第15話 騎士の威圧
時刻は10時。早朝からおそらく四時間は経過しただろう。太陽の光は王国内を照らし、王国内では人々の活性した笑い声が響き渡る。この国の人たちは、普段なら賑やかだ。だが、亜人が登場すれば、それは鋭き目に変わり、冷たい目に成り代わる。
異世界に来てから10年が経った時に、ようやく分かった。この世界では、獣人など、人間とはまた違った種族がいれば、それは差別の対象だと言うこと。
そうだとすれば、俺も一応人間ではなくなると言うことだが…。
俺は成長しない種族の1人。その名の通り、成長が止まり、ずっと子供のままの体型であると言うこと。そこは少し分からんが…。
ひとまず、天気がいいことには変わりはない。と言うのを思っているのは、俺とフィンだけらしい。残りの2人は、視線を気にしている。
(…………)
どうしたものか。見てくる人物たちは、籠を持った夫人。商売をしている男性。子連れの親。ハープを持った老人。ホームレスの若造。身なりの良い貴族たち。確かにこれは、色んな意味で気にしてしまいそうだ。もし、何か起きてしまえば。
そんな時、アンナさんと同じような、甲冑を着たガタイの良い男がこちらへとやって来る。
なんだ?
睨みつけて来るその人物は、俺の後ろにいた2人を睨んでいた。
剣の柄を握りしめ、俺は冷や汗をかく。
何をする。それで、どうするつもりだ……。
腰部分に巻かれているベルトに付いていた、鞘から剣を取り出す。嫌な予感を感じる。胸騒ぎがしすぎて、心臓が痛い。
「……昨日の騒ぎがあったのは、こいつらのせいか。おい、そこのお嬢ちゃん。そいつらを渡してもらおう」
低く言い放つ男から、タダもんじゃないオーラを感じる。一体、何をするのか。予想は簡単についた。
「この子達に、何するつもり…?」
「答える義務はない。さっさと渡せ」
本当に騎士なのか。疑いたくなる。こんな人がアンナさんの同僚だとすると…。いや、今は考えてられない。この子達を助けるって決めたんだ。
「歯向かうなら、お前も…」
「ま、待ってください!」
(…………!)
後ろにいたはずのローズとカメリアが、俺と騎士の間に立ちはだかった。何をするつもりだ…。
今、笑った…?
騎士の顔がニヤついているのを、目視できた。と言うことは、こいつは騎士ではない…?決めつけとかじゃないが、騎士がそんな不敵な笑みを浮かべるだろうか。もしかすると、こいつは…。
「ヴィーゼさんには、被害を加えないでください…」
(……なっ!?)
どう言うつもりだ…?俺に、危害を加えるな?……………………俺の方が、長く生きているはずだ。多分。なのに、なぜだ。なぜ、俺を庇う。
「良いだろう。なら、ついて来い」
「…………待てよ」
このまま、連れて行かせるものか。
「あぁ?なんだ」
「あのさ、誰の命で従ってんだ?」
「ハァ?」
睨みつけて来る、その男はそんな声を出す。もし、アンナさんの知り合いなら、王の命令で従っているのか。それが分かるはずだ。もし、違うのであれば。このまま2人を連れて行かせるわけには行かない。
「誰の命で従っているんだよ」
「王女からの命令だ」
「…………そうか」
嘘だな。ランスがそんな事を言うはずがない。なぜか、信頼できるのか。どんな人物で、どんな人なのか、俺は知らない。ランスとはまだ知り合って間もない。なのに、なぜ信頼できるか。胸の内に聞いたが、明確な答えが返って来ることはなかった。
「なら、その王女の名前は?」
フルネームを知らないはずなのに、なぜ言えた。可笑しくなっている。こんなに心の底から怒りが溢れて来たのは、この世界に来て初めてかもしれない。
「……ランス・フォン・ガイウマール王女様だ。この国の人物なら、知らないものはいないだろう」
知っていた…。ランスの名前を…。と言うより、初めて聞いた。ランスが命令した?そんな馬鹿な…。だって、ランスはアンナさんがいなくなった時に、ものすごい心配をしていた。
「ガルルルッ!」
フィンも酷く興奮している。俺だって同じだ。助けるって、決めたのに…。
なんだろうか、虚しさに襲われる。俺は、なんのために、魔法を取得した?誰かを、守るためだろ。
なんのために、村を出た?強くなりたいからだろ。
そうさ。俺は、全て。全て、自分の為にやっていた。強くなって、誰かを助けることができるような、アニメの主人公のように!!
