第22話 謝礼
「晃樹はさ、もうキスとかしたのか?」
二時間目と三時間目の間の休み時間。なんの脈絡もなく、東寺がふとそんな事を聞いてきた。
「なんだ急に。
しかも、会話の途中でふいに聞いてきたとかではなく、僕の席にやってくるなり開口一番発した言葉が今のそれだった。いくらその事が前々から気になっていたとしても、さすがにぶっ飛び過ぎだ。
「いや、高梨さんと付き合い始めて、もう二週間だろ? そろそろ進展したかなって」
「しても言うか」
「なんでだよ。いいじゃん、減るもんじゃないし」
「そういう問題か」
たく、人の恋愛事情なんて知ったところで、何が
「そういうお前はどうなんだよ、
「あー……」
僕の質問に、露骨にテンションを下げる東寺。
「なんかすまん」
触れてはいけない話題だったらしい。あまりに今まで通りだったものだから、以前と同じように考えていたが、実際はそうではないようだ。
「いや、別に何かあるってわけじゃないんだけど。逆に今まで通り過ぎるというか、何事もなかったかのような感じで助かってるはずなのに、なぜかこっちが戸惑うっていう……」
「
「うっ」
まぁ、言いたい事は分かるが、関係がぎくしゃくしてないのだから、本来は喜ぶべきだろう。
「分かってるんだ。分かってはいるんだけどさ……」
頭では分かっているが、感情がそれを許さないってやつか。難儀な話だ。
「
「まぁな」
その辺の話は東寺から詳しく聞いている。二回目の告白を神村さんに予約した事も含め。
二回目の告白か……。同じ相手にもう一度告白するって、どういう気持ちなんだろう? まぁ、東寺の場合、完全に断られたわけではないから多少状況は違うかもしれないけど、一回目の告白と勝手が違う事は確かだろう。
一回でも大変なのに、それを二回もしなければいけないなんて、本当にご苦労なこった。
そもそも、一度も告白した事のない僕にはその気持ちが分からない。自慢ではない。むしろ、そういう事の出来る人に憧れや
「
「お前こそ、なんだよ急に」
「いや、なんとなく、深い意味はないんだけどさ」
意識して発したわけではなく、ふいに口を突いて言葉が出てしまったのだ。
なんやかんや言って、僕も六年来の悪友の
「まぁ、額面通り受け取っておいてやるよ」
「何をー。偉そうに」
お互い言い合い、少しの間
「「ぷっ」」
どちらともなく吹き出し、
「「あはは」」
同時に笑い合う。
そんな僕らにクラスメイトの視線が一瞬集まったが、すぐに興味を無くしたように元の位置に戻る。なんだこいつらかという反応だろう。誰なら良くて誰なら悪いというわけではなく、反射的に声の発生源を確かめただけといったところだろう。
「あ、そういえば――」
話が一段落した事もあってか、東寺が何やら思い出したように、自分の席まで行き、そしてすぐに戻ってくる。
「お前にこれを渡そうと思ってたんだ」
そう言って東寺が、僕の前に差し出してきたのは、二枚の紙切れだった。
「なんだこれ」
受け取り、それをまじまじと
紙には、店名と持ち帰り用チケットという文字が書かれていた。
どうやら、このチケットを見せると、ガトーショコラを一つ貰えるらしい。
チケットに書かれた店名は
僕自身はまだ行った事はないのだが、噂はよく聞く。店内は然程広くないが、全体的にシックな装いで、とにかく雰囲気がいいらしい。デートにはもってこいという話で、いつか僕も行ってみたいと思っていた。もちろん、恋人と。
「貰い物だけど、この前の借りの返済代わりって事で」
この前の借り? あぁ、遊園地デートの言い出しっぺが誰かってやつか。まぁ、金額的には妥当なところかな。
「じゃあ、
二枚のチケットを僕は早々に財布へとしまう。
「おう。高梨さんでも誘って楽しんできてくれ」
「そうだな。氷菓さんに聞いてみるよ」
早速、今日の昼休みにでも聞いてみよう。
……考えてみると、氷菓さんの好みってあまり聞いた事なかったな。何が好きで何が嫌いか、いい機会だし聞いてみるのもいいかもしれない。
「ちなみに、トウジはこの店行った事あるのか?」
「
「いや、神村さんと行ってる時点で、お前も立派なカップルだろ」
「まぁ、な」
とはいうものの、東寺の気持ちも分からないでもない。結局のところ、傍からどう見えるかではなく、自分自身の気持ちが大事という事なのだろう。
「ちなみに、お
「お勧め? うーん。ココナッツケーキかな。チョコとかチーズの王道もいいんだけど、独特な甘みがたまんないんだよな」
「へー」
こちらから聞いたのだ。注文する時の参考にさせてもらおう。まぁ、参考にするだけで、実際に注文するかどうかはまだ分からないけど。
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