第2話
がっかりしたおばあちゃんだったが、次の瞬間、めずらしく大声を出した。
「紘子!お前、姿が見えないと思ったら大事な法事を抜け出して、あの人に会ったのか!」
私達の目の前に立っていたのはおばちゃんだった。私のお母さんの十五歳年上のお姉さんだ。おばちゃんはいつの間に着がえたのか上品な黄色の花柄のワンピース姿だった。
広瀬さんに会えなかったことより、おばあちゃんがショックを受けたのは、おばちゃんが誰にも言わず、自分一人で法事の席から抜け出して広瀬さんに会いに行ったことだった。
お母さんは、おばあちゃんだって広瀬さんに会いたかったのにと、おばちゃんを責めた。せっかくの機会だったのに、おじいちゃんの一周忌なんだから、お参りしてもらったらよかったのにとさらにおばちゃんをなじった。
おばちゃんは何も言わなかった。
それから三年後、おばあちゃんが亡くなる少し前に、おばあちゃんが当時の事情を話してくれた。
広瀬さんとおばちゃんは恋仲になったのだ。もちろん戦争中だから、今の時代のように自由にデートしたりできない。広瀬さんのいる離れの部屋に食事をはこんで少し言葉を交わすだけだったけど、おばちゃんが恋に落ちるのには時間はかからなかった。
日本が戦争に負けた時、広瀬さんは、おばあちゃんの家の庭の隅に正座して、この場をお借りして自決すると言い張った。おじいちゃんがここで死ぬことはならん、ときっぱりと言った。おばあちゃんも、今、死んだところで無駄死にだと説得した。
おばちゃんは広瀬さんにしがみついて、生きてくださいと泣いた。おばちゃんの様子を見て、おじいちゃんとおばあちゃんは、おばちゃんが広瀬さんに恋をしていることを確信した。
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