誘導
Side:クリスティーナ
「殿下、今日もお姉様と何か一悶着があったのですね。私の所にも噂が来ましたよ」
「いや……、それはだな……」
「別に隠さなくていいですよ。今回はお姉様の方が悪いと思います。案内をするにしても殿下に一言あるべきです」
「!……そうだ! アイツは俺に何も言って来ていない! そうだ、私は何も悪くない!」
はぁ……。別にあなたが悪くないとは言っていないのですけどね。それに、信頼がないのだから重要な話はされないに決まっているでしょう。
そう言いたいのをグッと堪えて、笑顔で話しを続ける。
「それよりも殿下、お姉様との婚約破棄の話しは進んでいますか?」
「い、いやそれはだな……大丈夫だ。心配ない」
「……うそ……ついてますよね。私、そう言うのわかるんです。私の事なんてどうでも良くなりましたか?」
「そんなことはない! ……だが、今はダメなんだ。父上が言うには、今リリアと婚約破棄をすると俺は王にはなれないらしい。俺は王にならないといけないんだ。だから、今はまだ婚約を続けたままだ」
……嘘は言っていない。陛下はコレの味方という事でしょうか? いえ、おそらくコレにも道を残しておきたかったのでしょう。コレに甘すぎます。だからこんな風に育ったのですね。
それにしても厄介な事をしてくれたものです。
「……殿下はどうして王になりたいのですか?」
「私が王にならないと、アイツに好き勝手されるだろう。だから私が王となり正しい政策をするんだ」
この人、本気で自分の方がお姉様よりこの国を良くできると思っている。現状を見てどうすればそんな自信が出て来るのか知りたいものです。
「へ、へぇ〜、殿下は国思いなのですね」
「ああ、そうだろ!」
国のことなんて何にも考えていない。考えているのは自分の事だけ。正しい政策と言ったけどその具体的な例もない。ただの口ばかりなのに……どこまで自信家なのか、思わず呆れてしまう。
でもそれを捨ててもらわないとね。
「殿下が正直に話してくれて嬉しいです。だから私も……誰にも言えなかった事を話しますね」
「んっ? ああ……」
「私、実は家で見張られているんです……」
――お姉様の部屋に入っている事がアンにバレてから、休憩中の人とかがたまにチェックしに来るんですよね。
「なっ!?」
「それだけじゃなく、時々、私を見る目がとても冷たいんです……」
――お姉様の服の匂いをハスハスしていた時を目撃した人は必ず冷めた目を向けて来るんですよね。酷いと思いませんか?
「……」
「酷い時には私を部屋に押し込めようと……うっ……」
――特にアンなんて最近お姉様の部屋付近にいるだけで私の首根っこを摘んで部屋に連れ帰るんだもの。私だって大きくなっているのに、どういう力をしているのかしら。
「……それは」
「指示しているのはたぶん……」
――たぶんじゃない、絶対お母様よ! アンがお母様にチクったんだわ。お姉様なら許すからって直接お母様に言うなんて!
「……必ず俺が助ける!だから、今はまだ我慢しておいてくれ!」
「……殿下……嬉しいです」
そろそろいい頃合いだと思ったところで昼休みを終えるチャイムが学園に響き渡る。
「もう……時間になってしまいましたね……殿下といると時間が早く過ぎてしまいます」
――いちいち発言が問題発言なんだもの。これからの事を考えたりしていると時間がどれだけあっても足りないわ。
「そ、そうか……ならこれからもこんな時間を作ってくれるか?」
「嬉しい……です。ですが、殿下にはお姉様が……」
「父上は必ず説得する。ローズ家の血筋が欲しいのであれば、君でも問題ないと。だから……」
「わかりました。殿下を信じます」
「そうか!」
これでいい。これで殿下の中での私は、家に居場所のない哀れな少女と映っただろう。
お互いに満遍の笑みを浮かべる。一方はこれからの進展に期待して、もう一方は思い通りに事が進んだことに対して、二人の思いは別の所にあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます