ストームの章・その7 ちょっと真面目になってみた
ガラガラガラガラ‥‥
軽快に馬車が走っている。
6頭立ての大型馬車、その扉の部分には『マリア・ベルナー家』の家紋である『百合の花と小鳥』が記されていた。
両隣にはベルナー家付きの護衛士が4人、革鎧に胸当てという軽装で馬車の護衛を務めていた。
更に後ろからは護衛の騎士と、従者達の乗る馬車の姿も見える。
ストームはマリア・ベルナー家の家督であるシルヴィー・ラグナ・マリア・ベルナー嬢に請われて、ベルナー領の騎士団長が装備する武具一式を拵えるために、ベルナー領の首都である『辺境都市ベルナー』へと向かっていた。
綺麗に整備された街道は、時折行き交う商人や小さな隊商と出会うこともあったが、道中はモンスターの襲撃などもなく順調で、明日にはベルナー領に向かう最後の中継都市『魔導都市エルトポ』に到着する。
王女の乗る馬車に同乗しつつ、ストームはしばし考えていた。
ここにくる理由となった、王女の告白を思い出していたからである。
今、この王女に助力することが、ストーム自身の最初の【魂の修練】なのではないかと。
ふと思い立ったように『
それは今までとは違い、淡く点滅を開始している。
「なるほどねぇ。これが最初の試練っていう所か」
と静かに呟くと、椅子に座ってコックリコックリと昼寝をしているシルヴィーの姿をじっと見る。
「なあ侍女さん、シルヴィーって、今年で何歳になるんだ?」
御者台で馬車を御している侍女に、問いかけてみる。
「ことしで16歳ですね。成人になります」
この世界は16歳で成人と。よし、覚えた。
そのまま暫くは、窓の外を眺めながらのどかな旅を楽しむことにした。
○ ○ ○ ○ ○
それは、まだストームが『辺境都市サムソン』にいた時のこと。
シルヴィ王女の来訪から始まったこの件について、ストームはまず自宅に王女を招き入れると、彼女がどうしてストームの作った武具をそこまで欲しがるのか、その理由を問いかけてみた。
「まずは、詳しい話を聞かせて貰いたい」
そう問い掛けるストームに対し、王女は正面からストームの瞳を見つめつつ、静かに話を始めた。
「妾の両親は『マリア・ベルナー王国』という小国の国王と王妃ぢゃった。妾の国はな、かつては食の都とも謳われている、帝国では一位二位を争う程の豊かな王国だったのぢゃ‥‥」
静かに話を始めるシルヴィー。
ストームはじっとその話を聞いている。
「マリア・ベルナー王国は、隣国であるファナ・スタシア王国とも実り豊かな国交を行ない、争いとは全く無縁であったのぢゃ」
ゆっくりと、そして何かを堪えるように話を続ける。
「ぢゃが、そんな平和な時代は終わりを迎えてしまったのぢゃ。今から5年前、父である国王の誕生を祝う祭り事の夜に、暗殺されてしまったのぢゃ。妾の父も、母も、そしてまだ幼い弟も‥‥」
――ポタッ‥‥ポタッ‥‥
ストームを見つめる瞳から、大粒の涙が溢れている。
だが顔を伏せることはなく、とめどなく流れる涙を拭うこともなく、シルヴィーは口を開く。
「元騎士団長の話では、何時もならば厳重な警備により、王城内に不審な者が入り込むことは不可能であったという。にも関わらず、その日は賊の進入を許してしまったということぢゃ。元騎士団長殿も瀕死の重症を負い、一命は取り留めていたものの、その傷が元で病に倒れて‥‥。その時の妾は、侍女を伴って街の屋台にコッソリと出かけておったのぢゃ。もし城内に残っていれば、妾も確実に殺されていたであろう」
「それで、復讐のために武具が欲しいとでも?」
とストームが問いかける。
が、シルヴィーは頭を左右に振る。
「両親である国王が崩御し、この国には妾しか王家の血筋は残っておらぬ。が、成年でない妾は王位を継ぐことはできぬのぢゃ。当然ながら王国は解体され、ベルナー家は公爵家へとその地位を引き下げられてしまったのぢゃ」
一呼吸するため、スウッと深呼吸するシルヴィー。
「そして豊かな王国であったベルナー王国は帝国直轄の領地となり、王都は地方都市にまで引き下げられてしまったのぢゃ。その後、叔父上である『アレン・マクドガル侯爵』が後見人となって、ベルナー領に赴いてきてくれたのぢゃが」
