成り上がり追放勇者を探すお嬢様の追っかけ無双冒険譚

あゆう

第1話 見つけましたわ〜!

 初めましてみなさま。私の名前はフラムっていいますの。私、小さい頃からおばあちゃんに読み聞かせてもらってた話がありまして、今よりずっと昔に魔王を倒して世界に平和を取り戻した勇者がいたみたいですの。その勇者さま、元々は最初にいたパーティーから役立たずとして追い出された冒険者の少年だったそうですわ! そしてそんな彼が、紆余曲折を経て栄光を掴む……という昔話が、小さい頃の私はとても好きだったのですわ!  もちろん今でも! ですので……



 15歳になってギルドに登録できるようになった今、私はずっとギルドの片隅に座って追放される冒険者がいないかどうかを待っているのですわ〜!


 

 ギルドランクなんて知りませんわ。ギルドカードを取り上げられない程度に、簡単な採取系や討伐系のをソロでちょこちょこやってるだけですもの。おかげで未だにランクは一番下のFのままですのよ。FantasticのFですわね。


 自慢ではありませんけど私、スタイルや顔が良いせいでいろんな人に声をかけられますの。自分で言わせていただきますけど、背中まである輝く銀髪に少しつり目がちの紅のお目目。スタイルだって気を使ってきましたわ。お胸だってこんなに盛り上がりましたのよ。

 まぁそんなことはいいですわ。そんなこんなでランクFのギルドカードを見せるとすぐに立ち去っていくのですわ。

 たまに、『それでもいいから!』ってしつこく言い寄ってくるお方には、誠心誠意(物理)でお断りか、ギルドマスターにお願いしてますのよ〜。ランクFの私より弱い人はお断りですわ。強くてもお断りですわ。


 あ、そういえば、以前しつこく声をかけてきた人はランクBでしたわね。きっと運だけで上がったのですわね。じゃないとFの私に負けるはずないかと。


 まぁ、そんな話は置いておきましょう。

 私は椅子に座って、安い葡萄水を飲みながら、ギルドの入り口を見つめながらずっと待ちますわ。今、魔王が復活するんじゃないか? って噂のせいで、一旗あげようとする冒険者も増えてきてますからきっと現れますわ……。

 待ちますわ……待つのですわ……待ちすぎますわ……。



 ふぅ、今日も追放される冒険者はいないみたいですわね。日も暮れてきたし、帰って夕飯の手伝いをしないといけませんわね。


「くそっ! おい、ガット! お前のせいでレアモンスター逃がしちまったじゃねーか!」

「そ、そんなぁ。俺だって一生懸命やったよぉ」


 ……来た! 来ましたわ〜! 入り口を見ると、パーティーのリーダーらしき大男が、黒髪黒眼で身長も少し小さめの涙目の少年(ちょっと可愛い顔)に向かって歩きながら怒鳴り散らしているのが見えましたわ!


「あぁ? あれのどこが一生懸命だぁ? 泣きながら逃げてただけじゃねーか! おかげで範囲魔法も撃てなかったしよ! なぁ?」

「ほんとそれだわぁ。アタイがせっかく魔力溜めても無駄になるったらありゃしない」

「まぁまぁリーダーに姉さん。別にいいじゃねぇか。だって……な? ほらよっと」

「ん? あぁそうだな。へへ」

「えっ、なに? ちょっと! なんで俺の荷物を持ってるの?」

「あぁ? 当たり前だろ? お前の道具はほとんど俺達が貸してたやつだろ? だからかえしてもらうんだよ」

「え、それって……」


 今度は、大男の仲間らしき細男が、少年が背負っていた道具袋を奪い取って魔術師らしき化粧の濃い女性がニヤニヤしながらそれを見ていますわね! ケバいですわ〜! ケバすぎて少年はますます涙目になっていきますわ〜!


「つーわけでよ、お前とはここでおさらばだ。お前のその【なんでも切り刻むスキル】は良かったけどよ、泣いて逃げるんじゃ役にたたねーんだよ! じゃあな! うははははは!」


 ドンッ


 大男を含む三人は少年を突き飛ばすと換金してすぐにギルドを出ていってしまいましたわね。きっと隣の酒場にでも行くんでしょう。お酒大好きそうですもの。それよりも、【なんでも切り刻むスキル】なんていかにもじゃありませんこと! これはもしかしてもしかしなくてももしかするのですわ!


「うわっ……。うぅ、そんな……仲間だって言ってくれたのに……くそぉぉぉぉぉ! 絶対に……絶対に見返してやるからなぁぁぁぁ!」


 いいですわ! それですわ! その意気で頑張るのが一番いい方かと! 私も陰ながら応援するからがんばってくださいまし!



 あれから一週間後経ちましたわ。あっという間でしたの。


 私は一人で討伐に励む彼を後ろからつけていき、その様子を眺めていましたの。

 そう! そのスキルがあればそのくらいのモンスターなんてギッタンバッタン──


 ポタッ


 あら? なんですの? 肩に水? 雨なんて降ってないですわよ? そう思って上を見たらいましたわ!

 彼が対峙しているモンスターよりも何倍も大きな羽の生えたトカゲが口を開いてヨダレを垂らして私をパクパクしようとしていますわ!


「きったないですわ〜!」


 ドォォォォォンッッッ!!


 トカゲは私の裏拳一発で爆発四散してしまいましたの。くっさい液を撒き散らしながらなんて、なんて迷惑なのかしら!


「何ですの? 大きいだけで弱いですわね? もうっ! 今忙しいんだから邪魔しないで欲しいものですわね」


 文句を言って視線を前に戻しますわね。なんでしょう? 彼と彼と対峙していたモンスターがこちらを向いてガクガク震えていますわ、

 どうなさいましたの? 麻痺毒でもある草でもお食べになりました?


「そ、それ……山……ヌシ……女の子……が……一撃……」


 ん? なんて言ったんですの? お声が小さくて聞き取れないですわ。それよりも私なんて気にしないで討伐クエストがんばってくださいませ。 ニコッ♪


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「「ギャヒイィィィィィ!!」」


 あら〜? 彼もモンスターもいなくなりましたわね。どうしたのかしら? 変なキノコでも食べたのかしら?

 まぁいいですわ。また明日から見守ってあげますわね!


 ですけど、次の日から彼は冒険者ギルドに現れることはなかったんですの。



 更に二ヶ月経ちましたわ。


「いらっしゃいませー! どんな硬い鉱石もアクセサリー用に加工できますよー! おっと!巨大魚の解体に困ってる方も、俺に任せれば安全安心! この【なんでも切り刻むスキル、オールリッパー】をもった俺にお任せあれー!」


 彼はいつの間にか商業ギルドの期待の新人として大人気になってましたわ。スッパスパと斬ってますわ。


 なんでですの? 納得がいかないですわ! そっちで無双してどうするのかしら?

 悪いことではないのだけれど、なんか……なんかこう……もうっ! もうっ!!


 そして私はまた、ギルドの片隅で待ち続ける日課を再開することになりましたの。


 さぁ次に期待ですの。カモンベイビーですわ!

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