第37話 Lv.2
プチュ! プチュチュ~!
【アイテムボックス】からマヨネーズを取り出して、バゲットサンドにかけた。
バゲットも挟んでいる野菜やお肉も当然、ステータスを向上させる異世界食材である。
バリッ!
噛み千切る。
「うん! グラン・ヴァルデンのマヨネーズも良かったが、
ランチを食べながら、目の前の景色を眺めた。
周囲を山脈に囲まれた渓谷で、俺は切り株に腰かけていた。
冷涼な風が心地よい。
実は今日は終業式だったのだ。
学校は午前中で終わったのだが、俺は家には帰らずに、そのまま空間転移でここを訪れていた。
ザマー牧場のある高原から更に山に分け入った山頂付近の渓谷で、尾根を越えると、眼下には青奇ヶ原樹海が広がっている。
完全な死角になっており、戦闘訓練に適しているため、ここを切り開いたのだ。
本来、木々で鬱蒼としていたが、今ではすっかり見晴らしが良くなっている。
我ながら頑張ったものだな。
体力練成がてら、放課後にやって来ては少しずつ開墾していった。
ここならば、誰の目も気にする必要はない。
「ごちそうさまでした」
腹ごしらえは終わりだ。
切り株から立ち上がる。
「さて!」
俺は【生産ボックス】で作った装備に着替えた。今の身体に合わせて作った防具だけあって、やはり身体に馴染む。
主に革で作っているため、防御力は弱めだが。
駆け出しの冒険者がよく身に着けている防具である。
神龍や魔人の素材は豊富にあるため、もっと丈夫な防具を作ることは可能だ。
ゲームで言うところの最終装備や最強防具級のものも、いくらでも量産は出来るのだが、それでは実戦訓練にならない。
「このあたりに埋めていたな」
地面に手を当てて、魔力を注ぐ。
術式を起動させた。
ズン──!!
下から突き上げるような衝撃が走る。
すぐに地面が盛り上がりはじめた。
ボコ! ボコボコボコ!!
身の丈五メートル程のずんぐりとした魔人型ゴーレムが二体、二メートル前後の細身な人型ゴーレムが三体──地面から這い出てくる。
数日前、ここに埋めておいた【ゴーレム核】である。
ゴーレムの核は、埋めたその場所から魔粒子を吸収し、その土地の成分で身体を形成する。
俺は二種類のゴーレム、それぞれのステータスを確認した。
魔人型ゴーレムのステータスは──
***
名 前 魔人型ゴーレム
称 号 ―
年 齢 ―
L v 50
◆能力値
H P 15,000/15,000
M P 500/500
スタミナ 8,000/8,000
攻撃力 8,000
防御力 20,000
素早さ 800
魔法攻撃力 1,000
魔法防御力 12,000
肉体異常耐性 9,000
精神異常耐性 1,500
◆根源値
生命力 3,000
持久力 1,780
筋 力 800
機動力 270
耐久力 2,000
精神力 250
魔 力 125
◆魔法
【土魔法術式Lv.20】
***
痩身の人型ゴーレムは──
***
名 前 人型ゴーレム
称 号 ―
年 齢 ―
L v 50
◆能力値
H P 9,000/9,000
M P 1,200/1,200
スタミナ 10,000/10,000
攻撃力 4,500
防御力 4,500
素早さ 15,000
魔法攻撃力 8,000
魔法防御力 9,000
肉体異常耐性 3,000
精神異常耐性 1,500
◆根源値
生命力 1,800
持久力 2,225
筋 力 450
機動力 5,063
耐久力 450
精神力 250
魔 力 300
◆魔法
【土魔法術式Lv.60】
***
魔人型は鈍重だが物理防御と魔法防御に優れ、一撃の重さは脅威だ。一方の人型ゴーレムは機動力が高く、素早い動きで攻撃を繰り出してくる。更に土魔法も多用してくる厄介な相手である。
一方、俺の現在のステータスはこうなっている。
***
名 前 凡野蓮人
称 号 狂戦神・統一王・覇王…➤
年 齢 14
L v 1
◆能力値
H P 12,800/12,800
M P 10,377/10,377
スタミナ 7,740/7,740
攻撃力 4,800
防御力 5,573
素早さ 12,100
魔法攻撃力 5,800
魔法防御力 5,538
肉体異常耐性 7,985
精神異常耐性 10,992
◆根源値
生命力 1,810
持久力 1,870
筋 力 1,240
機動力 1,800
耐久力 1,322
精神力 1,860
魔 力 1,859
…➤
***
今のステータスでこのレベル五体を同時に相手にするのは少々厳しいが……。
「ごぉぉぉ!」
「キャルルルッ!」
ゴーレムたちがこちらに気付いたようだ。殺気を迸らせる。
「良い殺気だ」
こっちへ来てからと言うもの、退屈なトレーニングばかりで飽き飽きしていたところだった。
やっと……戦える。
俺は単なるレベルアップなど望んではいない。
死線を潜ってこそ……【
「さあ、
まずは人型ゴーレムが一斉に攻撃を仕掛けて来る。
こちらは【魔剣】を出現させた。
柄と鍔は金色、
「最初から全力で行くぞ──【
「キャルルル!!」
ドドドドッ!
