彼女は従姉妹か異母妹か。複雑に血が繋がっていて、それを知らずに恋人の関係になる多角関係
愛LOVEルピア☆ミ
第1話 外国部とは?
◇
春休みは長いようで短かった。始業式の日、生徒玄関前に張り出されている表を確認する。一般クラスしかない松涛第二学園は、二年生になる際に一度だけクラス替えが行われる。
「えーと、俺は二年一組か。他所のクラスからの知ってる名前は二人……案外少ないな。ってかまたあいつと同じクラスかよ。どんだけ一緒になれば終わるんだコレ?」
やれやれと思いながら階段を登っていく。一組の教室、一年の時に同じクラスだった者同士や、部活の仲間が一緒になってグループを作っていた。一種の独特な雰囲気は、中学や高校の入学直後が一番色濃いだろう。
「おー晶、来たな!」
「恭治、また一緒かよ」
高橋恭治(タカハシキョウジ)、中学からずっと同じクラスの悪友だ。この顔を見ると安心してしまう。ずっと地元で生活してたらこういう関係はさほど珍しくもない。
「俺とお前は離れられない運命なんだよ」
「男にそう言われても嬉しくない」
名前が貼られている席を探して腰を下ろす。恭治が寄ってきた。
「なあ、このクラス可愛いの多いな。ひひひ」
物凄く嬉しそうに抑えた笑いを漏らす。近くに居る女子が変な視線を突き刺しているのは気にしない。言われて教室を見回してみる。今の席が最前列なので後ろを向いたら眺めが良くなった。例の知った名前の二人を他の女子と比べてみる、確かに美人の部類に入るものだと改めて思ってしまう。
――佐々木と星川か、あいつ等やっぱ美人なんだよな見慣れてるけど。あとは……あー、あの二人結構可愛いな。
仲良さそうに喋っている二人組、どこかで見たことがあるような無いような。片方を思い出した。倉持紫苑(クラモチシオン)とは一度、新生商店街にあるブラックベリーというレストランで話したことがあった。
「そうだな。恭治の好みが居るようで良かったよ。ま、俺にはあまり関係が無さそうな面々だ」
早速担任がやって来る。始業式に参加するために出席番号順に並べ、と号令をかけられた。体育館で佐伯理事長のありがたい言葉を頂くと、またぞろぞろと教室へ戻った。儀式とはこういうものだ。
「では席替えとクラス委員長の選出をする。まずは委員長だ、立候補や推薦は?」
誰しもが顔を見合わせて教師を見ない。面倒ごとなので成りたい奴など居るわけもないのだ。が、意外や意外、居た。
「立候補する」
佐々木悠子(ササキユウコ)が抑揚の無い声調で手を上げていた。他には誰も居なかった、皆が安堵の表情を浮かべてすらいる。
https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139555094790502
「そうか、ではクラス委員長はえーと……佐々木に決める。早速だが席替えをお前がやってくれ」
「承知した」
彼女を知る者ならば別に今さらであるが、知らない者は妙な喋り方をするものだと変に思っているだろう。異質なのは喋り方だけで見た目は皆と変わりは無い、制服だって規格の物を身につけている。
ルーズリーフを一枚バラバラにして、数字を書き入れる。それを二つに別けて浅めの箱に入れた。黒板に数字を羅列する、規則正しい並びだ。
「男子、前列の席の者からクジを引きに来い」
そう命令する。あれが男ならばイラっと来るやつも居るだろうが、表情は少なくても整った顔の彼女に言われ、誰も嫌な顔をしなかった。晶もクジを引く。黒板の数字を探した。
「ラッキー、一番後ろだ」
順番に男子が引き終わると、今度は女子が引き始める。委員長は最後に余った席になるようだ。隣が誰になるかと思っていたら、ふわふわした感じのお嬢様ぽい娘だった。
――あれさっきの……近くで見ると凄く可愛いな。ってか気付かなかったけど、胸が凄いな! 佐々木よりあるんじゃないか?
