫……か?」


 そうじゃないでしょ!!

 うん。おバカだな。

 知ってた。だから憎めないんだよね〜もう。


「覚えてろよ!」

「くそぉー、いてえー!!」

「許さないからなっ」


 バタバタ去っていく三人。

 一体何がしたかったの?

 あ、盗みたかったのか。でも最初は違ったよね?

 うーん、考えるだけ無駄だな、多分何も考えてないんだろうから。


「あ……ハンマーがっ」


 黒く変色しちゃった。

 元々力を失いかけてたのに魔法レジストして、使い切っちゃったんだな。


「どうしよう、これ、親父の形見なのに……」


 あー、またぐすぐす始まったぁー

 杖出された時点で、抵抗しないからだよ。

 アウならあのオレサマから取り上げるの、簡単なのに。

 仕方ないなぁ。


「ちょっと待ってなよ」

 

 ブンタ、演習場にいるって行ってたよね。

 

「えっ、行っちゃうのか……?」



 

 ※ ※ ※

 


 

「わぁ、やられちゃったね」

「!!」

「ブンタ連れて来てやったぞ、オヤツくれ!」

「ふふ、はい追加の干し肉」

「ありがと!」

 

 やっぱり労働の後はオヤツだよな!

 

「で、どうしたの?」

 

 ブンタは優しいなぁ、ちゃんと聞いてあげるんだもん。

 

「さっき奴らに魔法かけられて……気づいたらこうなって」

 

 アウって説明下手だね。

 

「はあ。講義以外で攻撃魔法を使うのは原則禁止されてるから、怪我は自業自得だし、ほっといてもすごく怒られるだろうから、そいつらはどうでもいいとして。それって、直るの?」

 

 って黒焦げハンマーを見てブンタが聞いてくるけど、あの説明で分かったのすごいね。

 

「分からない……親父の形見なんだ……」


 それからアウは泣きながら『オヤジノカタミ』の説明を始めたんだけど、話があっちにいったりそっちにいったり、誰がどうなのか分かりづらくて、理解するのが大変だった。

 途中途中でブンタが『それは誰が?』とか『いつ?』とか聞いてくれたから、なんとかなったけど。

 要は――



 今から十年前、ある村の近くの森でスタンピード(魔物がぶわ〜っていっぱいいっぱい出ること)が起こって、村人達は抵抗したんだけど、警備の人達じゃ歯が立たなくて、騎士団も間に合わなくて、ほぼ全滅だったんだって。

 

 でもアウのオヤジは鍛治職人で、この戦いが終わるまではって頑張って生き残って、武具や鎧を作ったり修理したりして、最後まで近くの街のギルドに残ってたんだって。

 

 残念ながらそこも襲われて――ギルドは特に火や魔力(武具や鎧に宿るからね)があるから狙われたんだろうね――オヤジは亡くなってしまった。

 

 後でその街にやって来た、王都の鍛治ギルドで親方をしているオヤジの友達が、オヤジの愛用してたハンマーを拾って、孤児として保護されてたアウのところに持ってきてくれたんだって。

 

『これは形見なだけじゃねえ、神器だ。辺境伯の雷槍はこれでねえと打てねえ。おめえ修行する気あるか? 親父さんの跡を継ぐか?』

 ってその友達に聞かれて。

 

 辺境伯はスタンピードを退けた英雄で、雷槍はその彼の武器。手入れが他では出来ない話を、アウはまだ五歳だったけど、オヤジに聞いて知っていたから(今英雄の話って絵本になっているらしいよ)『継ぐ』って言ったんだって。

 

 それから彼は王都の鍛治ギルドに引き取られた。つまり何が言いたいかっていうと、このハンマーが何か分からないけど、アウにとってはすっごく大切なものなんだって!――はー、ブンタがいなかったら無理だったね。絶対意味わからなかった。



 

「あの辺境伯の雷槍を打つための神器のハンマーって」

 

 ブンタが目を丸くしてる。知ってるの?

 

「もしかして……ミョルニル?」

 

 それ!

 ブンタすごい、オイラ名前忘れちゃってたよ。

 

「ミョルニル?」

 

 アウはピンときてないな。知らなかったの?

 

「今すぐ図書室行こう。確か王都の北の湖がトールっていって……あぁもう、早く!」

 

 ブンタがアウを強引に引っ張っていっちゃった。

 ま、いっか、オイラはもう一眠り。

 それにしても、トールってまた懐かしい名前だなぁ。……うん? 懐かしい? ――




 あれ? 膝枕。いつの間に?

 優しく頭を撫でてくれるのが、ニィっていって、ものすごくたくさん魔力を持ってる女の人。いつも色んないい匂いがして、傍にいるだけで居心地いいんだ。

「あら、起きたの? まだ寝てていいわよ」

 ふんわり笑ってくれるから、オイラはまた安心して寝たんだけど。

 ……徐々に周りが騒がしくなって。

「なぜだ! これでも首を縦に振ってくれぬのか!」

 うるっさー!

