朝読からはじまる
たぬまる
朝読からはじまる
ここはとある田舎の学校。この学校には朝、本を読むという習慣がある。略して朝読だ。朝学活の時間のうちの5分程、本を読む時間なのだ。
ここの主人公は朝読によって未来が変わってしまう。そんな不思議なお話。
飛び出す絵本や、ミッケとか、かいけつゾロリとか、そういう本が好きな私にとって小説は荷が重い。朝の5分に読むのなんてつまらない。漫画をいっぱい読みたい気分だ。
「今日、みんな本をちゃんと持ってきたかな?忘れた人いるかな……?」
あ、しまった。忘れてきた。適当に読もうと思ってたのに。でも、先生優しそうだし……とりあえずは……でも、国語担当だしなぁ。
そっと手をあげると、疲れた顔をした先生は学級文庫から本をとっていいという。先生の私物だから、大切にとの事。それと、朝読書の本にしていいのは初回だけとの事。仕方ない。
後ろのロッカーに取りに行くと、今どきの本や有名作が並んでいる。ところが、周りの5人くらいがその本をとっていってしまった。残ったのは真面目そうな小説ばかり。とりあえず、いちばん薄い本を手にとって自分の席につく。
あれ、この本。題名がない。それに作者も……読みすぎて擦れてなくなっちゃったのかな。だいぶ先生のお気に入りなんだろう。そう思って1枚2枚とページをめくった。
ーー
春。それは出会いの季節。少年Sは読書好きだ。そのせいでメガネをかけている。それから色白で綺麗な瞳の持ち主だ。
ある日のこと、少年Sはある少女に出会う。彼女は可愛らしい見た目とは裏腹に、スポーツが好きで、部活動には特に一生懸命だ。彼女は陸上部で、部活中の一汗はなんとも言えないほど輝かしい。少年Sはそんな彼女を題材に絵画を描こうと思っている。しかし、なかなか言い出せないのだ。コンクールは今年の7月。それまでに間に合うだろうか。
ーー
チャイムがなった。恋愛小説かと思い、読み進めていたが、文字が読みなれないせいか、全然進まなかった。ただ、主人公が思いをよせる彼女が、私と同じ陸上部ということには少し嬉しさを覚える。それと、そんな少年がいたらいいなと、私が思ってしまった。
次の日
先生の私物の本をあらかじめ机の中に入れていた。昨日から。少し、続きが気になるのだ。[いけないこと]とわかってはいるけれど、なんだか惜しい気持ちには勝てなかった。
ーー
少年Sは2年生だ。そんなSにも苦手なことはもちろんある。陸上部の少女に声をかけるチャンスは体育祭の時にあったが、その体育祭が苦手なのだ。あまり運動できないSは見学の椅子に座っていることが多いため、最初から救護係のところにいる。もちろん、具合が悪いからではない。救護係が適役だからそこにいるのだ。
ーー
ふーん。私の学校もこの時期体育祭がある。私はリレーの選手だし、声をかけられるとしても、頑張ってと言われるくらいだ。そういえば、今日の5時間目、体育祭の練習だ。
5時間目
真夏ではないにしろ、暑い。猛暑のようだ。なんでこんなに暑いの。全体で準備運動とか整列とか応援の練習をやるらしい。めんどくさい。走るのは好きだけど、団体行動は苦手だから、めんどくさい。
「全体!戻れ!!」
体育祭の実行委員長が号令をかける。一斉に応援席の位置へ駆け足で戻る。
バタンっ
誰かが私のほどけた靴紐を踏んだらしい。それで見事に転んだ。膝からは血がにじんで……。
「大丈夫?消毒しに行こうか。」
優しそうな声、ふと見上げると丸いメガネに2年生のハチマキの色、色白の肌、救護係の紋章。
「しょうじさーん、どうしたの?」
「山田さん、この子、怪我してるから、救護スペースに運ぼう」
「おっけ、おっけ!」
しょうじという名前。あの本が…………事実になった。