「なぁ、もう良いかよ」
「ダメだ。二人を離せ!!」
異世界に来てから、こんなに怒鳴ったのは初めてかも知れない。心臓の鼓動が可笑しい。
亜人だから何?人と違うから何?そんな理由で、連れて行かれる意味がわからない。
(焦ったって意味を成さない。…………こいつが何者なのか。それを掴まない限り、ただ単に一人で興奮しているだけの変人だ)
ここは、潔く諦めよう。2人がどこにいるのか、この“眼”さえあれば、何とかなる。
魔法で取得した、『魔力探知』。これさえ持っていれば、何処かにいるなんて、すぐに分かる。
『魔力探知』とは、その名の通り魔力を探知する為の魔法の一種。魔力とは、魔法を扱えるものの体から、僅かに放出される魔力の微力を探知し、そして居場所を伝える。異世界に機械なんてあれば、もっと良いんだろうが、ファンタジー世界でなら、それぐらいで十分。
俺はこれ以上、深追いはしなかった。自分で決断したとは言え、虚しさに襲われる。そんな時、後ろから金属音が鳴る音がやって来る。足音が二つ。
「こんな所に居ましたか…!」
「やっと見つかった〜」
聞き覚えのある声。アンナさんと、ランスだ。二人の方に顔を向けることなんて出来ない。フィンは顔を俯かせていた。同じ気持ち、なのだろうか。もし俺が、
「ねぇ、アンナさん。同僚に居ませんか?ガタイのいい男の人を」
「ガタイのいい男の人、ですか?同僚には居ませんね。騎士といっても、そこまでガタイは良くありません。隠れ筋肉、じゃないでしょうか?」
「どうかしたの?」
じゃあ、あいつは…。一体、何者なんだ。
二人の方を向く。今、俺がどんなに酷い顔をしているのか、自分からじゃわからない。だけど、2人が心配な表情をしているのがわかる。落胆している。前世ではそんなことなんて、殆どなかったのに。あるとしたら、両親が死んで、祖父母が亡くなった。事くらいだろう。
そして、心を決めて事情を説明した。すると、反応が変わる。アンナさんはその騎士に対して怒りを露わにし、ランスは酷く否定していた。と言うことは、ランスが命じたわけじゃないと言う事が分かる。そして、アンナさんは正義感が人一倍強い。俺に対しても、少し怒っていたが、その大方は先程の男だ。
2人からの証言を得て、俺は早速『魔力探知』を発動させる。
見える。全然見える。やはり、あの姿は仮の姿。そして、本当の姿は———“奴隷商”
やはり、そうか。予測としては、考えていた。だから、身を引いた。と言う理由だ。ここがどこなのか。分かれば苦労はしないが…。
ん?ここは……。
「あの、アンナさん。『ガラムとキーラン旅亭』とは、どこですか?」
「『ガラムとキーラン旅亭』……ですか?それなら、人気が無い場所に存在します。王都で言うならば、旧王都の方にですね」
この国は旧も存在しているのか。だとすれば、集まるのは、きっと———。
「教えてくださり、ありがとうございます」
「ねぇ、ヴィーゼ。もしかして……」
「………行きますよ。助けるって、決めたんですから」
身を引いた自分が言える立場じゃないかも知れない。だけど、どうしても俺は。助けたい。あの2人を。友人を。
「ならば、私もお供します。許せません…。この国の栄光とも言える騎士の姿をし、あの子達を誘拐するなど!!言語道断!!」
気持ちは分からないでもない。だけど、アンナさん。ここ、王都。日本で言うと都会だよ。もう少し静かにね。王女様連れてるし。
「わ、私もついて行くわ!」
「「お嬢様はダメです!/ランスはダメ!」」
アンナさんとの声が被った。だが、考えていることは同じだと言うこと。アンナさんは護衛対象であるランスを危ない目に合わせない為。俺は、王女様が怪我でもしたら、それは一大事。
それでもランスは、引かなかった。
「わ、私の名前を出されたせいで、ヴィーゼは助けられなかったんでしょ!?なら、私も行くわ!それに、ヴィーゼの友達なら私の友達でもあるでしょ!?」
何その友達の友達はマブダチみたいな。だけど、ありがたい。やっぱランスっていい子。
アンナさんに道案内をしてもらおう。その、『ガラムとキーランの旅亭』へと———。
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