第五章 初めての願い

田んぼがチラチラ見えるアスファルトの道を、園田さんと僕は歩いていた。


彼女は自転車を引き、僕は緊張しながら駅までの道をたどっていた。

初めての女の子との帰り道。


これが噂の学校帰りの帰り道だったんだ。


僕の気持ちは、その興奮と後悔の念の狭間で揺れていた。

園田さんと一緒に帰れる嬉しさと、プリントに告白文を書いた後悔を同時に引きずっていたんだ。


あんな不器用な告白なんて、僕でさえ想像もしていなかった。

ガリ版刷りのプリントに、HBのシャーペンの文字でデカデカと。


「好きです!」

なんて・・・・。


バカ以外、何物でもない。

山田の変なストーリーの方が百倍マシだ。


でも、春の修学旅行で山田に打ち明けてから。

ずっと、この日を夢見ていたんだ。


すくなくとも。

後悔なんかしていない。


断じて、していない。

していない・・・よな?


僕のウジウジした悩みを知ってか、知らずか。

園田さんは、うつ向いたまま自転車を引いていた。


図書委員会の終わり際。

プリントの下隅に、小さく書いた。


「今日だけでいいから、一緒に帰ってくれませんか?」


その一行を書いた後。

園田さんは顔を上げ、コクリと頷いてくれたんだ。


その瞬間。

ファンファーレが僕の頭の中で鳴った。


下駄箱から靴を出すのも、もどかしく。

僕は園田さんの自転車が置いてある校舎の隅まで一緒に歩いた。


普段は何でもない短いルートが。

とても印象に残る思い出として僕の脳裏に刻まれたんだ。


もうすぐ、駅に着く。

僕は電車に乗って家路に向かう。


短い時間はあっという間に過ぎてしまう。

僕が言葉を探している時、園田さんがポツリと呟いた。


「どうして・・・?」


か細い声があまりにも小さくて。

僕は、恐る恐る聞き返した。


「えっ・・・なに・・・?」


自転車のハンドルを握る彼女は潤んだ瞳で見つめながら、次の言葉を探していた。

僕は自分の意思とは別に、小さく呟いた。


「もう少し・・・もう少しだけ・・・」

そして、彼女から自転車のハンドルをもぎ取るようにして歩き出したんだ。


「ち、ちょっと・・・」

彼女の戸惑う声を背中で聞きながら、僕はズンズン歩いていく。


駅のそばの公園。

平凡なブランコやジャングルジムのある児童公園に向かって。


僕は何も考えず、ひたすら自転車を引きずっていったんだ。

彼女と、園田さんと少しでも一緒にいたいと思ったから。


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