第16話 奴隷商
ガラムとキーランの旅亭。そこは、旧王都に存在する。そこに近づくものは人っ子1人おらず、もぬけの殻。
ここ、神聖王国リアモスの旧王都。5000年前までは存在していたらしいが、大災害が原因により、壊滅した。と、アンナさんは言った。今じゃ、廃墟のように崩れそうな教会。カラスがいるだけの、崩れ去った王都。こうも不気味だと、何かが出そうだ。
(そこになぜ、料亭が存在するのか。それは分からないが、ひとまずはあの2人を助ける)
それが目的だ。足取り足取りを確実に進めていき、崩れそうな建物を避けていき、目的地まで足を進める。
「気をつけてください。ここには、崩れた壁から侵入する魔物もいるそうです」
魔物…。対処せず、使役をさせよう。だが、崩れた壁から入って来るのなら、獰猛な動物だって入ってきそうだ。俺は
ク。目のマーク。それは手の甲に存在し、力を発揮させる。
そして
と、教えられた。なぜ
くりくりっとした目は、本当にありがたい。想像していた虫とは断然違う。可愛らしいフォルムとなっており、恐怖さが全然感じられない。
今はどうでもいいか。先へと進んでいると、建物の物陰から飛び出すゾンビ。臨時戦闘態勢に移行させた、アンナさんと少しびくびくしながらも、魔法を放つ準備をするランス。
ゾンビの呻き声と、緑色の肌。使役は、可能…。
俺は目のマークが書かれている手を前に出し、アンナさん達に攻撃しないようにジェスチャーした。
「「???」」
今ならはてなマークが見えそうだ。キョトンとした顔で見る2人をよそに、俺は契約魔法を発動させる。
「———『従え、我の右腕になるものよ』」
そんな命令的な詠唱を言い、目のマークが光を放つ。ゾンビの足元には魔法陣が展開。よし、準備はオーケー。
あとは———、
「———『契約完了』」
俺がそう口ずさむと、光は更に強さを増し、ゾンビは俺の言うことを聞くようになった。
「『森へ帰れ。そして、人には危害を加えず、人に見つからない場所へと隠れる』」
ゾンビにしか聞こえないように言うと、頷き、穴が空いている壁の方へとのっそりと歩いて行く。よし、これで安全だ。人間にバレたりさえしたら、討伐されかねないのは、火を見るよりも明らかだ。
「もう、大丈夫みたいです」
「今のは……?」
「自分にしか使えない、魔法の一種です」
それだけ伝え、更に旧王都内を歩いて行く。
進んでいくと、やっと着いた。ガラムとキーランの旅亭が。すぐ目の前に。やはり名前は仮で、本来は人を売る場所とされていたみたいだ。
外見は普通。酒場なんてファンタジーでは必須と思っている。看板にはしっかりとここの店の名前が書かれている。
と言うより、なぜこんな場所をアンナさんは知っていたのだろうか?
そう言う思いで、俺はアンナさんを見る。
多分たまたまだよな。
「ここに居るのね。ヴィーゼの友達が。私にとっては友達の友達」
だから、その友達の友達はマブダチ見たいな……まぁいいや。そう意気込むランスと怒りを露わにしているアンナさん。
あの男はガタイがいい。警戒はしていた方が良さそうだ。
店の扉のドアノブを引き、ゆっくりと開ける。ギィーと言う音を出したところを見ると、立て付けが悪いのだろうか。と言うより、俺がびっくりしたのは5000年も前にあったはずなのに、建物が崩れているだけなんて。いや、持ち主が現れないからか?それとも、魔物が出るから近づく人がいないからか。
理由はどうであれ、中へと足を運ばせる。中は至って普通であるが、嫌な空気が店の中を漂わせる。なんなんだこれは…!
