厄介ごと
お父様とお母様にティアが連れて行かれた後、私はレオ兄様の部屋へと来ていた。
「学園は楽しくやっているかい?」
「はい。仲良くしてくださる友人にも出会えましたし、何事もなく……、何事もなく進めばいいのですけど」
「まあ無理だろうね」
「……そんなはっきりと言わないでください巻き込まれるのは私なんですよ」
「ごめん、ごめん。ただリリにはティアがいるだろう。1人じゃないというのは心強いものだよ」
それはそうなのですが……こう、ティアがアレと一緒にいるとこう、なんというかモヤモヤするんですよね。ティアが汚されている感じがして……
「ティアのことが心配なのかい?」
「心配に決まっています。ですが、私のためと言われると強く言えません」
「まあもう少し信じてやるといい。それに、そろそろ今の平穏はなくなって来ると思うよ」
「? それはどういう……」
その後、何度尋ねてもレオ兄様は答えてくれませんでした。なのに、まさか自分の教室で解答が目の前にやって来るだなんて……
「おいっ! 毎度毎度、俺の話を無視しやがって……、おいっ! 今すぐにデンに嫌がらせをするのを止めろ!」
「またいつもいつも唐突に、デンとは一体誰のことですか?」
「貴様! 自分の妹の名前すら……! 皆のもの聞いたであろう。コイツは自分の妹の名前すら覚えていない畜生なのだ! そんな者を王妃としていいと本当に思っているのか!」
大層ご立派な演説を始める殿下。しかし、残念なことに私の妹は自分の名前すらちゃんと教えていなかったみたいですね。
教えられなくても王族なら調べることぐらい出来ると思うのですけれどね。知れるのに知らなかったという事は、それほどの想いでもないという事でしょう。
「(リリア様の妹って確かクリスティーナ様よね。デンと呼ばせる事はないと思うんだけど……)」
「(たぶん偽名ではないでしょうか? まさか殿下と会うのに本名を言いたくなかったってことはないでしょうし……、リリア様に気を遣ったのではなくて?」
ヒソヒソと話しているのはティアの名前について、それほどまでにティアの名前は知られている。まぁ、ここは話に合わせてみましょうか。
「ああ、デンですね。ですが、愛称ではなくお名前をお聞かせ願いますか? もしかするとローズ家を語った者かもしれないので」
「そんなわけないだろう! それにデンはデンだ! 存在を忘れるぐらい虐待していたという事か!」
「あ〜はいはい、デンですね。デン……デンね……」
家でいつもの仕返しにからかってみようと思ったけど、家でアレの事を思い出したくないし……悩ましい所ですね。
「(リリア、もう少し丁寧に扱ってあげないと可哀想ですわよ!)」
「(シシリア様……だって、あまりにも身に覚えがないことすぎてどうすればいいのかわからないものですから……)」
「(そうだとは思いますが、ちゃんと相手をしてあげないとまた癇癪起こしてうるさくなりますよ?)」
そうなのですよね。これ以上うるさくされても敵いませんし、適当に身を引くとしましょうか。
「そうですわね。今回の件に関しては私に非があるかもしれません。デンの事ですね。何を虐待とおっしゃっているのかはわかりませんが、控えるようにしましょう」
「虐待していた事を認めたな! 皆の者! 聞いていたであろう! これがこの女の本性だ! 自分の妹を虐待するような奴が王妃に相応しいと思うか? いいや、そんな人物が王妃であっていいはずがない!」
頭は全然良くならないのに、いつのまにか演説は上手くなりましたね。しかし、私は別に王妃になりたいわけじゃないんです。それに、このような噂を広められても痛くないほどには成果を残して来ています。あなたとは違って。
ですが、これで私への非難が増えるのであれば、この国への未練がなくなるでしょう。そうなれば私から出て行けばいいだけですね。
冷めた目を向けられていることに気づかず、アレはまだ同じ内容を言葉を変えながら繰り返し演説を行う。
私が出て行った後の国の将来が少し心配になりました。
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