マチュアの章・その7 新人育成を頑張ってます
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
絶叫を上げつつマチュアは草原を全力疾走する。
そのマチュアの左右には、同じパーティーのメンバーである人間でシーフの『セシル』と虎族の獣人でレンジャーの『イェーガー』が走っている。
――ドドドドドドドドドト
とマチュアたちの後方から、砂煙を上げて何かが追いかけてきている。
全身をモッフモフの羽毛に覆われた巨大な鳥。
体高3mほどの巨大な鳥『ノッキングバード』の群れがマチュアたちに向かって怒りの咆哮を上げ、今にもマチュアたちを踏み潰さんと追いかけてきている。
「まっまっまっマチュアさん魔法魔法」
「早く早く!!」
セシルとイェーガーが私に向かってそう叫んでいるのも判る。
けれど、現在のマチュアのクラスは【
今はただ。
ひたすら走るしか方法はない。
幸いなことに、イェーガーの使用した精霊魔法により、マチュア達の脚には【
走るだけならば、この後ろから追いかけてきているノッキングバードと同速度かそれ以上。
それ故に、今はただ、このモンスター達が疲れるまで走り続けるしかなかった。
――ドドドトッドッドッ‥‥
やがてノッキングバード達も此方を追いかけるのはやめて、森へと戻っていく。
「た、助かったぁぁぁ」
「も、もう無理。もう走りたくない」
セシルとイェーガーはその場にへたり込んでしまった。
ーーシュンッ
マチュアはその場でゆっくりと詠唱を開始すると、足元に【
マチュアたちに敵対するものは、決して侵入することが出来ない結界。
これは司祭の魔術の中でも上位に存在する。
「こ、これさっき使って下さいよぉ」
と泣きそうな声で告げるイェガー。
「あのねぇ。司祭の奇跡は高速詠唱できないのっ!! それに何でもかんでも頼らない。あなた達のパーティーに参加したのは、指導教官としての仕事も引き受けているからですからねっ」
実際には高速詠唱は存在するが、まだマチュアはうまく使えていない。
「判っていますよぉ」
「マチュアさんが入ってくれなかったら、冒険者デビューがいきなり借金から始まるところでしたからね。感謝していますよー」
と頭を下げつつセシルとイェーガーが返事を返した。
さて、どうしてこうなったかというと‥‥
○ ○ ○ ○ ○
ファナ・スタシア王国の都市の一つ、城塞都市カナン。
広大な森林に囲まれた豊かな王国の中に、カナンはある。
異世界にやってきたマチュアは、このカナンで様々な体験をしてきた。
冒険者ギルドの登録から始まり、初めての依頼に巻き込まれたり、取り敢えずの住処として借りている部屋の一階にある酒場でウェイトレスの手が足りないと言われて手伝わされたり。
とにかく都市内での雑用が日常となっていたのである。
本来の目的である【魂の修練】については、未だヒントも何もない。
となると、やるべきことは一つ。
今を生きる。である。
依頼のない暇な時は、マチュアは城外の森の中で魔法の訓練をしていた。
【
【
【
【
だが【
『調理師スキル』というものが表示されており、そこにはいくつかの魔法が記されていた。
実際に一度試したことがあるが、ちょっと人目のある所では使いづらい。
ということで普段使いのいい『魔術師』と『司祭』の魔法を徹底して練習していた。
暫く依頼も受けずにそればかりに集中していたので、そろそろ小遣い程度でも稼がないとこの世界で餓死してしまうかもしれない。
ということで、一週間ぶりに依頼を求めて、マチュアは冒険者ギルドにやってきていた。
以前お世話になったチーム『
