外人美少女の自己紹介(デス!!)
水夏真佐
プロローグ
2年前、とある空港にて。
俺たちは、お互いの家族に挟まれるような形で対面していた。
俺の目の前には、整った顔をぐしゃぐしゃにしながら、ボロボロと溢れんばかりの涙を流している女の子がいる。
びっくりするほど綺麗な金髪に、青みのかかった綺麗な瞳、透き通るような白い肌と、当時恋愛感情に乏しかった俺ですら認められるほどの、まさに絶世の美少女だ。
彼女は俺の服ギュッとしわができるほど強く掴んで、
『ヤダヨ、ハナレタクナイヨォ……』
日本語を話せる両親から教えてもらったのか、片言な日本語で俺に言う。
「リリー…………」
俺は小さく彼女の名前を呟くと、胸の奥がズキッと痛む。
彼女と出会ったのは小学校二年生の時だった。
イギリスから来たという彼女は、両親の仕事上の都合、近いうちにまた転勤になるかもしれないが、その時までこの学校に通うということを担任の先生から聞いた。
そして自己紹介をしてくれるという彼女からでた言葉は……
「〜〜〜〜〜〜〜〜! 〜〜〜〜リリー。〜〜〜〜!」
名前であろう部分以外、全くと言っていいほど聞き取れない、本場のイギリス英語だった。
リリー? の翻訳のために近くにいた英語の先生は、『こんにちは、はじめまして! どうか私のことはリリーと呼んでください。これからよろしくお願いします!』という感じの内容だと俺たちに話していたが、その英語の先生も結局は日本人だったので、結局は細かい部分はわかりにくかったらしい。
当然、そんな異端な転校生がやって来たのだから、昼休み中クラスメイトは彼女に構いっきりで、話題も彼女のことですっかり持ちきりだった。
しかし数日も経過すれば、子供というのはまあ単純なもので、すぐに飽きてしまう。
理由は明白。彼女の話す英語は、当時の彼らには理解するどころか、聞き取れない部分も多く、その上彼女自身も日本語を大して理解できているわけではなかったからだ。
初めは席を埋め尽くすほど多かった
皆が離れていく中、リリーの隣の席だった俺は、彼女に話しかけてみた。
「え、えっと、は、はろー?」
ずっと教室にいたというのにまるで初対面のような、メジャーな英語で話しかけたことは今でもあまり思い出したくない。
「……Hello?」
彼女もおずおずと、挨拶を返す。
その日から、俺は彼女と話すことになった。
俺の下手くそな英語が伝わらないのは重々承知していたため、取ってつけたような英単語と、全力のジェスチャーで彼女に話しかけた。
時には大好きなアニメ話を、時には学校でやる行事のことを、自分の住んでる街を、そこにあるお店の話を、思い出しきれないほどたくさん話したと思う。
友達に茶化されたり、クラスメイトから変な噂を流されそうになったりしても、何度も話しかけた。
最初こそ少しだけ戸惑っていた彼女も、毎日のように話しかける俺に、ほんの少しずつ興味を持ち、心を開いてくれるようになり、時には二人で遊ぶことも増えた。
特に、神社の夏祭り連れて行った時は、日本の文化が好きらしく、大はしゃぎしていたのは今でも心に残っている。
俺の両親も彼女の両親と仲良くなったらしく、リリーは毎日のように俺の家を訪れて来た。
『コータロー、コータローハ、リリーノコトスキ?』
母親から学んだ片言の日本語で話しかけてくる彼女に対し、俺は無邪気な笑顔で、
「当たり前じゃん!!」
そう真っ先に答えていた。
「リリーモネー、コータローノコトスキー!」
向日葵のような笑顔を向けて笑う彼女は、近くで話していたリリーの両親と俺の両親すら思わず笑顔になってしまうほど可憐だった。
だが、運命というのは残酷なもので、リリーが来てから、三年が経った時、リリーの両親の転勤が決まった。
転勤先は彼女の母国、イギリス。
俺はあまりのことに涙が溢れてしまっていたが、彼女がその倍は泣いていたため、俺の涙は思わず止まってしまっていた。
「ヒック、ヒックッ」
「……きっと、また会えるよ!」
「…………エ?」
俺の精一杯勇気を振り絞った言葉に、泣き続けていたリリーが反応する。
「ホ、ホント?」
「うん! 絶対だよ。次は、僕がリリーの家に行くから!」
「……! リリーモ、マタ、コータロートアイタイ!」
そう誓い合う俺たちを、俺の両親とリリーの両親は優しく撫でてくれた。
こうして、リリーは日本からイギリスへと飛び立っていったのだった……。
それから数年後、俺は高校生になった今ですら…………その約束は果たせていないどころか、約束を忘れてしまいそうにもなっていた。
今、彼女は何をしているのか……もしかすると、俺のことなど覚えていないのかもしれない………………。
────空港にて、
「…………コータロー。リリー、戻ってきたヨ」
とある一人の美女が日本に降り立った。
陽の光に照らされている明るめの金髪にサファイアのような青い碧眼。きめ細かく、透き通る白い肌を持ったその体つきは豊満だが、足はスラリと長く、さながらグラビアモデルといっても差し支えないほどの美貌とスタイルだった。
「コータロー、遅いカラ…………リリーの方から会いに来たからネ」
流暢な日本語でそう呟いて、彼女はとある人物に電話をかける。
「も、モシモシ、」
『あらー、リリーちゃん! そっちには無事に着いたかしら?』
「ウン。あの、月子おばサマ。コータローには……」
月子おばサマと呼ばれた通話相手が、くすくすと笑いながら、
『ええ、もちろん言ってないわ。まったく、あの子どんな反応するかしらね〜。知らないうちに、幼馴染が超絶美人になって帰って来たら』
「も、もう! それ、言わないデッテ言ってるノ二!」
恥ずかしそうだったが、少しだけ嬉しそうな顔をして、
「コータロー、喜んでくれるカナ?」
『ええ、もちろんよ。あ、今からそっちに行くから、ちょっと待っててね』
「ウン。また後デ」
そう言って電話を切った。
「コータロー……また、一緒に遊べるネ」
また会える喜びと期待、そしてそれに混じる少しの不安を胸に秘めて……彼女は、リリーはスマホを胸に抱いた。
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