第7話 どきっ! ときめき☆クライシス




「———響野くんは、どんな異性がタイプですかっ!?」

「ふぁっ!?」



 小泉さんのその言葉を聞いた瞬間、ピシャーンッ!と脳内に稲妻と衝撃が走った俺。こちらを見つめる小泉さんの可愛らしい瞳と期待が込められた視線を直視出来ずに思わず視界がぐらぐらと揺れてしまうも、なんとか下唇を思いっきり噛んで耐える。あっ、血が出たペロペロ。


 先週もただでさえクラスメイトが大勢いる中いきなり感謝されて一瞬だけすんごい注目を集めたのに、今日も挨拶に続きそんなことを訊いたらさらに注目を浴びてしまうじゃないか……っ。あーもう周りの反応見る限りきっと色々察してるんでしょうねぇ、小泉さんが俺に好意を持っていることとかさぁ!!


 小泉さんがああ言い放った瞬間周りの女子なんて明らかにきゃあきゃあ色めき立っているし、男子の野郎共なんぞあからさまにギギギと首をこちらに向けながら笑ってない笑みを浮かべて中指を立ててファッキューしているもん。めっちゃこえーよ(涙目)!!



(あぁ、平穏な高校生活オワタ……)



 色々と手詰まりな状況に俺は真っ白に燃え尽きそうになるも、なんとか踏みとどまる。


 ———いいや、まだだ! 落ち着け俺、小泉さんが俺を好きになったきっかけやもう既に告白されたことはクラスメイトはまだ知らない。好意を抱く理由は未だ宙ぶらりんなので、なんとか会話を何気ないものに上手く誘導出来たらまだ挽回出来る筈!!


 俺は動揺を隠しつつ力なく微笑みながらなんとか口を開く。



「こ、小泉さん? お話をするならもっとこう、浅いところから始めた方がいいんじゃないでせうか……? 例えばそう、お互いの趣味とか好きなものとか…………?」

「それも大事ですが、まず私はお友達として響野くんの理想の女性を目指したいのです。そしていずれ、響野くんに再度告白を———」

「わーーーっ、わーーーーーーっ!!!!」



 むん、と張り切りながら真剣な様子でそう言葉を紡ぐ小泉さんだったが、最後まで言い切る前に咄嗟に大声を出して言葉を打ち切った。


 あわあわ、おち、おちおち落ち着け俺れれれれれれれれっ! え、今からでも入れる保険があるって本当ですか? もう遅い?……そうですか(絶望)。



(……おん? でも案外告白されたのバレてなさそう)



 叫んでいる合間にざっと教室を見渡してみたのだが、クラスメイトは不思議そうな表情や訝しげな表情を浮かべている。どうやら慌てて俺の声で掻き消したおかげか、『告白』というワードは聞こえてなさそうだった。


 その代わりこいつらなんかあったんだ、という空気感はより一層増したけれども。なんてこったい。


 だがまぁ、クラス中の視線を集める結果になってしまった以上、なんとか印象操作を試みる必要があるだろう。いくら小泉さんが撒いた種とはいえ、このままでは彼女が俺に好意を抱いていることはクラスメイトに丸わかり。これから友達付き合いをするというのに、そういった注目———所謂いわゆる男女の仲になりそうな二人と注目されてしまうのは、正直に言って少々煩わしい。


 片や真面目な清楚系美少女と片や妹への愛が少々深い普通の男子高校生。なんとかこの二人は付き合う訳がない、もしくは可能性が低いという空気へ軌道修正する必要があった。なので、是非ともこの場を利用して全員に再認識して貰おう。



「……わかった。いいよ、小泉さん。俺はどんな異性がタイプかって聞いたね?」

「はい、是非教えてください!!」

「俺は———妹が大好きなんだ!!」



 そう、超弩級のシスコンだってなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!



「俺の妹は超絶可愛いんだ。いつも「おにいちゃん、おにいちゃん」って慕ってくれるし、俺の作るスイーツを美味しく食べてくれて、頭を撫でたら上目遣いでとろけるように微笑んでくれるんだ。まさに天使! それはもう天使! 可愛すぎて食べちゃいたいくらいさ! そんな妹も年頃なのか、自分のすかすかでぺったんこな胸をだいぶ気にしているようだけれど、俺としてはその慎ましさ……つまりちっぱいこそが至高なので俺はオールオッケーですはい! まぁ将来的に美人さんになること間違いなしだから、胸が大きくても小さくても受け入れ準備万端なんですけどねガハハ!」

「——————」

「まぁ何が言いたいかというと、俺は妹のことを心から愛している。理想のタイプも妹のような女の子って訳だ。俺はどうしようもなく妹のことが大大大好きなシスコンなんだよ」

「あ、はい。それは知ってます」

「だから……って、あるぇ?」



 だから小泉さんは妹のような俺の理想にはなれない、と少々酷なことを伝えようとしたのだが、あっさりとした予想外の返答に言葉が詰まる。


 あれ、小泉さんもしかして俺が超の付くほど妹大好きマンなシスコン野郎だって知ってる? ……え、みんなも? あ、全員頷いているやん。今更っすか、そうっすか。恥っっっっっっっず!!!!!


 完全に話の腰を折られてしまい、思わず呆けた表情になっていると、心なしか瞳をキラキラと輝かせた小泉さんは口を開く。



「つまり、ありのままの私で良い———そういうことですね!!」

「あ、うん……。そうですね……」

「わかりました。では、これからは友達として、妹さんみたいに精一杯の私を見て貰えるように頑張ります!!」



 真剣な眼差しをした小泉さんは、俺をまっすぐ見つめながらふわりと笑みを浮かべる。


 ———どきっ。



(ん、どきっ?)



 今まで妹である梓以外の異性にときめいたことなんて一度も無かった。昨日の告白の時でさえも、だ。気の所為と誤魔化すには目の前の小泉さんの笑みが眩しくて。


 俺が戸惑いを隠せずに瞳をぱちぱちと瞬かせていると、彼女はふと声を上げた。



「あ、ど、どうやらもうすぐで朝のホームルームのようですっ。あっという間でした……。それでは響野くん、またお話ししましょうね!」

「お、おう……っ」



 そう言った小泉さんはうっすら頬を染めて自分の席へさっと戻る。彼女が席に着いた瞬間、教室の扉が開いて担任が入ってきたので幸いにもクラスメイトから根掘り葉掘り訊かれることはなかった。


 担任が今日の予定やらを話す中、俺は背筋をすっと伸ばして真面目に話を聞いている小泉さんの後ろ姿をそっと見つめる。これまで平穏だった高校生活、今後は騒がしくなりそうな予感を抱きながら、俺は窓越しの空を眺めた。


 そんな心とは裏腹に、雲がぷかぷかと浮いている、それはもう澄み渡った綺麗な青空が広がっていたのだった。

















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