 だれ?

「……」

「ええい、ならば南も属国にしてくれるわ! 見ておれ!」

 バタン! とそいつは乱暴に部屋を出ていった。

「どう言えばいいの……わたくしは、何もいらないのに……」

 ニィがしくしく泣くから、お腹に頭をぐりぐりしてあげたよ。

「ふふ、優しいのね、――」

 あ、オイラの名前。

 名前――なんだっけ?



 くあぁ〜!

 寝た寝た。

 あれ、なんか夢見てたかな?

 

「……だから、すぐに親方に話を聞きに行こうよ。僕も行くから。それで、必要そうならそれ持って湖に行ってみよう」

 

 あれ、ブンタ戻ってきてたの? 気づかなかった〜

 

「……」

「どうする?」

「……もちろん行く。ついてきてくれ。頼む」

「分かった!」

 

 よーし、オイラもついてっちゃおうかな〜あ、勘違いしないでよね、気が向いただけだから。トールの名前が懐かしい気がするだけだから。

 

「……君も来てくれるのか」

「いーよー」

「はは、嬉しいな」


 乗り合い馬車で、北へ向かう。

 鍛治ギルドは、馬車の停車場からちょっと歩くんだって。

 遠出は久しぶりだなぁ。街並み、今はこんな感じなんだね。石造りの建物がいっぱいだぁ。ものづくりの工房が並んでる。オイラ鼻がきくから、鉄臭い匂いとか火の匂い、土や草の匂いには敏感なんだぁ。あ、きっとあそこが鍛治ギルトだね。魔力の匂いもするもん。


「た、ただい、ま」

 恐る恐るアウが入る。

「お、帰ってきたか、ボウズ!」

 

 頭に布を巻いた、白髪混じりで煤けた前掛け(しかも肩の紐はボロボロ)、分厚い灰色の手袋をしたおじさんが、手袋を脱ぎながら出てきた。後ろの工房の中では何人か男の人が座ったり立ったり、忙しそう。

 へえ、ボウズって名前なんだ。オイラの中ではアウだけどね。

 

「入れ入れ。お? 友達か? グハハハ、やるじゃねーか!」

「こんにち、っいたっ」

 

 バシバシ親方が肩を叩くから、全然話ができないよ。

 アッツ! 溶解炉で火がぼうぼういってる。そうだよね、硬いの溶かさないとだもんね。工房の中、ムワッとしてる。

 熱いのも暑いのも苦手!

 オイラ外で待ってよっと。あ、ちょうどいい感じの石造りの塀があった。そこで座って待ってよっと。



 カン、カン、カキーン、カキーン

 カン、カン、カキーン、カキーン


 ……


 カン、カン、カキーン、カキーン

 カン、カン、カキーン、カキーン


 ……


 規則的な金属音て、うん、眠くなるよね。

 ふあぁ〜



 ――


 

 『相変わらずよなぁ、おのれは』


 ん?


 『土とは相性が悪い。貯めるのも一苦労ぞ? 良いのか? 吾輩で』


 んん?

 

 『だっはっはっは! おのれは吾輩のことがそんなに好きか。いやつめ』


 ちがうし!


『照れるな、照れるな。ちこう寄れ、そこは寒い』


 

「んあっ!?」

 

 あれまた夢見てたかな?

 最近すごーく眠いんだよねぇ。

 もともと寝るのは大好きなんだけど。

 

 あれ、そういえば、アウとブンタどうしたかな?

 と思ったらちょうどギルドから出てきたぞ!


「ほら、取っておきの酒持たせてやる。これで湖行ってお願いしてみろ。駄目ならしょうがあんめえよ」

「あう……親方……ごべんだざい……」

「ボウズの泣き虫は直んねえなぁ。そんなデカい図体して、厳ついナリしてんのになぁ」

「――まぁ、その派手な見た目のせいで余計絡まれてる気もしますけどね」

 

 アウの髪の毛の色、すごく青いのに金色も入ってて、晴れた日のお空みたいだよ。あとなんか首に大きい痣があって、耳に色々ジャラジャラついてる。これがハデていうんだね。ブンタは髪の毛こげ茶だもんね。丸っこい頭、肉団子みたいで好きだよ。お腹減ったな。

 

「がはは、喧嘩は経験だ。ぶちのめしゃいいのさ。貴族もへったくれもねえ、男ならな。お? お前もついていくのか?」

「そうだよー」

「そりゃ心強えな。うちのボウズをよろしく頼むぜ!」

「分かった」

「がはは、じゃあ気をつけてな! 近ぇから大丈夫とは思うが夜までには戻れよ、危ねぇからな」

「ずび、分かった」

「はい」

「まかせて!」


 

 ブンタが、腰ベルトに差したナイフを確かめながら歩き出して、アウに

「道、こっちで合ってる?」

 て聞いてる。アウは黒ずんだハンマーを腰ベルトに差しながら背中に鞄を背負って

「ああ、このまま森に入って、一本道だ」

 って言うけど行ったことあるのかな。大丈夫?