ヒュド──!!
一体の人型ゴーレムが飛び掛かるようにして、鋭利な腕で突き刺してくる。
バリ……!
バシュ──!!
【
ジャラッ!
バババババッ!!
別の一体が周囲の小石を巻き上げて、礫を放ってきた。
猛スピードで飛んでくる礫の速度が落ち、空中でほぼ静止した。
敵も周囲の風景も、停止する。
【
脳の回転速度を上げることで、刹那の状況下においても適切な判断と行動をするための思考が可能となるのだ。
敵全体を把握し、反撃しやすく攻撃されにくい位置取りを割り出す。
最も無駄のない最適な動きで、相手の右斜め後方へと瞬時に移動した。
同時に、胴を斬り裂く。
ザシュ──!!
胴が裂け、砂が零れ落ちた。
だが、致命傷ではない。
「流石に一撃では仕留められないか」
手をかざす。
【風魔法術式】の【トルネード】で竜巻を発生させ、相手の身体をふわりと宙に漂わせる。
こちらも跳躍する。
これで終わりだ!
ザクッ!!
胴を一刀両断する。
ゴーレムの身体が真っ二つになった。地面に叩きつけられると砂をまき散らし、そのまま動かなくなる。
「まずは一体」
「ごおぉぉ!!」
「!?」
魔人型ゴーレムが雄叫びを上げた。
頭上に影が出来る。
こちらへ巨大な拳が振り下ろされていた。
どうにかバックステップで回避する。
ザザザッ!!
敵はそのまま地面を掻く様に腕を薙ぎ払った。
大きな岩が、こちらへと飛んでくる。
「く!」
間に合わないか!
【身体強化】で守りを固める。
どごん!
「ぅぐ!!」
剣を構えてどうにか防いだが、かなりの衝撃に身体がぐらついた。
岩が砕けてあたりに散らばる。
手や腕が痺れ、身体中がジンジンと脈打った。
俺は短く強く、息を吐いた。
「この感覚だ」
長らく忘れていた戦いの感覚が蘇っていた。
魔族だけでなく、さまざまなモンスターやダンジョン奥地の神龍、魔人、魔法生物……それらと渡り合っていた日々が。
シュルルルル──ッ!!
人型ゴーレムたちが腕を伸ばし、コマのように回転しながら襲ってきた。
【いなし】で弾き、後方へと飛ばす。
その隙を突いて魔人型ゴーレムはこちらへ、地面すれすれのパンチを繰り出した。
俺は素早く敵の股下へと潜り込む。
「喰らえ! 【
***
【
魔法を使用した物理攻撃スキル。鋭く尖らせ硬化させた魔粒子で拳を包み、鎧や甲殻を貫く。拳以外でも使用できる。レベルが上がると威力が増し、レベルが900を超えると絶対防御や絶対回避系のスキルや魔法をも無効化して貫く。
***
相手の足に拳をぶち当てる。
ピシッッ!!
岩でできた太い脚に亀裂が走った。
流石に、堅いな。
「ごぉぉぉっ!」
ゴーレムが膝を着く。
両手を地面に叩きつけるように前に倒れ込んだ。
どご────んっ!!
地響きと共に、周囲に土砂が飛ぶ。
バシュ──!!
俺はもう一体のゴーレムの腹へと飛ぶと、そこを経由して、すぐさままた、倒れ込んだゴーレムに向かって跳んだ。
「徹甲拳!」
今度はゴーレムの首の付け根に拳を叩き込む。
バゴ────ンッ!!
首に風穴が開き、顔面が砕け散った。
前転しながら、敵と距離を取る。
……さて、次は魔法で戦うか。
【黒曜の長剣】を消し去る。
「【ファイアボール】!」
シュボ……!
シュボボボボボッ……!!