そこで王女は拳を力いっぱい握りしめる。
「間もなく王都では竜王祭が行われる。妾は時同じくして成年となるのぢゃが、成年の儀を終えた時、王家の血筋を護る為に、現在の彼女の後見人であるマクドガル侯爵との婚礼が行われる事になってしまった。王家の血筋を絶やしてはいけないと‥‥」
「
その言葉に、シルヴィーもビクッと身体を震わせる。
その考えは恐らくあったのであろう。
だが、確信は無かったというところか。
「可能性だけぢゃ。あの日、起こった事実は誰にも判らぬ。妾と侯爵の婚礼については、帝国の『貴族院』が承認してしまっている。貴族院の決定は絶対ぢゃ。これには誰も逆らうことは出来ぬ。皇帝陛下と五大王家以外はな」
「で、竜王祭に参加する騎士団長のために、俺が武具を作るというのは?」
「竜王祭で行われる大武道大会で優勝すれば、皇帝陛下より望みのものが与えられる」
震えながら、シルヴィーはそう呟く。
「それで」
「妾は竜王祭で得た権利で、婚姻の取りやめと、女王としての統治権限を求めるつもりぢゃ。そうなれば婚姻を結ぶことなく、妾は父と母と、そして弟のためにあの国を取り戻すことが出来る‥‥敵討ちは‥‥その‥あとでも‥」
キッ、とストームの方を見る。
強い眼差しと決意に満ちた表情。
だが、先程よりも激しく涙が流れている。
「シルヴィー。それはあんたの本心じゃないだろう?」
と呟きつつ、ストームは立ち上がって王女の頭をポン、と撫でるように叩いた。
「妾の本心?‥本心は‥‥」
と告げた時、シルヴィーは堰を切ったかのように号泣した。
「敵を取りたい。あの日、何があったのか判らぬ。けれど優しかった父や母‥‥弟‥‥もう会えないのぢゃ‥‥もう一度会いたい‥‥駄目なのぢゃ‥‥もう‥‥」
絶叫するかのように、椅子から崩れ落ちつつ号泣する。
「‥‥うぁぁぁぁぁぁぁんっっっっっっ」
ストームはそのままシルヴィーの前に膝をついて、そっと頭を撫でる。
シルヴィーもまた、ストームに撫でられた途端に抱きつき、その胸元で泣き続けた。
シルヴィーの涙が止まるまで、ストームは静かに彼女を抱きしめた。そして暫くして、ようやく感情が治まったのかシルヴィーがストームの元から少し離れる。
「す、すまぬ。恥ずかしいところを見せてしまった‥‥」
真っ赤になった顔は、出会ったばかりの時の子供らしさを取り戻していた。
「さてと。それじゃあ行きましょうか。いまは少しでも時間が惜しいですから」
と告げて、家の中に置いてある仕事道具などを無限袋に放り込む。
「それでは‥‥」
「王女の仕事の依頼、お引き受けしましょう」
とだけ告げた。
○ ○ ○ ○ ○
「ストーム殿。間もなくエルアポに到着するぞ。ここの伯爵殿とは妾は懇意にして貰っておってな」
いつもの笑顔で、ストームにそう告げるシルヴィー。
馬車はそのまま受付を通り抜けると、城塞の中にある小高い丘の上の屋敷へと向かって行った。
サムソンは工業都市と呼んでも差し支えないほど、鍛冶工房が多い都市であった。が、ここは何方かというと魔導技術が発達した都市のようだ。
街の彼方此方には鍛冶工房ではなく魔導研究所といった感じの建物が並んでいる。
炉から吹き出す煙も殆ど感じられず、寧ろ魔法に使うのであろう様々な触媒の香りが混ざっていた。
「あー、マッチュが見たら喜びそうな都市だなぁ‥‥」
と静かに呟く。
「まっちゅ? それはストームの知り合いなのか? その方も優秀な鍛冶屋なのか?」
と問いかけてくるシルヴィー。
「いえ、あいつは只の料理人です。腕は確かですけれどね」
と笑いながら呟いた。
どうやら料理にはあまり関心がないのか、ふぅんと一言告げてシルヴィーはまた窓の外をじっと眺めていた。
やがて丘の上の屋敷へと馬車が到着すると、屋敷の中から執事が姿を現した。
「これはシルヴィー王女、遠路はるばるお疲れ様です」
「うむ。セバス殿も元気そうでなによりぢゃ。今日は一晩厄介になるぞ。この者は妾の連れのストームと申す」
と紹介してくれたのだが。
あれ、貴方はアーノルド伯爵の執事の方で。
