異世界回帰したら、もう一度キミを救えますか?
結乃拓也/ゆのや
プロローグ 『 それが運命の始まり 』
眼前に広がる、絶望の景色。
世界が真っ赤に染まり、耳にはキチキチと不快な音が終始聞こえて、鼻孔には硝煙の香りが充満して神経を侵す。
むせ返るほどの熱量に息継ぎすらままならず、視界が明滅を繰り返した。
立ち上がるのすらもはや困難で、少年はかろうじて手だけを懸命に伸ばす。
「母様……っ⁉」
紅蓮の世界。崩壊していく景色の中にある大切な存在を叫べば、母はもうじき終わる意識の最中に縋る息子を見つめる。
「ヤナ……ギ……せめて……アナタだけはっ……生き延びなさい」
「嫌だよ! 母様たちが居なくなってしまうなら、俺も死んだほうがマシだ‼」
それまで聞こえていた悲鳴は、もう聞こえない。皆、死んでしまったのだと幼いながらに悟った。
そして時期に、少年にも母にも終わりが訪れる。
母の懇願を拒絶すれば、今度は母が少年の願望を拒絶する。
「アナタは……アナタだけは生きなさい。アナタには……義務がある」
段々と意識が浸食されて、今はもう気力だけを振り絞る母は告げた。
「ヤナギ……アナタは全てを救うのっ……皆を……守って……」
「嫌だ! 嫌だよ……っ! 母様も父様も、皆がいない世界で生きたくないよ‼」
「ワガママを言ってはダメっ。それが……アナタの義務だから」
滂沱する息子に、母は酷薄に突き放す。
朽ちた木々が崩壊して、紅蓮の炎がさらに猛り出す。
もう、数分ももたない世界で、母は最期の気力を振り絞り、息子に願いを込めた瞳で見つめた。
「ヤナギ……アナタは、魔女の息子ッ。そして、魔女を救う唯一の存在……アナタが、皆を救いなさい」
「――っ⁉ 待って母様‼ 嫌だ、嫌だよ⁉」
母は一方的に願いを言い終えると、少年の体は世界から引き離されていく。
抗う事のできぬ引力の渦に、母へと伸ばした手が少しずつ、けれど着実に遠のいていく。
開かれた異空間。そこに体が半分埋もれて、涙すらも飲み込まれていった。
「さよなら、私の可愛い息子。ずっと、愛しているわ」
「母様! 母様‼ 母様―――――――――――ッ⁉」
母の微笑みと涙を、泣き叫びながら少年は縋り続けた。
伸ばし続け手すらも飲まれてしまえば、少年はもう母の最期を見届けることすらもできなくなってしまった。
終わる世界。終った世界。
少年の目にはもう、あの紅蓮の景色と蠢く黒い影たちは映っていなかった。
「んっ……んうっ……うああっ」
ここが何処なのかも判別できない空間で、少年は空間の流れに身を任せたまま涙を流し続ける。
『アナタが皆を救いなさい』
母との、最期に交わせなかった約束が脳裏に過った。
思い出し、それを何度も脳内で再生させれば、少年は決意する。
涙を強引に拭い、何処かも分からない空間に立った。
見つめるのは空間の流れと反対。母たちがいた世界だ。
見えないけれど感じるから、少年は眦を向けた。
「約束するよ、母様。必ず俺が、皆を救う。今度こそ、俺が皆を守るから!」
煤と傷だらけなぐちゃぐちゃの顔で、少年は覚悟を胸に宿す。
時の流れに逆らいながら、少年は遠ざかっていく故郷に別れを告げた。
時間の流れ。それに抗う術もないまま、ただ少年の体は何処かへ向かっていく。
いつか必ず帰ると故郷に誓い――そしてフウカ・ヤナギは〝異世界転移〟した。
―― Fin ――
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