第11話 思惑
「みなさんどうします? 私達も早く彼らの後を追ったほうがいいんじゃないでしょうか!」
佐々木が最後まで取り残された焦りと埃くさい暑さからヒステリックに声を漏らした。
「先に行きたければ行けばいいじゃない。私は止めないよ」
黒皮のソファに足を組んで座っている真紀が他人事のように言い返した。
「神様はこういう時どうしてくれんのさ? 持ち前の超能力でお金のありかを見つけんのかい? まあ神の名を語っているだけの詐欺師には出来っこない芸当だろうけどね」
真紀の言葉に黙ったままの佐々木に、佐野もちくりといやみを言った。
「何を言ってるんですか、私を馬鹿にすると災いが起きますよ!」
「お前自身が災いなんだろ? どうでもいいが俺達も先を急いだほうがいいかもな」
宇佐美は先に行った四人が気になってはいたが、一人で行くのも出来れば遠慮したい気持ちだった。
「そんなにあせらなくてもいいんじゃない? 先に行った連中が賞金を見つけても見つけなくても、出口はこの先だよ。必ずここを通るはずじゃない? 今のうちはまとまっていた方が利口だと思うけどね」
いつ誰が裏切るか全く予想できない状況で、真紀の言葉は十分に説得力があった。
「そうだな。先に行った四人の行動がはっきりするまでは、こっちも一緒にいた方がいいかもな……」
相手を出し抜くタイミングを考えていた宇佐美は真樹の考えに同調した。
「ねえ、それよりも五人でお金を探して山分けしない? 金額は少なくなるけど、一人、六百万にはなるわ。出入り口が1つしかないと言っていたけど、探せば非常用の出口くらいあると思わない?」
佐野はそれとなくその場にいる参加者に探りを入れてみた。今の状況を考えれば考えるほど、佐野自身がひとりで賞金を手に入れることは不可能に近かったからだ。
「その出口も見張りがいたり、外から閉まっていたらどうする? それに俺達の行動はモニタカメラで筒抜けだと思うけどな」
宇佐美は佐野の考えに反対はしなかったが、賛成もしなかった。
「確か説明では賞金を手に入れた人は一人で出口からでる決まりですよね。そうすと残りの九人はどうなるのでしょうか」
不安に駆られた表情で佐々木は自分の眼鏡の位置を直した。同時に佐々木の携帯に新しいメールが着信した。
「またメールですね。今回は一階にいる五名だけに送信していると書いてあります。私達は監視カメラで完全に見張られているようですよ」
佐々木はなれない手つきで携帯電話のスクロールボタンを押した。
「また、どなたかの犯罪経歴なんて勘弁してほしいですね……」
はじめは落ち着いた表情でメールを読んでいた佐々木だったが、だんだんと顔が青ざめていった。
「まずいですよ、これは! このホテルは完全にヤクザに包囲されてしまいます! 制限時間の二時間が過ぎたとたんに組織の構成員が私達をなぶり殺しに来ると書いてありますよ!」
顔面蒼白になった佐々木の驚きは尋常でなくなっていた。同じくソファに腰掛けて着信したメールを読んでいた真樹もため息をついた。
「やっぱりね、これがやつらの本音なんだよ。腹黒いあいつらが、ただで金を渡すわけなんだ。いい思いをさせてやるのはひとりだけで、残った参加者はあいつらの遊びの道具、まあ、日頃のストレス発散のおもちゃにでもするつもりなんだよ」
「なんてことだ、これじゃタチの悪いリンチと一緒じゃないか……」
これまで黙っていた中堂がぽつりとつぶやいた。
「まあ、男はそこでのびてる男みたいになるのは間違いないね。当然、女は徹夜でマワされると思うし。組の下っ端は奴隷と一緒で、ストレスが溜まりに溜まっているから限度ってものを知らないからね。残された人間は地獄をみるよ」
さらりと真紀が言い放った。
「話がうますぎると思ってたんだよな……」
どさっと宇佐美がソファに座り込んだ。
「私マワされるなんていやだよ! 何とかしておくれよ!」
佐野は目じりにしわのある目を大きくして真紀に食ってかかった。
「なんとかなんてなる訳ないだろ。ここに来たのが運のつきさ。諦めな!」
「どうしてくれんのさ! こんなことになっちゃって!」
顔面蒼白の佐野は、茶色に染めた白髪混じりの頭を掻きむしった。
「そんなこと俺達に言われてもどうしようもないだろ。自分の撒いた種なんだから。どの道、もう俺達は籠の中のモルモットなんだよ。あんたも、あきらめて金を探すこと考えたほうがいいぜ。とりあえず俺は上の階から探していったほうが確率は高いと思うが」
宇佐美は取り乱している佐野にほとんど興味を示そうともしない。
「どうだろうね? あいつらが先に金を見つけるかもしれないしね。さっきも言ったけど、ここで待ち伏せして金を持って来た奴から奪うのが利口だと思わない?」
真紀の吐き出したタバコの煙が宙を舞う。
「それはいい考えだと思います。まず彼らが持っている鍵の中に賞金が隠されている部屋の鍵があるかどうかを見極めるのが最良の方法じゃないでしょうか。三十分もあれば、彼ら自身が持っている鍵の部屋を探し終えるはずです。しばらくはここで様子を見るのが最善の方法でしょう」
佐々木が額の汗をチェック柄のハンカチでぬぐった。
「そうかもしれないな。今、俺達が動き回るのは損か…… 少し待ってみるか」
一度深くうなずいて、宇佐美は薄暗い天上をじっと見上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます