軽挙妄動作家殺人事件

闇の烏龍茶

第1話 

 男はじっと電信柱の影から一方を睨んでいる。男がそこに現れてから既に2時間。

ふっと中年のカップルがラブホテルの門から談笑しながら姿を見せた。

男はすかさずシャッターを切る。一眼レフの連写、プロ仕様のカメラだ。

カップルとは数人の通行人を挟んで距離を空けて尾(つ)ける。飲み屋の提灯やネオンが次第に濃くなってゆく道を、10分程絡まり合った二人が歩いてレストランに入る。男も続いてドアを開けると、店内はボックス席が20ほどあって、先の二人は窓側の端のボックスに座るところだった。

男はウェイターが席に案内しようとするのを手で押さえ彼らの隣に陣取る。そしてコーヒーを頼んで、バッグのチャックを開き録音機のマイクを背もたれに載せる。


 1時間程でカップルが立ち上がる。一呼吸置いて男も店を出る。タクシーに乗った二人を追って、男はタクシーを停め運転手に後を尾けるよう指示する。

 暫く車は走り続け、飲食店街から住宅街にはいる。一軒の門構えの立派な邸宅の前で彼女を降ろして、タクシーは発車する。男はシャッター音を響かせ、そのまま車を追尾させる。

それから10分程走って、とある出版社の前で彼氏は車を降りて会社の玄関を潜った。男もそこで車を降りて歩く。

 30分後自宅を兼た事務所に戻り数十枚ある写真の中から5枚ほど選んで印刷する。録音機の音声を聞きながらパソコンとラインを繋ぐ。そして時々録音機を停めてパソコンの操作をし、また録音機を稼働させる。それを何回か繰り返し作業を終える。

今度はパソコンに定型フォームを表示して、キーボードを忙しく叩いてゆく。表題は「調査報告書」となっている。

夜11時を過ぎてその作業も終わる。小さなメディアをパソコンから取って社名入りの封筒に入れる。写真と報告書も入れ封をする。

抽斗にいれて施錠をする。

ふぁーと背伸びをして、自宅のある2階へ上がる。

「明日渡したら終わりだあ」呟いて電気を消した。

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