第5話 私の大好きなおにいちゃん
◆
おにいちゃんに声を掛けて二階の自分の部屋に向かうと、私は制服を着たままベッドに飛び込んだ。多分制服にシワが出来ちゃうかも知れないけれど、気にしない。
あのとき私は、上手く笑えていたかな。
「はぁ……。もう、おにいちゃんのバカ。こっちの気持ちも知らないでさ」
———私、響野梓はおにいちゃんのことが大好きだ。
おにいちゃんといっても別に私と血が繋がっている訳じゃない。なので私にとっておにいちゃんは義兄であり、おにいちゃんにとって私は義妹にあたる。その事実を知ったのは今から一年前、私が中学二年生でちょっぴり反抗期だった時期だった。
その事実が両親から告げられたのは、おにいちゃんが高校生になったばかりの頃。小さい頃から私たちは本当の兄妹だと信じて疑わずに育ってきたので、その真実を二人から聞いた時はとても驚いたし衝撃的だった。
———同時に、私は兄妹ではない事実に心を震わせながら歓喜した。
だって、私は小さい頃からおにいちゃんのことが好きだったのだ。勿論家族としてではなく、異性として。格好良くて、頼もしくて、優しくて……私のことが大好きなおにいちゃんのことがずっとずっと大好きだった。
土砂降りの中迷子になって独りで怯えていた私を、傷付きながらも頼もしい手でおにいちゃんは引っ張ってくれた。その横顔が、とても眩しくて。
そのときから、私はおにいちゃんに恋をした。どうしようもなく、胸が高鳴った。
(まぁ、おにいちゃんは昔から私を家族としてしか見ていないだろうけれど)
でも、私の知る周りの兄妹がいる同級生らは全然違う。自分の兄や弟を家族として考えており、誰一人異性としては見ていなかった。
だから、私は本当の兄妹なのにこんな気持ちを抱くなんておかしいと自分自身に言い聞かせて、必死にその感情を隠してきた。その結果、大好きなおにいちゃんに冷たく当たる日々が始まる。おにいちゃんは変わらず私に笑顔で優しく接してくれていたけれど……とても辛かった。罪悪感で胸が苦しくなって涙を零す日もあった。
だから、私たちが本当の兄妹ではないと両親からカミングアウトされた時は本当に嬉しかった。物語のような運命の悪戯に、あれほど神様に感謝したことはない。
自分の境遇に思うところは多少あるけれど、決して悲観的にはならなかった。これからは気持ちを隠すことなく、おにいちゃんに素直になって私を異性として意識して貰おう。
……そういえばおにいちゃん、私の下着———パンツをこの部屋とか洗濯機から持ち出して懐に仕舞っているのはどうしてなのだろう? ちょっぴり恥ずかしいけれど、もしかしたらおにいちゃんが使っているのかなと想像して、興奮している私がいるのは秘密。
幸いにもおにいちゃんの関心はずっと私に向いている。おにいちゃんの魅力は私だけが知っていればいい。……そう、思っていたのだけれど。
「まさかおにいちゃんが告白されるなんて……っ!」
きゅっと胸が苦しくなって、身が焦がれる苦しい感覚。これはそう、嫉妬だ。今までも、これからも私に好意を抱いてくれているおにいちゃんが、ぽっと出の何処の馬の骨かもしれない小娘に取られそうになっている危機感と、激しい独占欲。
私の方が、先に好きだったのに……っ!!
「…………もしかして、あのときかな?」
先週程前のことだったかな、私はあのときおにいちゃんに買い物を頼んだ。そう、確か外が暗くなってきた夜にアイスクリームが食べたくなって、おにいちゃんに買ってきてと甘えたのだ。
そういえばあのときのおにいちゃんはちょっぴりヘンだった。
「コンビニでアイスを買ってきてくれた筈なのに全部溶けてたし、全速力で走ったみたいに何故か全身汗びっしょりだったし……間違いなくあの日に何かあったのかも」
しかも次の日に知ったけれど、あの日は露出魔の格好をした変態が二人も出現したらしい。中学に通ってる私のクラスでも結構話題になっていた。いずれにせよ一人は捕まったらしいので一安心。もう一人は逃げたらしいけれど、おにいちゃんが事件に巻き込まれなくて何よりである。
……もし巻き込まれていたら、その変態や変態に狙われた関係者も、おにいちゃんを巻き込む原因を作った奴らを許せる気がしなかった。
まぁ終わったことを考えていても仕方がない。しばらくはおにいちゃんの挙動や言動に気を配って生活しよう。やがて私はそっとベッドの上で溜息をついた。脳裏に思い浮かべるのは、告白されたとおにいちゃんが口にする女のこと。
「……気をつけてね、おにいちゃん。女の子が一度誰かに恋を覚えると、後は落ちていくだけだから」
———私がそうであるように、ね?
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梓ちゃん視点の話でした!!
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