俺の娘は、百合だーっ
「きゃっ」
「な、なにっ」
「おっわ、ご、ゴメン」
部屋に入ったんだ。そうしたら女子高生が二人、暖炉の前で抱き合っていた。彼女たちは唇を深く合わせ身体をぴったりと密着させている。窓からの淡い入光を浴びて、夏用のセーラー服がよく映えていた。
「なんで入ってきたのよーっ、バカオヤジ」
茫然としている俺を見て、二人はパッと弾かれたように離れたんだ。
ねっちょりとした接吻をし合っていた女子高生のうち、一人は我が娘の由美じゃないか。もう一人は誰だか知らん。だが、なんだか可愛くて、しかも胸がデカいのは見逃せない。どうやら百合の最中だったみたいだ。
「い、いやいや、ゴメン。まさか人がいるなん思わなかったし」
キスどころか、由美のやつ、セーラー服の下から手を入れて巨乳JKの乳を揉んでたな。これ、百合を通りこしてレズなんじゃないのか。いや、百合もレズも同じか。
「どうでもいいから、早くここから出て行ていけよ、このヘンタイオヤジ、死ね、バカオヤジ。地獄に堕ちて天使に拷問されろ、腐ったサバ缶食って死ね、エゾシカに喰われて死ね、悪を浄化する根源の権化インストラットディスチャージエナジーファイヤー」
じつの娘にさんざん罵られているわけだが、いろいろ間違っているからまず初めに訂正しとくわ。
まず地獄にいるのは悪魔やゴブリンや魔王であって天使じゃないな。たしかに堕天使が親分だけど、拷問するのは下っ端がやるからさ。ピンヘッドとかテキサス的なチェーンソーとの頭がイカれてる底辺だよ。
それとお父さんはサバ缶が嫌いだから。いつもサバ缶食ってんのは由美だって。朝からサバの味噌煮缶食って、「あたしってサバ臭え女」って喜んでいたじゃねえかよ。今朝も食っていたろう。
あと、エゾシカは基本的に草食な。たぶん、山で遭遇しても喰われることはないと思うぞ。ヒグマじゃあるまいし。
それと中二病的な謎言動は止めような。おまえ、もう高校二年生なんだぞ。聞かされている俺が恥ずかしいわ。そのセリフ吐きながら百合って、どんだけレジェンドな女子高生なんだよ。
「このっ、ドヘンタイ」
「ぐっは」
娘が投げつけたティッシュ箱が俺の顔面に当たって痛い。ちょうど、角の部分が鼻の下に命中して、まるで突き刺さったような衝撃だった。
俺はとにかく退散するしかなかった。そして台所に急ぎ、鮭一匹を豪快にさばいている女房を見つけて愚痴ったんだ。
「おい、ちょっと聞いてくれよ。部屋に入ったら由美がいて、クソオヤジって怒られたわ」
「そりゃあ、あんたみたいな気持ち悪い中年男が女子高生の部屋に突然来たら怒るでしょう。せめてノックぐらいはしないと」
鮭はすごく生臭くて、腐ってるんじゃないかと思うくらいだ。
「いや、なに言ってんだよ。俺の部屋にいたんだよ。しかも、もう一人女の子がいたんだ」
「友達がきてるのよ」
何が問題かって、娘が百合なのはまずは衝撃的なんだけれども、その前に、そもそも俺の部屋で抱き合うことないんじゃないのか。どうして自分の部屋じゃなくて 父親の部屋で百合ごっこをするんだよ。絶対におかしいだろう。頭おかしいだろう。見つかったらどうするんだよ。てか、見つけっちゃったけどもな。
「なんで友だちがいるのに父親の部屋にいるんだ。ふつう、嫌がるだろう」
「あんたの部屋は暖炉があったりバルコニーがあったり、ムダに豪華だからでしょ」
そうなんだよ。特にこれといって趣味のない俺は、部屋の装飾や調度品に金をかけているんだ。暖炉はいい値段だったなあ。女房にさんざん文句言われたけど、冬に暖炉の前でゆったりとエロ小説を読むのは最高なんだよ。
