妹に

 お昼休み、昼食を早々に切り上げて私はある場所へと向かう。


「! ローズ様! どうしてこちらへ……はっ! クリスティーナ様なら今は……」


 言い辛そうに顔を顰めるティアのクラスメイト。彼女もティアが今何しているのか知っているのでしょう。


「大丈夫です。今日の用事はティアではなく、別の方ですから」

「別の方……ですか?」

「はい。ヴィンセント様はいらっしゃ「ワタクシですか!」……いらっしゃるみたいですね。今お時間はありますか?」

「勿論です!」


 他の人には話を聞かれてはまずいので、教室からサロンに向かう。その間彼女はずっとソワソワしていた。


「紅茶でよろしいですか?」

「ヒャい! いえ、入れるならワタクシが!」

「いいのです。呼び出したのは私ですし、お口に合うかはわかりませんが……」

「! とても美味しいです!」

「そうですか、それはよかった」


 ようやく緊張は解けた……とまでは言いませんが、ようやく話せるような状況になるまで落ち着いたようなので話し始める。


「単刀直入に言います。ティアは今、何を考えているのですか?」


 私の質問に、彼女は顔を引き攣らせる。


「わ、ワタクシには彼女が何を考えているかわ、わかりませんわ」

「そうですか。それでは今、ティアが何をしているかご存じで?」

「そ、それも知りませんわ」


 ヴィンセント様は知らぬ存ぜぬを貫き通すらしい。その様子では知っていると言っているようなものですが……。ティアにでも何か言われたのでしょう。


「そうですか……残念です」


 あからさまにホッとする彼女。ですが、私だって無策で来たわけではありません。

 彼女がティアと同じ人種だという事を知っているのです。


「残念です。私に新しい妹ができると思っていたのに……」

「ぇっ!?」

「素直な子なら、公に私の妹と言ってくれてもいいと思っていたのですけどね……」

「た、例えばリリアお姉様と呼んでも……」

「勿論いいですよ。私が許しているのです。誰の目も気にする必要はありません」

「愛称で呼んでくれたり……」

「本当の姉妹ではないとはいえ、姉と慕ってくれているのです。勿論愛称で呼んでほしいと言っていただけるのであれば呼びます」

「全部話しますわ!」


 少し心が痛むけれど、これもティアのため。一回注意してまたやるという事は、それをしなければまずいと判断したという事でしょう。

 もしそうなら、聞いたところで素直に話すとは思えません。


 それにしても……上手く行くとは思っていましたが、ここまで簡単に頷かれるとは思っていませんでした。


「つまり、ティアは婚約を白紙にするためには破棄するしかないと、それも自分を愛させて誘導するしかないと思っているのね」

「はい。おそらくそれが1番早いと思っているのだと思います」

「私が散々怒らせたらとか考えないのかしら?」

「それならもう婚約破棄されているのではないでしょうか?」

「…………そうね」


 おそらく陛下辺りがアレに助言しているのでしょうね。私と婚約破棄すると王にはなれないと。無駄に素直だから、納得はしていないけれどその言いつけを守っているのでしょう。

 私が居ないと王になれないという事は、アレ自身に王となる器がない。そう言っているのと同義なのですけどね。それも気づかないのでしょう。


「ありがとうございます。これからもティアの事を教えてもらえますか?」

「勿論です! そ、それで……リリアお姉様……あの……わ、ワタクシのな、名前……」

「そうでしたね。スフィア、ティアのことも含めこれからもよろしくお願いしますね」

「はい! お任せください!」


 ティアを裏切った。そんな思いを少しでもしていそうなら、何かしらフォローをしなければと思っていましたが、その必要は無さそうなので少しホッとする。


 とりあえずティアの考えはわかりました。後はどうやって王位にしがみ付こうとしているアレを引きずり下ろすのかはわかりませんが、何があってもティアを守れるようにレオ兄様と相談しませんと。

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