第70話
アーネルトの口から語られたのは、この異世界に街ごと転移した後の事だった。どれも三分から五分にまとめられた内容だった。資料も一緒に映し出され、わかりやすい説明だった。わかりやす過ぎて、嘘なんじゃないかと思った。
「異世界転移歴0年、〇月〇日。地下施設で触手を作り出し、発信機や計測器をつけ放置。地盤調査とこの世界の土壌調査を実施。地上で新たな生物を作り出し発信機や計測器をつけ放置、これは地上の調査と地形確認のため」
映し出された資料は、地下で見かけた触手と廃墟の街で見たベェスチティだった。
「異世界転移歴0年、×月〇日。住人がゾンビ化する。ゾンビについては、発生不明でゾンビ化の原因も不明
ゾンビはどんなに増えても三百に留まるのがわかる。逆に301以上にはならないと理由がわからないため、研究が必要になる」
動画を順々に見ていくとゾンビの問題が深刻になっており、都市の大半がゾンビで無くなっていっていた。三百体のゾンビの隔離が成功するのに何か月もかかったらしい。何日もゾンビの報告日誌が続いていたが、途中からアーネルトのテンションが変わった。
「異世界転移歴0年、△月〇日。協力な磁場が何もない砂利の砂漠の方面から検知された。すぐにドローンを向かわせ調査を開始すると大量の子どもが居た。どこから来たのか、興味が尽きない。絶好の研究対象だ。なぜなら――」
僕たちがそんな中で現れた絶好の研究対象ということだった。そこから語られたのは、どうやって検体を確保するか、危険性はないか、病気やウイルスなど、様々な可能性と対策を語っていた。
その次の動画では、何もない所から何かをうみだし、それを活用したり、武器を持っていたリする事を興奮して喋っていた。一定数を毒殺し、互いに戦うような知性を持っているか、疑心暗鬼を持つか、と言った事を嬉々として語っていた。
さらに次の動画では、検体のサンプルを採取してくるネズミを大量に開発したので解き放ったこと、ベェスチティにとって天敵であるため、ベェスチティにはいったん隠れていてもらうという事を言っていた。誤算だったのが放ったネズミを何匹も殺すことが出来る者がいて、忌々しいと言っていた。
「ツバサ、次の動画を見せてくれ……」
ツバサの手は震えていた。
「僕がやろうか?」
「い、いえ、大丈夫です」
強引に全員を確保し、実験体にした場合の損害は看過できないため毒殺を一定数し、弱っている所を個別に誘って各個捕獲し、戦力分散させて、いずれ全員を研究する方向で行く、と動画が流れた。
アーネルトは同じ人ではなく、人の皮をかぶった別の何かだった。
表情も仕草も会った時と全く一緒だが、言っている事の理解が追い付かなかった。いや理解は出来るが理解したくないと感じていた。
毒殺した検体の細胞や骨などをネズミに噛み砕かせて回収させる目論見、その検体から安全性を確認し部位欠損などない完璧な状態で確保し、生態を調べると言っていた。
だが、毒殺したはずの中で一人だけ生き残っていた為、気になりネズミに回収させようとしたが失敗に終わったと項垂れていた。そして、ネズミが制御不能になり、EXP部隊所属のシュバルツ・シャッテンのミスである可能性があると言うと、その動画は終わった。
「つま、つまり……瓦礫の山で起きたあの食中毒はこ、この人が起こしたってことか……」
僕はガチガチとなる歯を止めようと口に触れようとするが、防護マスクがそれを阻んだ。
「あの時から、最初から、最初から、こいつらの手のひらで……」
ハルミンがぼそりと言い、、誰かがごくりとつばを飲み込んだ音が聞こえた。
「続きを見ていこう」
EXP部隊所属のシュバルツ・シャッテンに失敗した時のプランを実行させ、生き残っている実験体をこの街に着てもらう事にした。途中でベェスチティに捕食吸収されてもよし、出会わないまま街に着てもらってもよし、独自進化しても、回収できるので問題はなかった。ただ、爆発と炎によりネズミもろとも回収不可能になるのは誤算だった。
ベェスチティがいた場所も爆炎により壊滅し、すべて破壊されたことにより脅威度の見直しを行うことにした。
するとアンネイの動画に切り替わり、具体的な方法について説明が入った。研究施設にこのまま着いた場合、各拠点の住民は自分たちに対しては敵対をせずにし、など対応方法のマニュアルが配布されていた。乗り物に閉じ込められたゾンビは、ゾンビという驚異を示すための演出であり、この街も危険と隣り合わせであり、生き残るために必死さを感じ取ってもらう演出だった。
捕まえていたゾンビを閉じ込めていたのだった。ゾンビになってしまう前に自分で車に閉じこもった人ではなかったのだった。
この案を実行に移すため、自身が襲われている所を助けてもらい、じょじょに信頼をしてもらうという作戦だと動画の最後でアンネイが満面の笑みで言っていた。
僕たちは真相を知り、その場でへたり込んだ。喪失感に襲われるもの、怒り、悲しみ、様残な感情がその場をうずまいていた。
ツバサは頭を抱え込み、ジュリがこんなのないと震えうずくまった。ハルミンは拳を握り、机にたたきつけながら泣いていた。義腕と義手の力で机にはヒビが入った。マナチは呆然と、動画を見ているようで見ていなかった。
僕はまだ何が起きているのか想像ができないでいた。ムッツーとタッツーはどうして円状のケースに入ってる状態なのか、わからなかった。ただ、わかるのは彼らが何らかの目的でそうしたというだけはわかった。その目的は何か、それを確かめるために僕は次の動画を再生していった。
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