クラス1のモテ男の女装が止められないんだが

鬼丸

第1話

私、白井野薔薇は名前に似合わず、全然可愛らしげのない中学二年生だ。

化粧も洋服も女の子らしいとは無縁で、知りたいとも可愛くなりたいとも全然思わない。

ましてや、人生で好きな男の子もいない。


しかし、クラスの女子は思春期ということもあり、男子にモテるため日々努力し、恋バナをしては、キラキラしている。羨ましいと少し思うようになっていた。


そんなある日、姉からプレゼントを貰った

ラッピングされた小さな箱_

中を開けるとピンクのリップが入っていた

姉曰く、「あんたも女なんだからこれぐらいしなよ。」

余計なお世話である。

今考えればこれが悪夢の始まりなんて思ってもみなかった



「なぁ、それ、どこのリップ?」

「へっ?」

びっくりして声の方をみると、到底絡む事のないいわゆる陽キャと言われるクラス1のモテ男、神谷嶺二が立っていた


「ななな、なんの事?」

「隠しても無駄。オレ、そういうの分かっちゃうんだよ。しかもかなり似合ってる。」


集まる視線とざわめく声に耐えきれなくなった私は急いで外へ出た

それもそうだろう

相手は一軍男子。私はクラスの端で数少ない友人と話す陰キャと呼ばれる女なのだ。慌てて出たっておかしくない


そう言い聞かせながら早歩きで中庭に着くといつものベンチに腰を下ろし、盛大にため息をついた


どうしよどうしよ

こんなリップ付けてこなきゃ良かった

まさか神谷君に話しかけられるなんて思ってなかったし、誰も気づかないと思って今朝試しにつけたのが間違ってた


「なぁ、なに落ち込んでんの?」

「ひゃっ!ななななな、神谷君!?どどど、どうしてここに」

「いや、だって教えてもらってねーもん。そのリップの事」

「え?...そんな事の為に追いかけてきたの?」

「そんな事ってなんだよ。男が知りたいって思うのは変なのかよ?」

「別に、、私、お姉ちゃんから貰っただけだし、自分は興味ないから..」

自分の隣に腰掛ける神谷君を横目にテンション低く項垂れた

「そんな事ないって、白井可愛いし!せっかく女の子なんだからクラスの女子みたいにもっとキャピキャピすればいいのに」

そう言われて少しムッとした

「神谷君は男の子だから分からないよ..女の子の気持ちなんて」

「あ、言ったな?こう見えても俺、美容男子なんだぜ?何度女の子になりてーって思ったか」

意外な言葉が返ってきた

ひょうひょうと話す神谷君は私が普段思ってたイメージの男子とは少し違ったみたいだ


「俺バスケやってんのだって、外でやるスポーツと違って日に焼けない様にするためだし」

「そうなの?私全然気にした事ない..」

「もったいねー!子供だからってそのまま大人になったら絶対後悔するって」

「そんな事思わないと思うけど..」

「んー、まぁ日々努力して掴むものもあるって言いたかっただけ....そうだ、白井お前放課後時間あるか?」

「え、なんで?」

「いいもの見せてやる」

そう言って笑う神谷君はなんだかとても楽しそうだった


本当は後で友達に色々聞かれそうだから面倒くさいなとか、恥ずかしいからあんまり男子と仲良くしたくないなとか、色々思考が駆け巡ったけど、あまりにも楽しそうに話す神谷君が嬉しくてついOKしてしまった。


放課後、呼び出された私は、神谷君の待つ空き教室に入るとあまりの光景に、びっくりして言葉を失った__

なぜならクラス1のモテ男の神谷嶺二君が

〝女装〟していたからだ


「おい、頼むから大声出すなよ?あと、変なことしないから鍵閉めてくれ」

「わ、わかった」

ガチャリ


動揺を隠せない私は神谷君に向き直ると「どうして女装してるの?」と聞いた


すると「俺、すっごい可愛いだろ?」

そうかえってきた

確かに女装した神谷君は凄く女の子だった

メイクもツインテールのウィッグも、どこから持ってきたか分からないスカートも、どこからどう見ても女の子だった。しかも、美少女だ。もともと顔の作りは他の男子と比べてもかなりかっこいいので、似合うのだろうと思った

と、同時に悔しかった。私、女の子なのにって


「なぁ白井、正直キモいって思ったか?」

「ううん。むしろ可愛すぎて似合ってるから悔しい。」

そういうと神谷君はフッと笑って今度は照れながらありがとうって呟いた。


そこから私と神谷君は秘密の友達になった。

メイクの仕方とか、服選びからなんでも話すようになって、放課後は2人の秘密の勉強会をするようになった。


夏休みが入ると毎日2人でコーディネートをしては、双子コーデなどと写真をとって街をあるいたりした。

とても楽しかった。

私もまさかこんなに女の子らしくなると思ってもみなくて少し自信がつき、友達にも褒められ、どんどん明るくなっていった。


しかし夏休みが終わりに近づく頃、パタリと神谷君と連絡がとれなくなった。

最初は忙しくなったのかな?とか思っていたけど、それは違った。

夏休み明けになっても神谷君は学校に来なかった。いや、来れなかったのだ


「あー、落ち着いて聞いて下さい。非常に残念ながら、このクラスの神谷嶺二君が亡くなりました。」


彼は死んだのだ_____。



何度考えても分からなかった。

彼の死因が自殺だったから。事故でも、病気でもなく、自殺_。

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。


どうして自殺なんか。



寝れない日々を過ごしある日の朝異変に気づいた。

昨日まで暖かかったのに、今朝は少し肌寒い


「野薔薇〜降りてきてご飯食べなさ〜い」

響くお母さんの声はなんだかあの事件以来聞いたことのないテンションだった。


そして何より毎日起きてすぐ確認する携帯の日付が5/10になっていたのだ_








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る