「ご無沙汰していますセバス殿。ということは、ここの主というのは」
――バーーーーン
と扉が勢い良く開く。
その向こうから、ゆったりとした衣服に身を包んだアーノルド伯爵が姿を現した。
その姿、まるでギリシャ彫刻のごとく、発達した筋肉が衣服に張り付き力一杯の主張をしていた。
そしてシルヴィーの元にやってくると、跪いて挨拶を行う。
「シルヴィー王女にはご機嫌麗しく」
「アーノルド伯爵。妾との間には堅苦しい挨拶は抜きぢゃ。今宵はお世話になるゆえ、宜しく頼むぞよ」
その言葉をきいて、アーノルド伯爵は立ち上がって頭を下げる。
「では今から食事の準備をさせますゆえ。王女殿と侍女殿はこちらへ。ストーム殿、鎧の件では世話になったな」
と笑いながら告げて、屋敷へと戻っていく。
(予想通りの豪快な人だなぁ。いい
と笑いを堪えつつ、ストームとシルヴィー王女はセバス殿に促されて大きな応接間へと案内された。
様々な調度品によって飾られた応接間。
そこには、先日ストームが納品した
「シルヴィー王女、これがストーム殿が仕上げた鎧とハルバードだ」
その言葉にシルヴィーは促されて、鎧まで近寄って繁々と見ている。
「随分と傷だらけぢゃな」
遠目に見ても、かなり使い込まれているのはストームにも確認できた。
「近くの森林に魔獣が現れてな。それを討伐に向かったのだ。あれはかなり手強かった。が、ご覧の通り傷は付いているものの凹みもない。ハルバードは刃こぼれ一つ付いてはおらぬ」
自慢そうにそう告げていると、セバスが紅茶と焼き菓子を持ってきた。
「さあ、ゆっくり休んでくれ。この焼き菓子は特別製でな‥‥」
と勧められた焼き菓子を口にする。
――サクッ
としたクッキーのような感触が、口の中に広がった。
「これは、クッキーですか?」
「クッキーとは? それはダリオールという焼き菓子です」
初めて聞く菓子。
パイ生地に何か甘いクリームを詰めて焼いたものなのだろう、なかなかに美味い。これは紅茶に良く合う。
「さて、シルヴィー王女は明日の朝一番でご出発ですか? 急がないのであれば、ストーム殿を魔導工房にでもご案内しようかと思ったのですが」
「それはありがたい申し出ぢゃが、今は時間が惜しくてのう。明日の朝にでも出発したいのぢゃ」
とアーノルド伯爵の申し出に、そう返答するシルヴィー。
「では、私はこれで。明日の朝に馬車まで向かいますので。セバス殿、ちょっと中庭を散歩してきてよろしいですか?」
とストームはダリオールをもう一つ口に放り込んで味わった後、アーノルドとシルヴィーにそう告げた。
「うむ、ゆっくりと休むがよい」
「セバス、丁寧にな」
と告げられて、セバス殿に案内されて中庭へ移動する。
そこでストームはゆっくりとストレッチを行うと、いつもの日課のトレーニングを開始した。
長い馬車の旅は、体にきつい負荷がかかる。
現代で言うエコノミー症候群とでもいうのであろう。そうならないように定期的に体を休める必要がある。
と、そのトレーニングを見ていたのか、邸内の護衛士がストームの近くにやってくる。
「シルヴィー王女のおつきの鍛冶師殿ですか?」
「ん? お付きという訳ではないが、そうだな。用事があるならトレーニングが終わるまで、待っていてくれないか?」
と護衛士に告げる。
「ああ、済まなかった」
と、しばしストームのトレーニングをじっと眺めている護衛士。
いつしか眺めていた人数は一人、また一人と増えていき、ストームがトレーニングを終える頃には十人を越えていた。
「さて。トレーニングが終わったのですが。こんなに護衛のみなさんが集まっていて大丈夫ですか?」
と装備袋から汗を拭うための布を取り出し、上着を脱いで拭う。
「いや、ここにいるのは夜番ではない。交代して休んでいたものたちだ」
と告げると。
「異国の武器を見せて欲しい。セバス殿から話を聞いていて、どのようなものか一度見てみたかったのだ」
と告げた。
「ああ、そうだなぁ‥‥これなら」
と、『日本刀・試作二号』を袋から取り出し、最初にいた護衛士に手渡した。
「これが‥‥」
と鞘から日本刀を抜く。
そのまま構えて、軽く振る。
――ヒュンッ!!
