そこに在る花は?
俺は、後藤と言う四十歳の親父だ。
信じられないと思うが俺は今密室に閉じ込められている。
どこを見ても白い壁。
前方に一本のガーベラ、白い床から生えている。
まるで夢の中のようだ。
というか本当に夢の中、現実とは違う世界に来てしまったみたいだ。
密室の真ん中で一人、胡座をかいて脱出方法について考える。
扉などない。
排気口などない。
在るのはただ、白い壁。
所持品を探すとポケットに一本の煙草、
使いかけのライター。
役に立ちはしないが、これがなくなったら俺はいよいよ終わりだと思った。
思考はなぜ閉じ込められたかにシフトする。
小学生の時に昆虫をとっては育てきれずに殺してしまっていた事か、
中学生の時にお婆ちゃんの花瓶を割ってしまった事か、
高校生の時に中途半端な反抗期を迎えたか、
大学生の時にバイトを一日サボった事か、
脳は今まで犯した悪事で膨張していった。
この中だとお婆ちゃんの花瓶が関係してきそうだ。
「お婆ちゃんの仕業か…?」
しかしどう考えても不自然である。
何故ならお婆ちゃんはつい一ヶ月前に他界した。
生きている時はいつも煙草臭くて、
俺を見るなり
「情けないねぇ…」
と吐き捨て、忌み嫌っていた。
そんなお婆ちゃんが大嫌いだった。
次に何故花が生えているのかについて考える。
しかし、この花に関しては何もわからなかった。
手掛かりも掴むことができずに不貞腐れ、密室の中で少し寝た。
すると中学生のときの夢を見た。
「うるせぇよ‼︎」
と怒鳴りつけて横にあった花瓶をお婆ちゃんのすぐ後ろに投げつけた。
花瓶は見事に割れ、水と一緒に花が
溢れ出すように飛び散った。
確かお婆ちゃんが俺の帰りが遅い事の理由を糾弾してきて、腹が立っていた。
「なんてことするの!」
俺に怒鳴る。
「もう二度と口きかないからな」
そうお婆ちゃんに吐き捨て俺は部屋を出る。
ここで目が覚めた。
嫌な夢だったがこの夢のおかげでだいぶ昔のことを思い出してきた。
割った花瓶はお婆ちゃんが大切にしていたものだった。
いつも同じ花が入れ替わりで活けてあったような気がする。
これはお婆ちゃんが亡くなってから母親から聞いた話だが
お婆ちゃんは割れた花瓶を
「ごめんねぇ…ごめんねぇ…」
と言いながら片付けていたらしい。
何に対する謝罪なのかはわからないが。
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