腐敗したようそんな臭い。最悪だ。こんな悪臭、嗅いだことないぞ。
「うッ!ひどい臭い…!」
「うぅ、こんなところよく入れたわね」
同感。ひとまず、どこに何があるのか調べてみないと…。罠とかありそうだし。
それに役に立つのが、またもや『魔力探知』能力的には優秀だね。
魔力の微動を察知して、罠かどうかを確かめる。それしか無いな。
「『
目を瞑ってそう言い、再び目を開けると自分の目に映る罠の数。トラップが多い分、大変そうだ。
「罠が存在しているみたいだ。気をつけて」
「「うん/はい」」
店の中は全然綺麗だ。どこかの店にもあるような、そんな綺麗さがある。レストランのような、そんな感じぐらい。
ここが奴隷商の奴がいるところ…。一階には居なさそうだから、二階か…。
厨房らしき場所に階段が存在する。そこにいるのだろうか。行ってみるしか、方法はないだろう。そしてもう一度『魔力探知』を使う。2階にはやはり、先程の大男が居るようだ。
必ず助け出して見せる…。絶対。
俺の心は、そんな言葉で埋め尽くされていた。心臓の鼓動が確実に脈を打っている。ドクン、ドクン。と。
こんな思いになったのは、異世界に来たからだろう。地球では多分ほとんどない。日本は平和ではあったからな。家族が人質になったとか、そんな事は生きているうちには起きなかった。運がいい?なんと言えばいいか、分からない。
こんな感情は、まさに。ゲームなどで味わった感情。臨場感がある?いや、違うな。臨場感じゃない。
———伊達に40年生きて来たわけじゃない。
罠を回避し、奴隷商がいるであろう二階へと上がる。階段を登り、目の前に広がる光景は。檻の中に入っている、奴隷達。状況を垣間見た。
「なんて事を………」
「旧王都にこんな所があるなんて………」
2人はその光景に驚愕していた。なんとなく想像していた事だけど、最悪すぎる…。
「ガルルッ!!」
「グォオオ!」
檻に入っている獰猛な動物たちは、暴れまくっていた。繋がっていた鎖がガチャンガチャンと音を出しながら。その中にあの2人がいた。
「ヴィーゼさん…!?」
「アンナさんも………!」
そんな2人の姿を見て、心なしかホッとしてしまう。無事……だと言うことが、とても安心してしまう。俺たちは2人が入っている檻の方へと近づき、カメリアは檻に着いてある、棒?にしがみついていた。
「…危険ですよ!どうして来たんですか!?」
ローズは声を荒々しくあげる。どうして来たか?そんなの、もう決まっている。
「……友人だから?」
俺が勝手に思っていること。俺が勝手に、2人のことを友達と思っていること。友人を助けるためなら、危険な場所だろうと、足を運ばせるさ。
あれ、今結構いいこと言った?………調子には乗らないでおこう。うん。
「友人って、いつの間に?」
「え、そう言う!?それはちょっとショック!そりゃあ自分が勝手に思ってた事だけど!!」
まさかそんな事言われるとは…。ちょっと心傷つく…。
肩を落としていた俺に、ローズさんの手が肩に触れる。少し驚き、俺は彼女を見た。ローズは優しい顔をしながら、俺に微笑みを返す。
「……ありがとうございます」
………推し変しちゃいそう。
いや、それよりもすごい素直じゃない!?気のせいか!?
そう乱していると、ふと思った。ローズの目が潤んでいる。赤色の瞳が潤み、大粒の雫が頬を伝う。
「ど、どうかした?」
その場にいた俺と、アンナさん。初対面であるランスまで驚きの表情を見せた。あれ、俺何か言ったか?と、思ってしまっていた。それを覆したのは、カメリアだった。
「ローズはヴィーゼさん達が来たことを、嬉しく思っているんですよ!」
「………!?か、カメリア!?」
微笑ましい光景を見た俺たちの後ろから、足音が鳴る。ローズとカメリアの顔が変わり、その様子を見ていた俺たちは、後ろを振り向く。
「………!?お前は!?」
「ヴィーゼさんが言っていたのは、この人ですね!!」
「よくも私のマブダチを!!」
もうマブダチになってる…。だけど、自分から姿を現したのは、正直ありがたい。
「また来たのか。お嬢ちゃん」
………お嬢ちゃんだと?立派なおっさんだったけど。まぁ、今のこの姿を見れば、誰だってお嬢ちゃんとなるのだろう。だから、何も言えん!!
落ち着け……。相手のペースに呑み込まれるな……。全然呼び慣れない“お嬢ちゃん”呼び。
あれ、ちょっと吐き気が……。
「今度は、お連れの騎士さんまで」
ぶつぶつと言っている大男は、ランスがこの場にいるのに、全く気づいていない。いや、反応を占めなさい。と言う事は、ランスの顔を見たことがない……?いや、今は違う。とにかく、この大男を倒し、2人を助ける…。
「ふっ、お嬢ちゃんじゃないけどね」
「あぁ?」
俺が突然そう言ったのか、口調が荒くなる。まぁ、身長が140〜150cm前後で、ぷにっぷにな頬で、童顔で。そんな子が突然、“お嬢ちゃんじゃない”なんて言ったら、そう言う反応を示すだろう。言い方は少し変えるが。
「———2人は必ず助けるから」
アンナさんは大剣を構え、ランスは片手を前に出し、魔法を放つポーズ。俺も同じ格好をする。1人で3人を相手できると思っているのか、余裕そうな笑みを浮かべていた———。
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