と、風を切る音が聞こえてくる。
「おおお。風をいともたやすく切るとは」
そのまま交互に日本刀を手渡し、各々が構えて日本刀を振っていた。
1時間ほどして満足したのか、護衛士たちはストームの元に日本刀を戻した。
「ストームさん、このニホントーとかいう武器は、大体一振りどれ位で作って頂けるのですか?」
との質問に、ストームはしばし思考。
そしてゆっくりと返事をする。
「まあ、日本刀のランクにもよるが。今皆が振っていた奴なら、金貨100枚て所だ」
――ブッ!!
と吹き出す一行。
決して値段をふっかけた訳ではない。
サムソンの酒場のマスター、ウェッジスが作ってくれた価格表からの算出である。
「そそそ、そんなにするのですか?」
「ああ、Aランクの日本刀だからな。これぐらいは斬れる」
と手にした布を宙に投げる。
それが落ちるまでに素早く抜刀し、十文字に切断した。
――チンッ‥‥
と日本刀を鞘に仕舞い、ポトッと落ちた布を拾い上げる。
「こんな布程度、誰でもと思うだろうが、実際に自分たちのロングソードで試してみれば分かるよ」
と告げる。
もっとも、見ていた者達は皆、頭を左右にブンブンと振っている。
「む、無理です」
「自分たち、いつか金を貯めてストーム殿のニホントーを買えるようになります」
「先程までのトレーニングも、強くなる秘訣ですか?」
などなど、質問が飛び交う。
「なんだなんだ、一体何をしているんだ?」
と、一人の騎士が皆のところにやってくる。
「あ、騎士団長殿。こちらの方が、あの伯爵様の鎧と武器を作ってくれた鍛冶師でして‥‥」
と、今さっきの顛末を説明する護衛士。
「これはこれは、初めてお目にかかる。ここの騎士団長を務める『フランコ・ブロンコ』と申す。部下が色々とお世話になったようで」
と丁寧な挨拶をしてくれたのだが。
体から発している『気』というものが、どことなく異質なものに感じてしまった。
そのせいなのか分からないが、ストームはふと、こう口走ってしまった。
「騎士団長殿、よろしければ一手お願いしても宜しいでしょうか‥‥」
「ああ、吾輩も異国の剣術には興味があるのでな‥‥」
ということで、ストームとフランコは、中庭で静かに抜刀すると、素早く戦闘態勢に移行した!!
