第3話鉄砲漬け

 味付けメンマはうまかった。

次の日の夕食には、インスタントラーメンに乗せて、残り全部食べてしまった。


 奇妙なことばかり起こるので、勇一はバイト帰りに、近くの神社に立ち寄った。

もしかすると、なにか悪いものでも付いているのかもしれない。


 勇一はあまり迷信などは信じない方であるのだが、神様にでも祈ってみようかという気になったのだった。


 人気ひとけのない、古ぼけた神社で、鳥居をくぐるとすぐに神殿があった。

カランカランと鈴を鳴らして、柏手を打ち、深々と頭を下げる。

特に願い事は考えていなかったが、礼拝したことで、なんとなく気持ちが軽くなった。


 しかし……


「また、出た!」

 帰り道、鳥居を抜けたところに、もう馴染みになってしまった、皺だらけの老婆の顔があった。


 目が合ったらマズイ。勇一は下を向いて、よけて通りすぎようとしたが、目の前に、にゅうっと細い腕が、差し出された。


「いや、オレは……」

「二百円」

戸惑っているうちに、無理矢理に漬物の袋を押しつけられてしまった。


「なんでだ?」

拒否しようと思ってるのに、なぜか、いつも受け取ってしまっていた。


今夜渡された漬け物のラベルには、「鉄砲漬け」と記されていた。


鉄砲漬けは、うりの種の部分をくり抜いて、紫蘇しそを巻いた唐辛子を入れて漬けたもの。くり抜いた瓜を鉄砲に、紫蘇巻き唐辛子を薬莢やっきょうに見立てている


自宅へ戻った勇一は、いつものように冷凍ご飯を電子レンジにいれてから、漬物を開封しようとシンクの前に立った。


今夜のおかずは、前日残った筑前煮と、茹でたブロッコリーだ。冷蔵庫から出してテーブルに置いた。


 いつもはスーパーのお惣菜なのだが、昨日は久しぶりに、母親が差し入れのおかずを作ってきてくれたのだった。 

母がいる時に、不思議なことが起こらなくて良かったと思った。


「鉄砲漬けねぇ」

物騒な名前だった。勇一は当然、嫌な予感がしていた。

何が起こるのか、想像するにかたくない。


 勇一は、今日も、鍋蓋と包丁を用意してから、漬物を開けることにした。

それから、深呼吸をして、漬物の袋にハサミをいれたとたん、中に入っていた瓜がぶわっとふくらんで、外袋が破裂した。


「わわわ!」


醤油の漬け汁があたりに飛び散った。。

膨らんだ瓜は、今度は急に縮んで、その反動で、紫蘇巻き唐辛子が空中に放出された。


「ブハッ」

まともに唐辛子が顔に当たり、勇一は、手で頬をぬぐった。続けて二発目、三発目。慌てて鍋蓋で防いだが間に合わなかった。


漬物の汁が目に入って、ひどく痛んだ。あわてて目をこすったが、唐辛子がしみて、痛みはさらにひどくなった。。


「マズイ、痛すぎる」

勇一はあわてて洗面所に駆け込むと、たらいに水を張り、顔を突っ込んで目を洗った。


目を洗ったので、痛みは、とりあえずは落ち着いた。

キッチンに戻ったところで、ピー ピー ピー と、電子レンジの温め終了の音がした。


<レベルアップしました!>

レベルアップしたらしいが、今回もまた、特に変わったこともなかった。


もう考えるのは止めよう。勇一は自分に言い聞かせて、夕ご飯を掻き込んだ。

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