私はそのまま、救護スペースに運ばれた。しょうじさんは手馴れた手つきで消毒と、絆創膏をしてくれた。
「これで大丈夫だと思うんだけど……。お名前聞いてもいいかな?」
「あ、あの。すずきです。」
私の顔は日焼けのせいなのか真っ赤になっていた。
次の日
昨日、体育祭で、出会ってしまった。少年S。。。
少し続きを読むのをためらったが、読み進める。
ーー
少年Sは転んだ少女を助けた。なんとそれが、絵画のモデルにしたい子だったのだ。だが、それを言うことも出来ず、治療に専念した。Sはどうしてもコンクールのことを言いたかった。期限はあと2ヶ月、絵をかくとなれば 、できるだけ早く言わなければいけない。しかし、彼にはそんな勇気もなく。そして、今日また話しかけるチャンスが訪れる。
ーー
チャーーーイム。グットタイミングかバットタイミングか分からないけれどチャイムがなった。続きが気になる反面、読みたくもない気持ちに襲われる。
何となく、しょうじ先輩にお礼を言いたい。そう思って2年の教室へ向かおうとすると、1年生の廊下のワークスペースに、生徒作品の絵を飾っているしょうじ先輩がいた。
だが、衝撃的な事実もそこで知ってしまった。
あの時は、ジャージでわからなかったけど。先輩、ス、ス……スカート履いてる。
ショートカットのしょうじ先輩は、女性だった。
次の日
何故かショックすぎて、声もかけることが出来ず、部活も集中できず寝不足な今日この頃。
逆にあの小説が読みやすくなったとでも言おうか。
ーー
1年生の作品を飾っていたSはあの子に話しかけたい気持ちが募っていた。だが、あの子を見かけると驚いた表情で逃げ出してしまった。Sは、自身があの子がモデルの絵を描こうとしていることが変な噂になってしまったと思い。あの子に迷惑をかけないよう、違うものを題材にした。だが、Sの筆は一向に動かなかった。
ーー
何故か、悲しい気持ちになる。このままじゃ行けない、そんな不思議な気持ち。私は先輩に助けてもらったお礼すらも言えてないし。
この本と現実世界が繋がっている根拠も何もないが、[お礼くらい言わないと]と感じて美術部に行くことにした。何か期待していたのかもしれない。
放課後 美術室
「すみません、1年2組のすずきなんですが、しょうじ先輩いますか?」
「あ!あの時の!今、しょうじさん水道の方かなぁ。外かなぁ。絵をかきにいっちゃった。あったら伝えとくね!」
あの時の山田先輩も美術部だったんだ。と思いながら、お礼を言って外へでた。今日は陸上部はおやすみ。グラウンドには野球部とサッカー部、さすがに校庭にはいないよねと思いながら戻ると校庭の木陰にひとり、ぼーっとしているしょうじ先輩がいた。
「先輩。」
「あ、えっと……すずきさんだっけ?」
私は、ハッとした。先輩は涙を拭って、微笑んだから。
「あの、こないだはありがとうございました。えっと……ど、どうされたんですか。」
「え、あぁ。コンクールが間近なんだけど、題材が決まらないの。なんだかなぁって感じだよね。ごめんね、こんな話。」
「先輩!!私、私を題材にしてください!!」
「え?いいの?」
先輩は目を見開いて、ハッとしていた。何より私がいちばんハッとしていた。
「題材って何したらいいんでしょうか。まさか、ぬ、ぬぐとか?」
「あ、題材っていってもね、部活の姿を描きたいの。いいかな……。」
「も、もちろんです!!」
次の日
なんだか夢のような話だった。あの本みたいな感じ。でも、全然恋愛じゃないし、離れてる。でも、お話できて嬉しかった。
ーー
「全然かけない」そんな思いと白紙のキャンバス、グラウンドには色んな色があるのに。そう思っていた。
その時、「先輩」と声をかけられた。あたりは輝き出した。新緑の美しい緑に映える、少女がそこにたっていた。