彼女は晶を見て固まってしまっていた。余程隣になるのが嫌だったのだろうか、表情はどこか驚いているような感じをしている。 ようやく席につくと「あの……綾小路百合香(ヤノコウジユリカ)です」自己紹介してきた。自信が感じられない消え入りそうな声だった。
https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139555094703967
「あー、俺は榊晶(サカキアキラ)、よろしくな」
様子がおかしいけど、どうかしたのかと不思議がっていると、反対隣からも声を掛けられる。そちらは真逆、自分を中心に世界が回っているとでも考えているのだろう感じすらした。
「ふん、榊が隣なわけ。まあいいわ」
星川夕凪(ホシカワユウナ)、つんつんした女で顔見知りだった。晶が通っていた道場の役員の一人。間違いではない、彼女が役員を務めているのだ、それも数年前からずっと。腰まである長く真っ直ぐな髪、だが初対面でもきつそうな瞳に注目が行くだろう。
https://kakuyomu.jp/users/miraukakka/news/16817139555094752420
「はいはい、よろしくな星川」
「何なのよその態度は」
「別に何でもないよ、いちいち突っかかるな。ほんと昔からこうだよな星川は」
星川に目線だけ少しやるが、ほとんど顔を見ないで話をしている。それだけ気負わないで話せる間柄とも言えるが。
「ふん、私と話が出来ることを有り難く思うことね」
そう言って眉間に皺を寄せる。美人だが気難しいというか、難儀なやつというか。教壇では佐々木が推移を見守っていた。あちこちで席についての感想が飛び交う、無表情にほんの少し苛立ちが浮かんだを見抜けたのは、晶と星川だけだろう。
「お。あいつ喧しいの嫌いだもんな。長くないぞこりゃ」
星川を完全に無視してしまう。眉をピクピクさせて怒り心頭というところだが、見ていないので気にもならない。何より構っていたら巻き込まれてしまうのを知っていた。
「喧しい! 黙って着席せんか!」
委員長の一喝で、当たり外れを嘆いていた奴等が一瞬で口を閉ざす。隣の綾小路も何かを言いかけて止めてしまったようだ。教師はよしよしと、委員長にも座るように指示した。
「これで今期は勉強するぞ。配布物を受け取ったら今日はお仕舞いだ。明日の入学式準備などもあるから邪魔するなよ」
その配布物、佐々木委員長にまとめて渡して教師は姿を消した。種類ごとに別けて、席の前列に配って回る。全て行き渡ったのを確認すると、彼女は例の抑揚の少ない調子で「では解散」号令した。まるで遥か昔から委員長であったかのように、皆も素直に従う。
「いやー似合うよな仕切屋が。道場でも半ば師範代だったしな」
解散と言われてからも黙って椅子に座ったままの晶。部活がある者は明日の新人獲得の打ち合わせに消えていく。
「あの……」
「ん? えーと、綾小路だっけ、帰らないのか?」
部活はしていないようで焦っている様子は無い。何か返事をしようと考えているのか晶をみる。
「あらっ、確か……榊よね?」
すぐ隣に倉持がやって来て話しかけた。人差し指を唇につけて短く考え記憶を呼び起こしたようだ。
「ああそうだ。お前倉持だよな」
「え、お二人は知り合いなんですか?」
綾小路はどうして? という言葉が似合う表情をしている。 同じ学校、同じ学年でもクラスが違えば顔も知らない奴が殆どだ。名前を互いに知っているのは驚きだったのだろう。
「あはは、ちょっとね。百合香どうかした?」
「いえ、その……」
歯切れの悪いことこの上ない娘だった。かと言ってイラつくことはない、何故なら可愛らしいからだと晶は思った。それで殆どのことは許されてしまう、男の性だろう。チラチラ胸に視線が行くのもある程度は仕方ない。
「お前ら部活入ってないのか? まあここに居る時点でそうなんだろうけどさ」
「私入ってるわよ」
即答する。殆どの部活所属者は教室に残っていないはずだ。全員を把握などしていないが、入学時の勧誘の激しさを思い出すと想像がつく。
「マジか! じゃあなんでここ居るんだよ、人集めするんだろ」
「だってうちは新人勧誘とか必要ないし」
あっけらかんとして答える。綾小路と違い話しやすい奴だな、そう感じた晶だが視線を倉持から移す。
「なあ綾小路、さっきも言いかけてたけど、何かあったか?」
自分から言ってやらなければ、喋りづらいことでもあるのかと聞いてみる。何よりそのままでは気になってしまう。
