第13話 転生


 絶対的な存在になってやる!!!!!!!!!!!!!!


 意識が途切れる瞬間まで、僕は強くそう思い続けた。


「なるがいい、絶対的な存在とやらに。そなたには、それに相応しい器がある」


 一度途切れた意識は、どこかから聞こえて来た女の人の声で再び戻った。


 ここは? 僕は、助かったのか? 病院、じゃないっぽいけど。


 なんだか身体がふわふわしている。寝ているというより、宙を漂っているようだった。


「起きたようだな、凡野蓮人よ」

「え?」


 またさっきの声が聞こえた。けれど、身体を上手く動かせない。


「こっちだ」

「うわ!?」


 転がるように視界が回る。


 そこに一人の女性が立っていた。


 長い白銀の髪に不思議な金色の瞳の女性だ。古代ギリシャの彫刻を思わせる服装で、本人もギリシャ神話の女神のようだった。


「あなたは?」

「わらわは創世の女神ディアベル」


 ディアベル……。聞いたことのない神様だな。


「僕は、死んだんですね?」

「ああ」


 やっぱり。助からないとは思ってたけど。


「ならここは、天国ですか?」

「いいや」

「え? それじゃあ、ここは」


 ディアベルさんが僕に近付く。両手で僕の顔を包み込んだ。


「ちょ、ちょっと」


 そして、目線の高さまで軽々と持ち上げた。


 そこで気が付いた。


 僕は、身体がなくなっていた。


「ここはわらわの世界──グラン・ヴァルデンだ」

「グラン・ヴァルデン……」

「そうだ。ある理由から、そなたの魂をこの世界へと転生させたのだ」

「転生?」


 信じられないことだった。


 けれど、意識ははっきりとしている。今起きているこれは、現実なんだ。


「もう一度、生きれるってことですか?」

「ああ、その通りだ」


 本当にやり直せるんだ、もう一度!


「そなたには、グラン・ヴァルデンでやって欲しいことがある」

「なんですか?」

「今この世界では魔王が復活し、魔族たちの軍勢がほかの種族の地を侵略し始めている」

「魔王が?」

「そうだ。人間の国も、もういくつも滅ぼされている」


 なんだか、ゲームみたいな話だな。


「そなたには、魔王討伐を果たし、世界の終焉を防いでもらいたいのだ」

「……」 

「どうした?」

「急な話なので、ちょっと戸惑っています」


 生まれ変わったと思ったら、急に魔王討伐を言い渡されるなんて……。心の準備が出来ていない。


 魔王ってやっぱ、ゲームに出て来るラスボスみたいな強敵なんだろうか。それと戦うってことは……。


「あの」

「どうした?」

「魔王って、やっぱ強いんですかね?」

「それはもう。世界で一番強い存在と言って差し支えないだろうな」

「それを倒さないといけないってことは、あなたは僕に、強くなることを望んでいるんですね」

「その通りだよ。この世界の、誰よりも強くな」


 誰よりも強くなることを強制され、期待されている。


 この状況は、チャンスだ。


 そう悟った時、僕は凶暴な悦びにゾクゾクと震えて来た。


「そなたも自分の魂の本質に薄々気が付いておるようだな」


 黙っていると、女神はにやりと笑った。


「魂の本質?」

「王としての器を持ち、人々の上に立つ絶対的な存在。覇王の気質と才覚に溢れ、人々を導く存在。それが、そなたの魂の本質だ」

「僕にそんな力が……」


 もし本当にそうなら、今度の僕は、もう誰にも邪魔されず、やりたいことは何でも自由にできるのか? イジメられたり、害虫のように扱われたりせず、卑屈になって引きこもることもしなくていいのか? そして、大切な人を護れるように強くなれるのか?


「そして……魔王を討伐できた暁には、そなたを元の世界へと還してやろう」

「えっ? 元の世界に戻れるんですか?」

「ああ。その時はそなたの願いを叶えてやろうぞ」

「僕の、願い?」

「そなたが真に望んでいることだよ、分かるか?」

「……」


 僕が、本当に望んでいることは……。


 あの二人を、護ること!! 何があろうと、誰が相手であろうと────!!


「さあ、そろそろ時間だ。この世界を頼む、凡野蓮人、いやヴァレタス・ガストレットよ!」

「……!?」


 靄がかかったように意識が遠のいていった。


 次に意識が戻った時、僕は母親の腕の中で産声を上げていた。




 こうして僕は、ガストレット家の三男ヴァレタスとして生を受けた。


 グラン・ヴァルデンと呼ばれる異世界は本当に不思議な世界だった。街並みや自然は中世ヨーロッパのような世界観だったけれど、魔法が存在し、人々はスキルと呼ばれるものを駆使していた。


 自分で自分のステータスも見られるし、各地に超古代からある前人未踏のダンジョンも存在し、そこには多くの危険と未知の宝が存在した。


 本当にゲームみたいな世界だった。


 面白い!


 この世界なら、思う存分、僕は自分を高められる。強くなれる。この世界の仕組みを学び、スキルや魔法を駆使して、僕は絶対的な力を手に入れるんだ。


 もう迷わないし、一切の遠慮もしない。誰にも邪魔はさせるものか。


 邪魔するものは誰であろうと、この僕が許さない!!


 こうして僕は──俺は、ヴァレタス・ガストレットとしてグラン・ヴァルデンでの第二の人生をスタートさせた。もう一度、元の世界へと戻るために。絶対的な力を手に入れた、すべてを超越した存在として。

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