ああ、なるほど。雰囲気重視で百合をしたかったのか。暖炉やバルコニーって、エロいことするのに盛り上がる小道具だもんな。
いやいや、
「だからって、娘が俺の部屋にいていいことにならないだろう。つか、追い出されたんだよ。俺の部屋から俺が追い出されたんだって」
「うるさいわね。親子なんだから、そういうこともあるでしょう」
ねーよ。
なんで俺の稼ぎで食わせている娘の言うことをきかなければならないんだ。
「いや、それどころじゃないって。由美のやつ、巨乳とちゅーしてたぞ。巨乳の女子高生の巨乳を揉みながらキスするって、これおかしくねえか。あっ」
やべえ。思わず衝撃の事実を言ってしまった。女房には内緒にしていたほうがよかったか。
「いいじゃないの。もう高校生なんだから、そういう経験もするって。初体験なんでしょ」
「いやいやいや」
娘の初経験とかって、父親としては聞きたくないたぐいの話だ。しかも相手が男ならまだしも、巨乳なんだぞ。女子高生が女子高生相手に初体験って、それはアブノーマルというもんだろう。母親としていいのかよ。
「百合だぞ、レズだぞ、LGBなんとかだぞ。自分の娘が女の子と乳繰り合っているのに、おまえは平気なのか」
「恋愛にーっ、百合もー、レズもー、ホモもー、うんなもの関係ねえ、レレレのラー」
「ぐは」
女房が突如としてキレて、さばいていた鮭の頭を俺の顔面にぶつけやがった。
「な、生臭っ。お、おまえなあ、とにかく聞けよ」
「ああ、聞いてやるよ、すっとこどっこいしょう」
片手に捌いた鮭の中骨を持って、もう片方に出刃包丁を握った女房の目がギラリと光っていた。こいつ、あぶねえ奴なんじゃないのか。下手に刺激すると、刺されたりされそうだ。
「いちおう、恋愛っていうのは男と女でどうにかしないとダメだろう。女同士とか男同士とかは自然の摂理に反するって」
「はあ? なに江戸時代なこと言っちゃってんのサ。いいかトラフグ野郎、耳の穴かっぱじって、よーく聞きやがれ、マザーファッカー。愛があれば何でもいいんだよ。由美が女の子を好きだって言うんだったら、とことん好きになればいいんだよ。群馬の中心で愛を叫べって話さ」
女房の言うことも一理あるけどさ、やっぱり納得いかないって。しかもこのおばさん、亭主をトラフグと思ってるのか。俺のどこをどう見るとトラフグなんだよ。それとここは北海道で群馬県じゃないからな。
「ああ~、思い出すなあ、わたしもね、はじめては同級生の女の子だったなあ」
ええー、マジかよ。おまえ、その昔百合だったのか。初体験が同級生の女子って、それは知らんかったさ。結婚する前に言ってくれよ。今さらカミングアウトされても困るよ。
「まだ小学五年生だったから、やり方もわからなくてねえ」
小学生のくせに百合な初体験で、しかもそれが俺の女房ときたもんだ。あはは、なんだよ、今日という日は。
「あなたも人の親なら、娘の恋愛を応援してあげなさいよ。結婚式に呼ばれないわよ」
「そんな結婚は認めん。絶対に認めんからな。シャー」
百合の結婚など認めてられるかっ。差別主義者と言われようが、ファシストと言われようが関係ない。絶対に認めないからな。
俺は家を飛び出した。あうだこうだ、あうだこうだと一人喚きながら走り続けて、いつもお世話になっている飲み屋に行ったんだ。
「あうだこうだ、あうだこうだ」
たいして美味くないが名物である焼トンをムシャムシャと食いながら、今さっきの出来事を常連客である佐々木さんに愚痴ったんだ。この人は俺より少しばかり年上で、昼間から開いているこの店で、いつも酔っ払ってる酔っ払いなんだ。