他のパーティーに臨時に雇って貰えないかと話しかけたこともあったが、マチュアのクラスである【トリックスター】は冒険者達にとっては厄介者以外の何者でもないらしく、好き好んでパーティーを組んでくれるところはまずないそうだ。
そんな中で見つけた依頼。
それが『初級冒険者教官』である。
どこの都市にでもある『
カレッジを無事に卒業することが出来たときの冒険者たちはEクラス認定。
そんな彼らの受けることの出来る依頼は、それほど難しいものはない。
Bクラス以上の冒険者なら誰でも『初級冒険者教官』の依頼は受けることが出来るが、報酬が少ないのでいつでも依頼書は貼り付けられている。
かくいうマチュアは、何度かこの『初級冒険者教官』を受けて、ニュービー達と共に城塞近くで採集依頼や探索依頼などを行ったこともある。
「あ、マチュアさんお暇ですか?」
と受付嬢のキャサリンが話しかける。
癖っ毛のある赤髪とそばかすがチャーミングポイント。
「ええ。毎日とっても暇ですよ。依頼がなかったらまた街の外に遊びに行くところでした」
と笑いつつ返答する。
暇な時は自分のスキルやクラスについて研鑽するついでに、近くの森に住んでいるレットボアやグレートブルといった食用のモンスターを狩っているのを、ギルドの職員たちは知っている。
既に、マチュアはギルドの買い取りカウンターの常連である(きっぱり)。
「では、一件、マチュアさんにお薦めの依頼があるんですけれど?」
と依頼書をピラピラと見せるキャサリン。
「それは貼ってあった奴?」
「いーえ。依頼を受けたパーティーがいるのですが、レベル的には無理と判断したらしくキャンセルしようと思ったらしいのです。が、キャンセル料が払えないらしく、追加メンバーを募っているのですよ」
あ、初めて依頼を受けたサイノス達と同じパターン。
そのままカウンターに向かい、依頼書を見せてもらう。
「ふむふむ。依頼内容は『ノッキングバードのタマゴの確保』ねぇ。これカッパークラス用?」
依頼内容は至極簡単に見える。
ノッキングバードとは翼が退化してしまった、毛むくじゃらの鶏のような鳥である。
こいつに突かれると全身が麻痺してしまうため、ノッキングバードという名前がついている。
森ならばどこでも住み付き、そして繁殖力も高い。
タマゴも肉も全て食用になるため、街の肉屋とかでも買い取ってくれるというものである。
ただ、こいつは兎に角大きい。
体長は高さ3mほど。全身が毛むくじゃらの球体に近い体である。
つまり。直径3mのボーリングの球が転がってくるようなものだと理解していただきたい。
「基本、カッパークラスで問題はありませんよ。難易度はCです。引き受けてくれますか?」
「まあ、暇だから構いませんよ。で、他のメンバーというのはどちらで? トリックスターとパーティーを組みたいだなんて‥‥」
と呟いた時、酒場の方から二人の人影がやってきた。
一人は20歳ぐらいの男性で名前はセシル。クラスEのシーフである。
そしてもう一人が虎族の女性で名前はイェーガー。同じくクラスEのレンジャーだ。
ふたりとも、こっちを見ながら申し訳なさそうに頭を下げている。
「キ、キャサリーン、ちよっと耳をかしなさーい」
ヒクヒクを頬を引きつらせながら、私はキャサリンの耳を引っ張って一言。
「まさか『ニュービー』じゃないでしょうね」
と小声で呟く。
「あは、あはは‥‥よくご存知で。でも、でもですよ、マチュアさんなら大丈夫ですよ」
「そんな訳無いでしょ? で、依頼はいつまでなのよ」
「あと3日です。依頼期間は7日間で、もう4日間も彼らはここで待機していまして‥‥」
この馬鹿ーーーっ、と叫びたくなるのをぐっと堪えて。
「それじゃあ行きましょうか。もう時間は無いようですしね」
と挨拶をすることにした。
