夢を食む探偵。

変わった探偵。

俺は大林、新人の刑事だ。

最近は「後藤」と言う男の死について調べていた。

平日の昼間、マンション二階の後藤の部屋で死体は見つかった。

何か重大な事件ではないかと騒ぎになったが、

調査結果はなんてことない餓死だった。

この男、一ヶ月前から休職していたらしく

お金もなくなり餓死したのだろうと判断された。


しかし俺は今、ある謎に直面している。

と言っても事件自体は解決しているのだが、俺の中でずっと引っかかることがある。

どう頑張ってもこの謎が解けない。


「事件自体は解決しているし」

と、自分を納得させようとしたがやはり気になってしょうがなかった。

もしかしたらこの謎に事件の真相が隠れているかもしれない…


そこで、その謎の解明に少しでも近づくため

「バク」と言う異名のついた変な探偵を呼ぶことにした。


呼んだ理由は一つだけ、

依頼料が他の誰よりも安かったからだ。

少し怪しい感じはしたが、自分のちっぽけな

謎を解くために大金を払うわけにはいかなかった。



探偵とは事件が起こった部屋で待ち合わせをしていた。

ドキドキしながら待っていると

扉からだらしない服装の男が入ってきた。

「止まれ!ここは立ち入り禁止のはずだ。」

そう発すると男は

「いえいえ、怪しいものじゃございません。依頼を頼まれた探偵です。」

と聞こえるか聞こえないかくらいの音量で

ボソボソと呟いた。

「あっ、失礼しました。」

と口では言ったが内心は

(ハズレを引いたな)

と思っていた。


世間話も兼ねて「バク」と言う少し変わった

異名について尋ねてみた。

すると探偵はニヤリとして、

「今まで調査してきた現場にいた刑事さんが付けてくれました。少し恥ずかしいけど気に入ってますよ。」


と髪の伸び切った頭を掻きながら、少し的外れな返答をした。


探偵に事件の詳細を説明し、解決してほしい謎の事を伝えた。

すると探偵は、

「わかりました。」

とすぐに承諾した。

もしかしたら部屋に入った段階で何かを掴んでいたのではないか…

もしかするとこの探偵は姿見からは想像もできないような天才なのではないか…

という淡い期待を抱いたが、

彼は悩む素振りを見せず側にあった椅子に腰掛けて、眼を瞑ってしまった。


この時、異名「バク」の意味がわかった気がした。

バク(獏)とは人の夢を食べて生きる幻獣のことを指す言葉だ。

しかしこの場合、この探偵が夢を食べるのではなく、

この居眠り探偵が夢を食べられていると言う意味で使われているのだろう。

この異名は愛嬌でもなんでもなく、刑事の皮肉だった。

この皮肉に気づかずに気に入っているこの探偵は

余程の素直か、余程のアホだ。


「やはりこの探偵、ハズレだ。」

と少し落胆しながら

「あの…寝ていないで調査をしてくれないですかね」

と言うと探偵は素早く口に人差し指を当て

「シーッ。今調査中です。」

と呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る