【炎魔法術式】の基礎、【ファイアボール】を打ちまくる。
ゴーレムたちの連撃を躱しつつ、魔法攻撃の手は緩めない。
因みに、土や岩で形成されたゴーレムに対して、火はさして効果はない。
それを知ってなお、俺は【ファイアボール】を打ち続けた。MPの残など気にすることなく、すべて放出し尽くす。
魔法の威力において重要なのはMPでも魔力量でも、無い。
最重要は、放出量と放出力だ。
俺はそう、結論付けていた。
何歳の時だったろう、魔法について疑問を持ったのは……。
例えばMPや魔力にほとんど差がない人に同じ魔法を使わせたとしても、威力には差が出るのだ。
それがどうしても疑問だった。
それで気が付いた。一回の魔法を撃つ際には、放出量と放出力が重要であることに。
ホースから流れ出る水と同じ原理である。
流れる水量を増やすと当然、水の勢いは増す。更にはホースの口を絞ることで、水圧が高まり水の威力は増加する。
その逆に、たとえ桁違いの魔力や無尽蔵のMPがあったとしても、閉め忘れた蛇口程度しか一度に出力できないのならば、大した脅威ではない。
だからこそ、魔法の放出量や放出力を上げる魔法道具や杖などの武器が活用されている訳だ。
しかし、それらに頼り過ぎると、素の放出量と放出力は鍛えられない。
魔法は繊細であり、論理的なものだと謂われている。
それは、正しい。
消費MPを正確に計算し、消費量も出来るだけ抑えるられるように術式も簡略化するのがセオリーで、その研究が主流だった。
だが俺は、そんなセオリーを度外視して、ひたすらに放出量と放出力を上げる魔力練成をおこなってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……! 流石に、疲れるな」
だが、これでいい。
メラメラと炎が立ち昇る奥から、敵が姿を見せる。
当然のことながら、あまりダメージは負っていないようだ。
MPを回復させるアイテム【ソーン】を取り出して、一気に飲み干す。
「次は、放出力だ」
一個の火球を作り出す。
ホースの口を絞るイメージで、可能な限り圧縮する。
顔が焼けるほどに火の玉の温度が上がった。
放出量を変えずに放出力まで上げると、制御するのが一挙に難しくなる。
「キャルルル!!」
人型ゴーレムが飛び掛かって来た。
どうにか制御して撃ち放つ。
先ほどとは比べ物にならないスピードで火球が射出された。
ジュド────ッ!!
命中すると、その部位が真っ赤に染まり、全身に広がる。
「ギャロロロ!!」
溶岩のように、ゴーレムの身体が解けていった。
その後も俺は相手の攻撃を躱しつつ、最大限、放出力を維持して、一体また一体と敵を倒していった。
「ふぅ……」
戦闘を終え、汗を拭って一息つく。
休んでいる間に【超回復】【MP吸収】のお陰で、HPやMP、スタミナは回復した。
「さて、次に行くか」
俺はまた別のゴーレム核を起動させた。
「出番だ、スノウ!!」
「ヒヒーン!」
離れてい見ていたスノウが駆けつける。
スノウの馬具もグラン・ヴァルデンの素材で一から作り直していた。
「【
スノウにバフを掛けると、鞍に飛び乗った。
「【魔槍】──【
鈍く灰色に輝く槍には、ドラゴンの角を思わせる穂先が伸びている。
「さ、いくぞ!!」
「ブフォン!!」
スノウと共に、ゴーレムと対峙する。
こうして俺は、夕方まで思う存分に実戦を楽しんだ。
夜、ステータスを確認して、思わず笑みが零れる。
遂に、レベルが上がった。
***
名 前 凡野蓮人
称 号 狂戦神・統一王・覇王…➤
年 齢 14
L v 2
◆能力値
H P 24,320/24,320
M P 21,100/21,100
スタミナ 14,706/14,706
攻撃力 9,950
防御力 10,688
素早さ 24,280
魔法攻撃力 11,020
魔法防御力 10,522
肉体異常耐性 15,171
精神異常耐性 20,885
◆根源値
生命力 3,440
持久力 3,553
筋 力 2,570
機動力 3,611
耐久力 2,520
精神力 3,534
魔 力 3,779
◆固有スキル
【王威Lv.7】
◆スキル
【鑑定Lv.210】【パーフェクトボディコントロールLv.110】【
◆戦技
【徒手格闘術Lv.120】【暗殺術Lv.120】【ダガー術Lv.120】【特殊ナイフ術Lv.120】【短剣術Lv.150】【剣術Lv.150】【特殊剣術Lv.10】【短槍術Lv.150】【槍術Lv.150】【特殊槍術Lv.10】【盾術Lv.150】【大盾術Lv.10】【杖術Lv.150】【棒術Lv.150】【
◆魔法
【炎魔法術式Lv.80】【水魔法術式Lv.80】【氷魔法術式Lv.80】【風魔法術式Lv.80】【雷魔法術式Lv.80】【草木魔法術式Lv.80】【土魔法術式Lv.80】【身体魔法術式Lv.80】【精神魔法術式Lv.80】【空間魔法術式Lv.80】【創作魔法術式Lv.80】
***
これが俺の、レベル2のステータスだ。
仕舞っていたノートを開く。そこには超人がいた。
以前書いた人類の頂点。
どうやら夏休み前に、人類超えは達成できたようだ。
次は、この超人の百倍──階段の一段目だ。
夏休み中は、一日十戦をノルマに実戦を重ねていくか……。
ビリッ!
机上の超人を、破る。
クルクルと丸めて、ゴミ箱に捨てた。
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