「あんたの気持ちはよくわかるよ」
安焼酎の番茶わりをグビグビと流し込んで、佐々木さんはため息混じりに言うんだ。
「手塩にかけて育てた一人娘が百合だなんて、こんちくしょうだ。こんな気持ち、誰にもわからないよ」
俺は涙ながらに話したよ。なんだか気持ちが治まらなくて、隣で酔いつぶれていたババアの尻を蹴飛ばしてしまった。
「ふう」
佐々木さんは安焼酎のおかわりを注文した。安焼酎の定番銘柄である{マッスルマン}を、今度はストレートでグビグビやり始めた。
「私にはよくわかるんだよ、工藤さんの気持ちが」工藤とは俺のことな。
「まさか、佐々木さんのところも百合なのか」
彼にも高校生の子がいたはずだ。ひょっとすると、俺の娘と同じ状態なのかな。
「最近、ネットのエロ動画に飽きがきてね。なんか目新しものがないかと探してたんですよ」
佐々木さんは、だいぶまえに奥さんと離婚している。再婚もしていないので、あっちのほうの処理はどうしているのだろうと思ったが、なるほど、ネットのエロ動画でシコシコ三昧か。
「胸が躍るようなエロ動画はないかと探していたら、男の娘動画を見つけて夢中になってしまったんです」
男の娘かあ。
可愛い男の子が女装してエッチなことするんだよな。俺も男の娘なるものをネットで見たことあるが、上モノになると女の子よりも美人がいたりする。なかなか、侮れない分野だ。
「この前、えらく可愛い男の娘の自慰行為動画の生配信があって、それがまた無修正で、すごく興奮しながら夢中で視ていたんですよ」
まあ、そっちほうに目覚めたわけか。中年男、あるあるだよな。
「そうしたら、その男の娘、息子だったんですよ。首の付け根に特徴的なほくろがあって、イッてしまってから気づきました」
あちゃあ、それはまたヘビーな経験だな。娘がAV女優になりましたっていうのはよくありがちだけど、息子が男の娘になるっていうのは、そんなにないよな。しかも、最後まで視て、おまけに発射してしまったとはバツが悪すぎる。後味最悪な賢者タイムってやつだ。まだ娘が百合なほうがマシなのかもしれない。
「ありがと、ごさまっしたー」
外国人の店員に金を支払って店を出たけど、釣りをもらってないことに気づいた。頭の中がごちゃごちゃして、もう、わけわからんわ。
娘は百合で父親の部屋の真ん中で巨乳のチチ揉んでるし、女房も初体験は百合で、しかも小学生だったっていうし、飲み友達の佐々木さんの息子は男の娘で、自宅配信した無修正を視て父親が興奮しているし、いろいろと世も末だぞ。どうなってんだ、ニッポンは。
ああ、なんかこう、猛烈に腹が立ってきた。みんなで好き勝手なことしやがって。俺だけまじめに生きてるって損な気がするぞ。俺も性的に、はっちゃけてもいいんじゃないか。
よし、決めたぞ。俺も百合になろう。百合になるには女の子にならないといけないな。さりとて俺はどこにでもいる汚え中年男だから、どうすればいいんだ。そうだ、男の娘になればいいじゃんって話だ。
さっそく、エロ物ショップにやってきたぞ。ここでコスプレ用のセーラー服を買うんだ。
「兄ちゃん、セーラー服を一つくれや」
いかにも大学生の新人店員な兄ちゃんに、遠慮なく直球をぶつけてやったんだ。
そうしたらキョドってるんだよ。目線が上下左右に泳いで、オタオタしてるんだ。おまえ、もうちょっとまともなところでバイトしろな。そもそも、客商売に向いてないんじゃないのか。
「さ、サイズはどうしますっか」
「どうって、知らん」
俺がセーラー服のサイズなんて知るわけないだろう。
