全部アイツのせい

 13歳となり、3年間通う事になる学園の制服に袖を通し、鏡を見る。

 家族に打ち明けてからの2年間、王家との距離を少しとった為にアレとの接触の機会は格段に減りました。しかし、アレは何度か押しかけてきてはティアを出せと騒ぎ出した。仕方なく私が対応すればお決まりの暴言を吐くだけ。知性も何も感じられず、ただの雑音の塊という認識でした。


 学園ではアレを毎日見なければならない事に加え、何がいいのかアレを狙う令嬢も相手しないといけないなんて。


 ――代わってくれるなら喜んで代わるわよ。はぁ……


 まだ行きもしていない学園のことを想像し、何度目か分からないため息をつく。今この部屋にいるのは自分1人のため、小言を言われる心配はない。


 そう思っていると部屋がノックされる。アンは馬車の準備中だからティアかな?

 憂鬱な気持ちを気づかれないように、笑顔を作り扉を開けると、そこには予想通りティアが待っていた。

 ティアは制服が珍しいのか目をキラキラしながら私の周りをクルクル回る。


「お姉様、とっても似合っています!」

「そう? ありがとう。ティアも来年ね」

「はい! 来年はお姉様と一緒に学園に通うことができます!」


 楽しみだな〜。ティアの楽しげな声の後に、私がもう一年早く産まれていれば……そう呟くティアの声が心に重くのしかかる。


 ――ティアがもう一年早ければ、アレは思い通りにティアと一緒になれたのかしら。両思いで幸せに……


 そんな暗い気持ちを頭を振って払拭しようとするが、また考え込んでしまう。ティアの気持ちはわからない。今も私に隠しているだけで、本当は……


 そう思ったところで部屋がコンコンとノックされる。


「お嬢様、馬車の準備ができました」

「アン、ありがとう。じゃあ、行ってくるね」

「はい、お姉様。いってらっしゃい」


 行かないという訳にはいかないので、暗い気持ちを抱えながら部屋を出る。


 クリスティーナが部屋を出ようとせず、その場でお見送りしている違和感にリリアが気がつくことは無かった。


 ――――――――――――――――


「はぁ。間違えた〜」


 鏡を見ながらため息を吐くのは部屋の持ち主ではなく、銀髪の少女。


「お姉様、勘違いしちゃったよね。あーあ、お姉様にあんな顔……させるつもりなんてなかったのに……」


 お姉様は気づいていないと思われているみたいだけど、嫌なことは結構顔に出ている。これまでもそうだったけれど、今日は悩んでいた事が全部鏡にバッチリ映っていた。


 一年早く産まれていたら。捉え方によっては私があの男とラブラブの婚約者になっているかもしれないって話になるじゃない! 私のバカ!!


 私はお姉様ともっと長く一緒に居たいって言いたかっただけなのに……同じ学年で、同じ歳を祝い合って、同じ教科の勉強をしたいと思っただけなのに……全部アイツのせいだ。はぁ……


「あんな奴にお姉様を渡さないんだから」


 そう呟く少女は姉が寝ていた布団にくるまり、枕に顔を埋めている。その顔は後悔ではなく、緩んだ表情をしていた。


「はっ!? そろそろ出ないとお母様に怪しまれちゃう」


 お姉様が好きすぎて何度か今と同じ事をしていると、1度だけお母様に見つかった事がある。あの時は言い訳をして事なきを得たけど、せめてお姉様のいる時にしなさいって言われたからな〜

 さすがに今の姿を見られると何を言われるか分からない。下手をすればお姉様と距離を置かれてしまうかもしれない。それだけは絶対に嫌だ。


 誰にも見られないようにそっと扉を開けて部屋を出る。


「クリスティーナ様」

「ひゃっあ!?」


 誰もいないと思っていた後ろから声をかけられ驚く。咄嗟に手に持っているものを隠したけれど、バレてないかな?


「ア、アン……」

「何をなさって……なんて言わなくてもその手に持っているものが全てですね」


 当然バレないはずもなく、こうなれば私にできることは謝ることしか出来なかった。


「ごめんなさい。お姉様にだけは……」

「……はぁ。構いませんよ。その代わりクリスティーナ様の枕をお嬢様の部屋に置きます。よろしいですね?」

「うん。それはいいけど、いいの?」

「クリスティーナ様はお嬢様を素直にしてくれる方ですから。今回は以前のお礼です。次は奥様に相談しますから」

「はーい」


 自分の部屋に戻り、手に入れた枕と自分の枕を入れ替えてアンに手渡す。


「今回だけですから」

「わかってる。ありがとう」


 アンが帰って行くのを確認してからもう一度枕に顔を埋める。


 お姉様が苦しむのも、私がこうやって息抜きしないといけないのも全部アイツのせいだ。

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