サテライト
春雷
サテライト
「それならば、私も覚えがある。2002年の事件だ。男が嫉妬に狂った挙句、女を刺殺した事件だ。担当は…… 誰だったかな。とにかく、私も取材した」
「なるほど。その事件と、今回の事件との関連は」
「確かに状況は一致している。殺しの手口もね。しかしながら、両方の事件が直接的に関連しているとは、なかなか飛躍が過ぎる気もする」
「それは、実に一般的な考えで」
「馬鹿にしているのかね」
「いえ。そういうわけでは」
「君が言いたいことは何だ。私はもうとっくに引退している。わざわざこんなところまで来て、何を企んでいる」
「別に…… 僕はただあなたの意見を伺いたいだけですよ」
「そんなに難解な事件でもないだろう。普通の殺人事件だ。それに、真実を明らかにするのは警察の仕事だ。私たち記者のする仕事ではない。まあ、君も私もゴシップ系の雑誌を担当していた。そういう意味では、陰暴論的な論理の飛躍は、望ましいものなのかもしれないがね」
「この事件は単純です。それは認めましょう。しかしそれは、この事件を単一のものとして眺めた場合です」
「どういう意味だ?」
「つまり、この事件と奇妙な一致をしている事件が多数あるのですよ」
「まだ話は見えてこないな」
「これを見てください」
男がカバンから取り出したのは、新聞記事の切り抜きだ。
「2002年、2004年、2008年、そして今年、2016年。同様の事件が同じ月の同じ日に発生しています」
「シンクロニシティってやつか?」
「あるいは」
「同一犯、ってことはないか」
「今年以外の犯人はすべて逮捕されていますからね」
「確かに、ゴシップ向きだな」
「因果関係が説明できません。奇妙な偶然、というやつです」
「模倣犯の可能性は?」
「検討中です。しかし、どの事件も大々的に報道されたわけでもない。模倣犯の可能性は低いと個人的には思います」
「まあ、適当にでっち上げて記事にして構わないだろう。ネット記事だ。信憑性はもともと低い。ゴシップ紙ならなおさらだ」
「そこで、一応2002年の事件の状況を聞いておきたいと思いまして。他にも一致している部分があるかもしれない」
「なるほど。そういえば、全部ホテルでの事件みたいだな」
老齢の男は老眼鏡を胸ポケットから取り出し、切り抜きの記事を眺める。
「ええ。調べたところ、部屋の番号が一致していました」
「203」
「そうです」
「ふむ……」
「間隔は2のn乗。しかし、次の事件まで待てませんからね」
「もしかすると、こいつらは親戚同士かもしれないな」
老人が2002年と2004年の記事を指さす。
「名字、ですか」
「かなり似ている。出身地が一緒だとか」
「調べてみましょう」
後日。
「ええ。やはり、二人の出身地は同じでした。それと、他の犯人もルーツは同じでした」
「つまり全員が同じ土地にルーツを持っているということか」
「その土地が呪われている、とか。呪われた一族、とか」
「差別的だ。さすがに記事にはできないだろう」
「それなら原因はなんです?」
「うーん。シンクロニシティで胡麻化すのが妥当じゃないか。誰も真相を知りたくはないだろう。幻想は幻想のままが一番いい」
「しかし、ここで終わるのは中途半端ですよ」
「そうかなあ」
沈黙が流れる。遠くで犬が吠えた。
「それにしても、この部屋、いつも薄暗いですね」
「暗いのが好きでな。歳のせいかな」
その部屋は薄暗かった。窓から差し込む光。埃が舞っているのが見える。
「出身地か。つながりは見えてきたがなあ。いったい何だろう。何かが引っかかる」
「風習、とかですかね」
「風習」
老人の頭に何かが閃いた。
「そうか。そういう教えがあるのかもしれない」
「え?」
「昔、そういう取材をしたことがあるんだ。どこかの山奥で、儀式的な殺人が行われていたとか、そういう」
「儀式。つまり、この殺人は儀式による殺人だと?」
「それで説明がつくんじゃないか。この奇妙な一致。それは儀式に沿った結果だ」
「なるほど。あり得ますね。記事として盛り上がりもあるし」
「ああ」
一仕事終えた。そう思った二人は、熱いコーヒーを飲む。
「ところで、この館も山奥にありますよね。いつもここまで来るのが大変で。どうしてここに住んでいるんですか?」
老人は笑った。
「知らぬが仏。その言葉を肝に銘じておくといい」
サテライト 春雷 @syunrai3333
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