そして私はこの新しい冒険者達と共に、カナンの南西にある『カクリーゼ森林』へと向かったのである。
「さてと、二人ともノッキングバードの卵って見たことあるかしら?」
そう道中で二人に問いかけたら。
「カレッジでは学びましたが、見るのは初めてかな」
「同じく」
と、やや頼りなさげに告げる二人を連れて、マチュアは森の中を探索している。
(【GPSコマンド】でターゲットのモンスターのいる方角が分かると便利なんだけれどなぁ。それに司祭だと他の攻撃魔法も使えないし。打撃スキルは使えるけれど‥‥あのモッフモフにどれだけ効果があるか分からないしなぁ‥‥)
と考えつつ先に進んでいた。
幸いなことに、その日の夕方にはノッキングバードの繁殖地に辿り着くことが出来たので、あとは適当にタマゴを回収だけである。
回収するタマゴの数は全部で4つ。
直径50cmほどのタマゴを4つ。
ここから歩いて1日ほどかかる城塞都市まで、タマゴを割らずに4つ。
装備によっては滅茶苦茶難易度が低いが、ここの初心者達にとっては、A以上の難易度だろう。
「あ、マチュアさん、タマゴありましたよ」
シーフのスキルで気配を消し、彼方此方にある巣を調べていたセシル。
どうやら目的のタマゴのある巣を見つけたようだ。
ノッキングバードたちは餌でも探しに行ったのであろう。
適当に近くにある巣からタマゴを回収すると、私はバックパックから【小袋】を取り出して、そこにタマゴを納めた。
――スポッ‥‥スポッ‥‥
「ま、マチュアさんそれって」
「内部拡張の魔法がかかっている、無限に入る袋だよー」
とおどけて見せる。
カレッジ出たばかりだと、本物のマジックアイテムなんて見たことも無いだろうしなぁ。
まあここは、こいつらに実戦を経験してもらって早く一人前になって貰おう。
まさに気分は教官である。
ということで無事にタマゴを回収したので、この繁殖地からとっとと離れることにしよう。
「あ、マチュアさんちょっと待ってて下さい」
とセシルが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「巣の中に光るものがあるんですよ。ノッキングバードって光るものを集めるのですね。あ、金貨もある」
「おーい。余計なものを回収しないで、とっとと戻るよー」
と告げるものの、金貨ときいてイェーガーも彼方此方の巣を探し始める。
「ふむ。これは‥‥凄い」
金銀銅貨、指輪みたいなもの、アクセサリーと、いろいろなものを次々と自分たちの袋に詰め始める。
「さてと‥‥」
ちなみに私は巣には近づかない。
いつ親が戻ってくるかわからない巣に近づくなんてとんでもない。
この一ヶ月間で、私はこの世界の様々なことを学んだのである。
当然、この都市の付近のモンスターの生態なども、他の冒険者から教えて貰っている。
間もなく日が暮れる。
――ドドドドドドドドドドドドドト
と、遠くから地響きが聞こえてきた。
「ん? マチュアさん、この音は?」
「親鳥が戻ってきたんでしょう? ノッキングバードは巣を荒した者の匂いを執拗に追いかけ回すから、気をつけてねーーー 」
と呟いて、森の外へと歩き始める。
置いていくつもりはない。ただ、何が危険で何が安全かなど、冒険者ならば身を以て覚えてもらいたいだけだ。
「ち、ちょっと待って下さい。荷物が重すぎて‥・」
「マチュアさんの無限袋に入れてください」
無限袋とは面白い名前を付けてくれるねぇ。
でも駄目、そのイェーガーの意見は却下である。
「冒険者の鉄則その1。欲は身を滅ぼす」
そんなことを話している最中に、親鳥たちは巣に戻ったらしい。
そして巣の中に頭を突っ込むと、そのまま周囲を見渡して‥‥こちらに向かって走り出した!!