 

 じゃあオイラは、念のため風の匂いを嗅いどくよ。

 ――うん、お天気は変わらないね、良かった。雨降ったら大変だからね。

 

「会えると思うか?」

「さあね」

「……だよな」

「でも、何もしないよりは良いよ」

「うん……なあ、あのさ」

「ん?」

「なんでここまでしてくれるんだ?」

「今更聞くの? ……気になるから、かな」

「へ?」

「ミョルニルが本物かどうか。あとトールが実在するのかどうか。だから気にしなくていいしお礼もいらないよ」

「おお」

 

 ブンタってすごく気遣い屋さんだね。

 オイラにもそんなのタダノホウベンて分かったよ。

 

「そうだな、本物じゃねーかもしれねえもんな」

 

 アウってほんとおバカだよねえ。

 

 あっ、二人とも、その道は違うよ。

 こっちから行かないとトールのとこに着かないよ。

 ――あれ、なんでオイラ知ってるんだろ?


 アウ、こういう時なんでか察しが良いよね。すぐ止まってくれた。

「ん? あれ、どうしたの? 急に立ち止まって」

「ブンタ、こっちこっち! 戻ってきて!」

 

 オイラが言うと、アウがオイラの顔を覗き込んできた。

 

「こっちから行くってことか?」

「そうだよ!」

 

 もー、ちゃんと聞いてよっ。

 

「……行ってみる?」

 ブンタ、戻って来てくれた。

 さすが察しが早いね。

「なんか、そうした方が良い気がするな」

「大丈夫、ついてきて!」

 二人が頷いたから、案内開始ー!


 この湖ってちょっとした迷いの罠があるんだよね。

 トールって人のこと試すの好きだから、無駄に回り道させるし、幻ばっかりだし、ほんと悪趣味。

 ――って思うってことは、きっとオイラここに来たことあるし、トールのことも知ってるんだ。忘れちゃってるけど。


 昼過ぎなのに、森の中は暗くて冷たい。木が茂ってるからお日様見えないもんね。

 そういえば、オイラご飯食べたっけ?

 お腹減ったなぁ〜

 

「見えてきた」

 

 ブンタが、遠くを指差した。その指の先を見ると、木の間に青々としたお水。周りの森の色が映ってて、青緑にも見える。

 

「少し休憩しないか?」

 

 アウがいいこと言った! たまにはそうじゃないと!

 

「そうだね、そこの切株で」

 

 軽く上の葉っぱを払って一人一つ腰掛ける。すごく太くて立派な切株。でも切り口が荒々しいなあ?

 

「あだだ、ケツに、さ、刺さる」

 

 アウってそういうとこあるよね。

 座る前に確かめたらどう?

 

「はー。ちょっとどいて」

 ブンタがナイフでガリガリ上を削る。

「はいどうぞ」

「……すみません」

 背中を丸めてアウが座り

「お手数おかけしました……」

 だって。

 ブンタと顔を見合わせて笑っちゃった。

 なんでこんなデッカイのに心は小ちゃいのかな。

 まあオイラは嫌いじゃないけどね。見た目と全然違うって面白いもん。

 

「ほら、水飲もう」

「おう、あ、干し肉もらってきたぞ。ほら」

「やったあ!」

 

 かみかみじゅわわぁ。

 これこれ! おいし!

 

「ふふ。さ、念のため手順を確認しよう。湖のトールの石碑に着いたら」

 ブンタが言うと、アウが頷いた。

「酒を供えて、ハンマーを置いて……」

「祈る言葉、覚えてる?」

 アウが小さく頷いてる。ほんとかな。

「――創造神イゾラの豪胆たる友人トールよ、豊穣の雷神よ、今一度ミョルニルに貴方様の加護を賜りたく参上致しました。どうかお聞き入れください」

 

 長い言葉よく覚えられたね? おりこうさん!

 

「昔っから親方が、明け方ギルド開ける時にこんな感じのを祈ってるから、自然と覚えてる」

 褒めて損した気分!

「それなら心強いね」

「……」

 アウ、緊張するのはもう少し後だよ?



 ――シィー



 ん?

「!?」

 ブンタが、耳聡くその音を聞きつけた。

 マズイ。


 ――シャアー、シャアー


 近寄ってくるその音の主は。

 


「っ! サーペントだ! 逃げろ!」

 

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