○ ○ ○ ○ ○
翌朝。
「ふう。いい朝だ」
ゆっくりと朝食を取りつつ、ストームは昨日の夜の事を思い出していた。
騎士団長との戦い。
前半はお互いに実力を半分も見せていなかったが、中盤からは騎士団長は本気になっていた。それでもストームは実力の半分も出さず、逆に色々と稽古を付ける形になってしまった。
そこからは騎士団の団員や護衛士までもが集まってきて、深夜の剣術指南が行われてしまったのである。
「‥‥やりすぎたかなぁ‥‥」
と呟いているうちに、どうやら出発の時間が来たのだろう。
軽い朝食を取った後、シルヴィー一行はアーノルド伯爵邸を後にした。
話では、今回の大武道大会にはアーノルド伯爵の騎士団の団長も、登録を済ませているらしい。
当然、あのフルプレートとハルバードを装備しての登場となるであろう。
移動中に、ストームはそのことをシルヴィーにも伝えた。
ただし、夜中に稽古をつけてしまったことは内緒にしておいた。
「そ、それは困ったことになったのう」
と移動中の馬車の中で、シルヴィーがストームに問いかけていた。
が、頭を左右に振ってストームは一言。
「あれよりもいい一品物を作って差し上げますよ‥‥」
と告げる。
それよりも、ストームには懸念事項があった。
昨日の護衛士たちの話や、日本刀を振っていた姿を見て、頭の中を幾つもの疑問が流れているのである。
(問題は、確かにアーノルド伯爵に献上した武具よりも強力な武具は作ることができる。だが、それをシルヴィーの所の騎士団長が扱いきれるかどうか)
アーノルド伯爵に納めた武具は確かに強力だ。
だが、まだそれはAランクの武具でしかない。
本気を出せばSランクの武器も作ることは出来るが、まだ材料が乏しいのと、それが回り回って自分に刃を向ける事があると大変なので、Sランクは他人のためには作る気はなかった。
それに、Sランクの武具は使い手を選ぶ。
生半可な腕では、武具を完全に使い込むことが出来ないのである。
ストームの作り上げる武器の場合、Aランクの武器でも実質はSランクに近いため、完全に使いこなすのは難しいだろう。
そう考えると、アーノルド伯爵はストームの作り上げた武具を使いこなしているのだから、末恐ろしい。
さらに付け加えるならば、あの騎士団長がストームの装備を全て使いこなせるとしたら‥‥。
「シルヴィー、この度の大会、ベルナー領の騎士団長の実力によっては、勝てないかもしれん」
「ど、どういうことぢゃ?」
と慌てて問いかけるシルヴィー。
「俺の作った武具はかならず癖がある。その能力を存分に発揮するためには、かなり修練を積んだ者でなければ難しいと思う。アーノルド伯爵邸に置いてあった鎧や武器は、それを使いこなしていた痕跡があったからな。あそこの騎士団長は、俺が言うのもなんだが‥‥強い」
――ゴクリ
誰となく息を飲む。
「そ、それならば、あの武具を超えるものをストーム殿が作れば」
「シルヴィーのところの騎士団長は、それを使いこなせるのか?」
「な、ならば‥‥どうすれば」
と問われてストームもしばし考える。
(この世界で、俺が本気で作る武具を使いこなせるのは、俺かマッチュぐらいだろうからなぁ)
「取り敢えずは、その騎士団長の腕を確認してから。それでも遅くはない」
とだけ告げると、しばし馬車の旅を満喫することにした。
仕事は到着してから。
○ ○ ○ ○ ○
数日後。シルヴィー一行を乗せた馬車は、辺境都市ベルナーの東門へと辿り着く。
「これはシルヴィー殿、おかえりなさいませ」
と門番の騎士が丁寧に頭を下げる。
「留守中に変わった事はないか?」
「つい先程、正門より『ギャロップ商会』の隊商が到着した模様です。今頃は商人ギルドの辺りにいるのではないかと」
と他愛もない会話をしているシルヴィーと門番。
「ギャロップ商会も久しぶりぢゃのう。あの隊商は毎回珍しいものを持ってきてくれるからのう。まあ、何か珍しいものがあれば届けさせるとしよう」
と告げると、シルヴィーはストームの方を振り向いた。
「ストーム殿、ここが妾の都市ぢゃ」
ガラガラと、馬車が城門の中へと入っていく。
のどかな田園風景から一転して、大きめな建物が並ぶ街の風景が広がった。
街の大きさはサムソン辺境都市の三倍程度はあろうが、サムソンよりも都市内の緑が多いのが特徴のようだ。
あちこちに大きめの公園のような場所があり、そこで人々がゆっくりとくつろいでいる。
「ストーム殿、あれが先程話していた『ギャロップ商会』の隊商ぢゃ。今は停車場で荷降ろしをしている最中のようぢゃな」
と告げられて、チラリとそちらを向く。
馬車は大きめの隊商用荷車のようで、幌をかぶせてある。
車体の横の部分には、『ギャロップ商会』の紋章であろう『鋼鉄の歯車』の紋章が刻み込まれていた。
が、ストームは隊商にはそれほど興味を示しておらず、すぐに反対側の通りを眺めている。
「この先にもう一つ、貴族たちの住まう貴族街があってのう。そこにも門があって、中に入るには許可が必要になっているのぢゃ」
と告げている最中に、馬車は貴族街の入り口に辿り着く。
と、この馬車を見て、すぐに門が開かれると、シルヴィーたちの乗っている馬車は止まることなく門の中へと走っていった。
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