「きたぁぁぁぁぁ。か、風の精霊よ、私たちに【風の脚】を下さいっ!!」
イェーガーが精霊魔法を唱える。
レンジャーは魔法を使えないが、虎族は地と風の精霊魔法を生まれながらに使えるらしい。
私とセシル、イェーガーの脚が緑色の風に包まれた時、私たちは一気に走り出した。
荷物が重くて追いつかれそうになった時、セシルとイエーガーは回収した財宝を断念して捨てた。
そして‥‥。
○ ○ ○ ○ ○
そして今に至る。
走り疲れたし、日も暮れたので丁度良い。
「取り敢えずは、ここでキャンプにしますか」
とセシルとイェーガーに告げる。
「そうですね」
「それじゃあ焚き火の準備と‥」
テキパキとキャンプの準備をする二人。
うん、カレッジで学んだ基本に忠実である。
そのまま干し肉とパンを取り出し、火で炙って食べ始める。
「この保存用の肉って、味気無いですよね。もっと美味しいご飯を食べたいですよ」
「同感です。もっと新鮮な料理を食べたいですけれどね」
と笑いつつ食事を取る。
(あ、ちょいとまてよ。あの戦法が使えるのか)
ふと自宅にあったラノベを思い出した。
それはやはり異世界に転生するストーリーで、主人公は様々な料理を作っては、時間の止まっている無限袋のようなものに大量にしまいこんでいたのである。
(読んでてよかった。向田さんありがとう)
と、心の中で感謝しつつ、今後の課題の一つとすることにした。
「それじゃあ前半の見張りはお願いねー。私は後半一人で大丈夫だから」
「了解しました。ではお疲れ様です」
「おやすみねー」
と二人に挨拶をすると、そのまま静かに横になった。
もっとも、この場所には魔法陣の効果が継続しているので、朝まではモンスターなんて出てきません。
その後、夜半に見張りを交代すると、私は静かに朝が来るのを待っていた。
○ ○ ○ ○ ○
キャンプのあとも、特にモンスターに襲われることもなく。
その日の正午には街道まで無事に戻ってくることが出来た。
あとは街まで戻るのみ、また道中で盗賊に襲われたりしなければ、夕方には街へと帰還できる。
「このままいけば夕方には戻れますが」
と皆に問いかける。
「そうですね。初依頼はちゃんと成功させたいですし、急いで戻りましょう」
「うんうん、安全が一番です」
と努めて前向きな二人である。
「それじゃあ、行きますか」
ということでとのんびりと周囲を警戒しつつ街へと向かって行った。
そして夕方。
無事に正門でギルドカードを提出して街の中に入る。
その足で冒険者ギルドに向かうと、まっすぐに回収したアイテムを買取・納品カウンターに届けた。
「これが依頼書です。で、こっちが回収したアイテムです。確認お願いします」
クラスレベルが一番高いのは私なので、報告も私が行わなくてはならないらしい。
カウンターの横にあるスペースに、回収したタマゴを4つ置く。
「ああ、空間拡張のバッグですか。こういう依頼には便利ですよねぇー」
「これは無限袋といいます。これですと割れませんから」
とカウンターの職員と他愛のない話をしている。
その後、カウンターで受け取った納品証明と依頼書を持って、受付カウンタへ報告に向かう。
「あらマチュアさん、随分とお早い」
「おかげ様でねぇ。ニュービーは頑張っていましたよ」
と苦笑いしつつ、納品証明と依頼書を提出する。
それを確認すると、依頼完了となる。
「はい確認完了です。おつかれさまでした。こちらが今回の報酬です」
と金貨の収められた袋を受け取る。
それを持って、酒場で食事を取っているセシルたちのもとに向かった。
「ほいお疲れ様ー」
「あ、マチュアさんおつかれさまです」
「報告終わったのですね」
とにこやかに告げる二人の前に座ると、報酬の袋を取り出した。
「報酬は全部で金貨15枚。一人5枚ずつだね」
と綺麗に分割した。
「ありがとうございますー。これで装備が充実します。では俺はこれで。シーフギルドに行かないといけないので」
と告げてセシルが走って出ていく。
残ったイェーガーはというとモグモグと食事を続けていた。
「イェーガーはセシルと知り合いなの?」
「モグモグ‥‥知り合いというか、幼馴染ですね。将来は一緒に冒険者になろうって約束していたもので」
「ふぅん。それじゃあ頑張ってね。君たちのパーティーには前衛職がいないから、どこかで前衛を募集した方がいいと思うよ」
とアドバイス。
「なるほど。マチュアさんは前衛にはならないのですか?」
との問いかけに。
「私はトリックスター。立ち位置はオールラウンダーだからねぇ。前衛などは私より本業の者を探した方がいいよ」
「はい。今回はありがとうございましたっ!!」
そう頭を下げるイェーガーに頷くと、私は静かに立ち上がって挨拶を返し、そのままギルドを後にした。
(初心者の手伝いもまた仕事なのだろうけれど、そろそろストームを探さないとならないだろうなぁ)
そんなことを考えつつ、宿へと戻っていった。
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