「だ、誰が着ますか。奥さまですか」
うちの女房にセーラー服はキツイだろう。四十過ぎの小デブなオバハンだぞ。夫の俺がいうのもなんだけれど、キモいわ。
「俺だよ、俺」
「えっ、オッサンがですか」
オッサンを目の前にして、そのオッサンにオッサンって言うなよ。オッサンだって傷つくんだぞ。
「なんでもいいから、テキトーにみつくろってくれや」
バイトの兄ちゃん、バックヤードに行って段ボールを持って帰ってきた。ゴソゴソと中身をかき回しているんだけど、早くしろってんだ。ったく、グズは嫌いだよ。
「そ、それでは、これなんかどうでしょう」といって、ちょっとカラフルなセーラー服を差し出したんだよ。
試着室があったから、さっそく着てみたよ。セーラー〇ーンのコスプレ衣装らしいが、うん、これはいい。俺によく似合っているじゃないか。かっこいいぞ。
「よし、買った」
「三万円になります」
「高っ」
思ったよりも高額だった。兄ちゃんに三万円払って店を出た。ついでに紫色のウイッグも買って、さっそく頭に装着してみたよ。これで、どこからどうみても女子高生な男の娘だな。
「ねえ、見てよ、あのセーラー服。オッサンじゃない」
「ああ、オッサンだな。すげえキモいな」
「私、ああいうヘンタイって死ねばいいと思う」
「俺もそう思うよ。自衛隊は何をしてるんだ」
すれ違ったカップルの罵声が心地よい。あいつらの汚物を見るような目つきがゾクゾクする。ヘンタイやるのも悪くないな。
「そこのあなた、ちょっといいですか」
いきなり、パトカーがとまって警察官が降りてきたんだ。一人は運転席にいて、デブったトラフグみたいなやつが俺の前に立ちはだかった。
「なんですか」
「なんですかって、その格好はどういうことですか。あなた、男性ですよね」
男性の俺が何を着ようが勝手じゃないか。
「由美が巨乳のチチ揉んでいたから、今日は男の娘記念日なんだよ」
「ええーっと、言っている意味がわからないのですが。それはコスプレですか」
「俺はただの生女子高生。きょうから北の大地でアイドルデビューよ。北国を男の娘で救うんだ」
「ええーっと、ちょっと身分証明書を拝見させてもらってもいいですか」
職務質問がウザすぎるから、俺はもっていたバタフライナイフを素早く取り出して、警察官の首をぶっ刺したんだ。頸動脈を深々と抉って、ナイフを引き抜いたら真っ赤な血が噴き出した。その返り血で、せっかく買ったセーラー服が血だらけになっちまったよ。
パトカーの運転席にいたトカゲみたいな顔した警察官が、なんか喚きながら出てきたから、デブ警官の拳銃をホルスターから抜き取って、それで撃ったんだ。三発ぶち込んだから死んだようだ。
女子高生な俺は、ウーウーとサイレンを鳴らしながらパトカーを運転して家へ向かった。途中でさっきの飲み屋によって、お釣りをくれなかった店員の頭を拳銃で吹っ飛ばした。脳ミソと頭蓋骨の破片を浴びた佐々木さんが、親指を立てて俺を祝福してくれたさ。
家に帰って俺の部屋に行くと、娘と巨乳は素っ裸になってベッドで絡み合っていた。暖炉の前でサバを捌いている女房もなぜか裸だ。全裸ではなくて、ビニールキャップを頭にかぶっている。風呂上りなのかもしれないが、ひどく生臭かったので拳銃で撃ち殺してやった。
血まみれセーラー服の俺は、娘と巨乳の間に入った。ああ、なるほど、百合とはこんなにも柔らかな感触なのだと感動した。そして、この世界に溺れてしまいたいと、心の底か思うんだ。
おわり
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