もう二度とないチャンスだった、Sは少女と話を交わした。そして、コンクールのための絵画を描けることになった。大きな一歩である。それと同時に、少年Sは気づいてしまった。恋心にも1歩踏み出してしまったことを。
ーー
……………………。これは。本、本だから。うんうん。
そう思ってつい、グラウンドを見る。2年生が体育の準備をしている。そして、勝手にしょうじ先輩を探している自分に気がついてしまう。私、もしかして、好きになっちゃったのかな。でも、ほんと違って先輩は女性……。
あれから不安で、先輩に話しかけることができない、何しろ会うことがないのでラッキーとは思うものの、やはり先輩を探している。頭ん中先輩1色だ。
次の日
なんせ、小説の恋が気になって仕方ない。モジモジくんになってる。いっその事飛ばし読みしちゃえとおもってそれらしいページを開く
ーー
少年Sは少女に呼ばれた。帰り際だった、二人で帰りたいとのことだった。2人は一緒に街路樹のある道へ向かった。車通りは少なかった。だから、お互いの声が鮮明に聞こえてくる。
少女は第一声を振り絞った。
「先輩。好きです。付き合ってください」
Sは驚いた表情をした。
「こんな、頼りない僕だよ。」
「それでもいいんです!心から好きなんです!」
Sはいつにもなく渋い顔をする。そしてよく考えて
ーー
「おい、、、」
「ふぇ!?せ、先生。」
「それ、私の本じゃない?いつも見てたんだけど、初回じゃないよね💧」
「あぁ〜、えっと。続きが気になっちゃって。」
「そうかぁ。それはそれで嬉しいんだけど、先生の私物は休み時間とかによんで欲しかったなぁ。はい、これ、学校の図書館の本。朝読はこっちにしなね。」
チャイムより先に先生が来るとは 。しかも今日こんな日に限って。。。。
苦笑いしながら、お礼を言うと、わかりやすいぐらいドヨーンとした。
放課後
はぁ。今日部活ないしなぁ。はやく帰ろう。そう思っていた矢先
「すずきさん!やっと逢えた。探したの。お願いがあって」
こっそり見てはいたけど、まじかに先輩の綺麗な瞳に可愛らしい声、心臓がバクバクと鳴り止まない。
「えぁ、、、」
声も出ない。時が何秒も止まっていた。
「ごめんね、驚かせちゃったよね。今日部活お休みだと思って、絵を見せたくて、教室に来てくれない?」
コクコクと頷いて、先輩の後について行く、ちょっとだけ背の高い先輩からはいい匂いがして、少し強く腕を握られて、そんな刺激的な状況で周りは真っ白だった。先輩しかもう見えない。
たどり着いた教室は、2人きり。先輩は優しく絵画を流し目で見る。そんな視線にもドキッとする。
「今、こんな感じなの」
その絵画には一生懸命に走る私が描かれていた。とても丁寧に繊細に。
「素敵です。こんな、綺麗にかけるんですね先輩」
「ありがとう。これはまだ下書きなんだけどね。」
何故か、私の目からは溢れんばかりの涙が溢れてきた。
「すずきさん!?」名前を呼ぶとそっとハンカチを出して拭いてくれる優しい先輩。私は間違いなく恋をしていたんだと、気づいたのだ。
次の日
あの小説が手元にない。学級文庫にもなかったので、きっと先生が持ってるに違いない。はぁ。仕方ないので先生からもらった本を開く。
ーー
頑張れる言葉集
未来をつくるのは君自身。君が歩けば道はできる。
ーー
ピンポイントでこの言葉。先生、何を企んでいるんだ。というか先生何者だ。でも、そんなことは関係なく、告白、頑張れる気がした。だから。
「しょうじ先輩!!今日一緒に帰りませんか?」
朝読からはじまる たぬまる @suzutamaru
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