9ライブズナイフ

犬宰要

第1話

 七人。互いの名前、着ている制服の出身校、見知らぬ同士だとわかったのは自分と同じような反応をしていたからだった。辛うじて、同じ高校生だとわかるような制服だったがどこの高校かはわからなかった。

 

 空は曇り模様、地面は砂利、あたり一面見える所も砂利。

 

 ちょうど、くぼんだ所にいる為、ここはどういう所か全くわからない。そんな場所に円形になって、互いの距離が均等になるように自分たちは立っていた。どうやってここに来たのか、思い出そうにもさっぱり思い出せず、携帯で何か調べようにもポケットに入っていなかった。

 

 入っていたのは、見慣れない模様が入っているアーミーナイフだった。十徳ナイフと呼ばれるもので、ドライバーや大小ナイフ、はさみ、など複数のツールが一つになった道具だ。

 

 おっとりとした母性本能をくすぐるような人がやさしげな声を発した。

「ここはどこなのでしょう、ご存じの方はいませんか?」

 

 それぞれ知らないと返事する者や首を振るだけ、傾げる者など様々だった。

 

「なぁ、これなんだと思う? 

 別のキリッとした生徒会長とかやっていそうなお姉さま風な人がアーミーナイフを手にして周りに質問した。

「私知ってる!アーミーナイフっていういろいろ便利なナイフ!」

 明るい笑顔で答えた子がいた。

「ああ、わかった。十徳ナイフか」

 答えに満足したのかお姉さまはニコリとし、返事をした。

 

 僕はなぜ、このアーミーナイフを七人全員持っているのか、不思議に思った。そして、このアーミーナイフを見ているとなぜか落ち着き、こんなよくわからない状況にいるのにと同時に思った。

 

 僕はとりあえず、砂利の丘を登りあたりを見渡す事にした。

 

「おい、どこに行くんだ?」

「あたりを見渡すために、ちょっとそこを登ってみる」

 

 お姉さま風な人に返事をしながら、砂利の丘を登るとそこは砂利の丘があたりに続いており、遠くの方の空が不思議な光を発していた。その方向には建物があるように見えなくもなかった。

 

「何かあったか?」

「あそこに光が見える……こんな場所、記憶にない」

 

 お姉さま風な人も登ってきて、隣で同じ景色を見た。僕が登ってきた後ろをみると、みな不安げな顔をしつつも互いに自己紹介をしていた。

 

「とりあえず、自己紹介するか」

「そうだな、何もわからない中で互いを知るのは大事だしな」

 

 僕たちは砂利の丘から降りて、自己紹介をする事にした。

 

 住んでる場所や学校、部活など互いに被る事もなく、共通点はなかった。趣味や好きなものは被ったりしたが、同じ学校で同じクラスだとしても全員一緒に行動するような共通点もなかった。目指している大学も違いもあり、なぜ自分たちが七人一緒だったのか、という疑問だけが残った。

 

 そして、互いにあだ名で呼び合おうという話になった。

 

 僕はミドリカワ ヨウでヨーちゃんと呼ばれる事になった。このあだ名をつけてくれたのは、アイザワ マナブという前髪パッツン、ロングヘアーの毛先もパッツンの子だった。

 

「私にもあだ名つけてよ」

「じゃあ……マナチで」

「よろしく、ヨーちゃん」

「ああ、よろしくな……マナチ」

 

 マナチと呼ぶと照れながらも笑いかけてくれて、思わずキュンとなった。いやキュンとなるポイントはもっと前にあった。今まであだ名なんてつけられた事がなかったので、そこが一番キュンときた。僕はほんのり顔が熱くなっていくのを感じ、今が非常事態というか異常事態だというのを忘れかけた。

 

「よ、よろしくね。ジュリ」

「こ、こちらこそ、よろしくです。ツバサ」

 

 近くで改めて自己紹介をしてる二人の声が聞こえ、名前を思い出す。ヒイラギ ツバサとツバキ ジュリ、この二人は特にあだ名をつけられるわけでもなく、下の名前のままだった。

 ツバサは前髪が眉毛下までかかり、眼鏡をかけており、ぼさぼさの髪でいかにもオタク系だ。猫背気味であたりをしきりにキョロキョロしたり、アーミーナイフをよく触っていた。

 ジュリはツバサと比べると頭一個分身長が低くて、髪型は前髪を頭のてっぺんで留めて顔がはっきりわかるジト目ロリな感じだったが、こちらも猫背でどちらかというとオタク系だった。ツバサと同じようにアーミーナイフをよく触っていた。

 

「タッツー、とりあえずあの光りが見える方向に進もうと思うがどう思う?」

「いいんじゃないかしら? 他にいい案はないと思うわ」

「ムッツーが言うのなら私もそれでいいと思う」

 

 今後の方針について話をしてるのは、ウド ムツミのこと、ムッツーだ。お姉さま風な感じでどこか大人びている。そして、母性本能ばりばりなのがナナキ タツミのこと、タッツーだ。二人はお互い気が合うのか距離が近い。そのタッツーの横にいるのは、セト ハルミ、ハルミンであり、タッツーがそのあだ名をつけた。 

「なぁ、とりあえず皆であの光りがある方を目指すって事でいいか?」

 

 特に反対する理由もないため、はいと返事したり頷いたりした。

 

 本当にここはどこなんだろうと思った。

 

――まさか異世界転移だったりしないよな?


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