第10話 強くなりたいと思ったきっかけ

異世界に来て10年と、何ヶ月ぐらい。俺は、ピンチに陥った。

王国へ案内をしてもらい、王国の中へ入ることは出来たのだが、あることに気づく。

……お金がない!!

どうすんの!?これ!!

……はぁ。すっかり忘れてた。村を出ていくのなら、お金ぐらい用意してたと思ってたのに!!

宿屋に泊まる資金もなく、すごく哀れみな目で見られた。なんとも屈辱的なのだろうか。いや、俺が忘れたのだ。自業自得…。うん。


「あ、なら。王宮近い家に住む?そこはアンナが住んでるし」

「お嬢様!?」

「え、マジで」


恩恵だ。ありがとう!お嬢様!!

だけど、あの反応を見る限り、アンナさんは俺を快く思ってなさそうだ。そりゃあそうか。大事なお嬢様を守る騎士なら、警戒して当たり前だろ。

そう思っていると、アンナさんはランスにしか聞こえない声で言う。


「お嬢様、大丈夫なのでしょうか?」

「え、何が?」

「あの方です。どうも、嫌な感じがして……」

「こら、アンナ。私の友人よ。と言うより、命の恩人でしょ?」

「そ、それは……」


……。

………。

…………。

聞こえないと思っているのか、一切気にしない。やはり俺は、アンナさんから警戒されているらしい。と言うより、嫌な感じとは!?おっさんの時の嫌な感じといえば、加齢臭!だけど、今はそんな事ないし、幼女だし。そこら辺は……セーフ?

あの2人の会話で苦い思い出を思い出させられた気分だ。


「あー、嫌なら結構ですよ?自分が資金を持ってきてないのが悪いので。それなら、一旦帰ろうか…」

「ねぇ、ヴィーゼ」


腕を組み、考えているとランスより声をかけられる。考えることを一旦やめ、ランスの言葉に耳を傾けた。


「はい?」

「あなたはどうして村を出たの?」

「どうして、ですか?」

「えぇ、あなたが住んでいる森は、とっても長閑だわ。小鳥たちの鳴き声も素敵だし、川も綺麗だし。それなのに、どうして?」


疑問をぶつけてくる。俺としちゃ、理由なんて強くなるぐらいだ。強くなって、誰かの為に動くことができる人物に。その為には、村を出て(ボーデンさんのスパルタ教育)から離れて、強くなりたい。森じゃ、限界がありそうだし。魔物を指摘することができれば、きっともっと強くなれる。

目標としては、ドラゴン!!


「強くなりたい、からですかね」

「強く?」

「はい、憧れているんです。強い力を持った人に。強くて、誰かを見捨てることができず、助けてしまうような、そんな人に」


俺は、そう告げた。ここでアニメの主人公〜とかは言えない。と言うより、理由はそうであっても、明確なきっかけが存在する。

俺の、小さい頃の。近所に住んでいる二つ離れたお姉さんが。


♢♢♢


そのお姉さんは、とても優しく、とても強かった。一時期はお姉様とお呼びしてたぐらい。……と言うのは、ほんの冗談だが、確かにそれぐらいの尊敬を小さい頃から抱いていた。だけどそのお姉さんは、交通事故にあった。

一緒に学校から帰っていた時、黒のランドセルを背負っていた俺と、赤のランドセルを背負ったお姉さん。その日は雨が降っていて、2人で傘を刺しながら帰っている途中、信号無視した車が突っ込んで来た。

お姉さんは俺を守る為に、庇って、足を切断する羽目になった。


当時は、ものすごくショックで、相手の親に謝罪をしたうちの両親。何度も、何度も。お姉さんに謝った。ごめんなさい、ごめんなさい。と。

その時、分かったんだと思う。自分が弱いから。

自分が弱くて、守られてばかりだから。


そんな時に見たアニメの主人公が、ボロボロになっても立ち続けて、仲間の死を見ても、立ち続けて、明日へと向かう。

そんな主人公を見て、俺は心を打たれた。一番辛いのは、お姉さんなんだって。


その日からは、お姉さんとは会っていない。会えなかったって言うのが、明確な理由。

親の転勤で引っ越す事になったから。だけど、黒電でかけることが出来た。


『もしもし?久しぶり』

『お久しぶりです。足の具合はどうですか』

『なんで敬語?ふふっ。うん、足は大丈夫。そっちはどう?』

『はい、大丈夫です』

ぎごちない会話をしながら、当時のことを思い出して話していたのは、今でも鮮明に覚えている——。


♢♢♢


まぁ、俺がそうなりたいと思った理由は、それだけど。そう思い始めたのが、小学四年。で、そこから色んな人のためにやっていたけど、彼女は出来なかった。お姉さんも早くに彼氏ができちゃったし。

はぁ、まさか、童貞のまま死ぬとは…。

と言う、何とも言えない思い出を思い出させられたぜ。ちくしょう。


「…そう。そんな人が」

「はい。なので、自分はその人に憧れて。魔法を覚えていきたいと思っているんです」

「……アンナ、王都なら魔道具とか書店があるでしょ。手伝ってあげなさい」

「え!?………強くなりたい、ですか」

「はい」


アンナさんはうーん、と唸り始める。

俺ってそこまで怪しい?ちょっとショックなんだけど…。


「……分かりました。ヴィーゼさんには恩があります」


と、真っ直ぐな目で見てくる。

まぁ、ものすごく警戒されていたけど、まぁいいや。


ともかく、泊まる場所は確保した。これからどうするか———。

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