「その……違ったらごめんなさい。あの……もしかして、えと……学園前駅のホームで、私を助けてくれたのって榊君ですか?」
「え、ホームで? …………あーはいはいはい、もしかして下に落ちて困ってたのって綾小路か?」
ぱっと顔が明るくなる、間違いではなかったと解って。
「はい! その……ありがとうございました。ずっとお礼を言いたかったんですけど、名前もわからなくて」
「え、百合香を助けてくれたのって榊だったの!」
以前話を聞かされていた倉持が驚く。結構学校でも噂になっていたりもした。
「ははは、別にいいよそんなの。忘れてたくらいだぞ。大体あんなに人が居るのに放っとくのがおかしいんだよな」
些細なことだと言い切る。事実またそういうことがあっても晶は助けるだろう。ホームの線路に落ちてしまった綾小路、それを見ていた乗客は山と居たが、声を掛けるだけで誰一人助けようとする者が居なかった。足を挫き、更には電車が迫る恐怖で体が竦んでいたのを救ったのが晶だったのだ。
「榊君は私の命の恩人です。危険だからって誰も助けようとはしなかったんですよ?」
「そりゃ大げさだって」
発言に苦笑いする。良くあることではないが、そこまで言うことでもない。
「へぇー、あんたがね。うーん、でも納得かも」
最初は目を細めて晶を見ていたが、途中からパッと笑顔を浮かべた。
「何がだよ倉持」
「ブラックベリーでのこと。輩に絡まれてたの助けてくれたじゃない、私も感謝してるのよ」
新生南商店街にあるレストラン・ブラックベリー、松涛商店街にあるクランベリーの二号店だ。結構知名度が高い店で、学生の間では良く話題に上がる。
「あれだってすぐに警備員がやって来て解決だろ。俺別に大したことしないぞ? ちょっと注意してやっただけだしな」
「それでもよっ、ふふっ」
「んー、まあ良いけど。で、部活って何してるんだ?」
話を部活に戻す。勧誘がいらないとは一体。部員の数や結果が部費の額に響くので、各部共に必死なのだが。
「私達外国部なのよね」
「達? んで外国部?」
「はい、私もなんですよ」
綾小路が答えた、疑問の半分が解決する。残りを求めて倉持に視線を向けた。
「長きに渡り封印されていた外国部、第四代部長倉持紫苑よ。活動内容は十年以上前から不明! アハハハハ!」
人差し指を立ててビシっと中空を指す。多分意味はないだろう。
「なんだそりゃ。倉持って面白いやつだな、ははは。元気溢れるってやつか」
一緒に話していて悪い気が全然しない。それどころか次を求めるかのような終りに自然となるので、会話をしていて飽きない。
「ねっ、これからちょっとクランベリー行かない?」
「ん、ブラックベリーじゃなくてか?」
「うん。だって私の家、松涛北だもの」
「そうなのか? でもあそこでバイトしてたよな?」
学園がある松涛を挟んで正反対に住んでいるらしい、そんな遠くにわざわざバイトしに来る理由とはなんだろうか。
「オープニングの応援よ、私はクランベリーのスタッフなのよ」
「あー、そうだったのか。そういや、やけに店員数多かったしな」
開店時は忙しい、それだけでなくトラブルが続発する。手練が派遣されるのはサービスの常だった。倉持の今の話しぶりからしても、接客が上手なのは納得できた。
「ほら、解ったら行くわよっ」
「んだよ強引だなおい。何かサービスでもあるのか?」
別に行きたくないわけではない、何か一言反発したかっただけだ。若さゆえに。
「この紫苑さんに任せなさい! サービスしちゃうわよ!」
片目を瞑って自信満々ポーズを決めてくる。
「お、そうか? 期待してるぜ!」
瓢箪からコマとでも言うのだろうか、色よい返事があった。
「あ、私も行きます」
晶が立ち上がって鞄を掴んだので、慌てて綾小路もそれに追随するのだった。三人で歩く、学園から商店街までは十五分ちょっとで着いてしまう。話しながらでもさほど掛からない。中へ入ると店員がにこやかに席に案内してくれた。
「今日は落ち着く日ね!」
「なんでだ?」
「乙女には色々あるのよ」
理由を知らない者には全く意味が解らない一言だ。だからこその言葉なのだろうけれど。
「わけわからん、ここもメニューあっちと一緒なんだな」内容を見て気付く。細部は違うのかも知れないが、そこまで覚えていない「あー、そういえばサービスって何だよ」
「美女同伴サービスでぇす!」
倉持が両手を広げて笑顔でそう言う、綾小路が恥ずかしそうにしながらポーズを合わせた。数瞬の後、晶が軽い溜め息をつく。
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