キュクロプスの桜雨
夕幻吹雪
プロローグ
Ⅰ
ピピッ。ピピッ。
静かなる眠りを妨げる電子音。
『オハヨウゴザイマス、
無機質な音声に声をかけられ次第に俺の意識は覚醒していく。
「……………ッ……」
ゆっくりとベッドから起き上がり頭を手で押さえていれば、サイドテーブルの上に今日の服が用意された。
全てを自動的に、合理的に機械化された。人の手を煩わせることのない生活形態。
鏡の前で身嗜みを整える。白いシャツに濃紺色のズボン。シャツの袖をカフスで留め髪をとかす。
脱いだ寝間着をベッド脇の籠へ放り投げ俺は本を持ちドアノブを回した。
『イッテラッシャイマセ、
「ああ、行ってくる」
今日も変わらない日が始まる。
西暦2XXX年。
地下大帝国アドニス。
まるで巨大な迷路のように入り組んだここは地中深くに作られた大帝国。
ここに住んでいる者たちは全員赤の他人だ。
血の繋がりなど微塵もなく。人種、性別、年齢、価値観も何もかもが異なっている。
だが俺たちを最も大きく隔てているのは階位と呼ばれるランクだ。
俺たちはひとりひとり価値をつけられている。
この地球に必要な遺伝子かどうか。
カツン、カツンと靴音を鳴らし長い廊下を歩く。
前方に両開きの扉が見えた。白を基調とし12星座が刻まれている。その扉に手を掛けぐっと引けばガゴンと音がして扉は開いた。
「この問題の答えは?」
「簡単じゃない、こんなの」
扉の中――大食堂は朝だというのに人々のざわめきが大きかった。しかし、俺が入ったと同時水を打ったように静かになった。
「……ねぇ、見ていらっしゃったわ」
「今日も完璧ね………、流石は
ヒソヒソと耳障りな声がする。どこか熱い視線を向けられたような気がするが気にせず決められた席へと向かう。
「おはようございます、アスター」
すると横の通路からコツコツとヒールを鳴らし静謐な声の少女が近づいてきた。
「ああ、おはよう。ロウリエ」
少女――ロウリエは透けるような白髪を靡かせながら俺の隣に立った。
「お席まで御一緒しても?」
そう言い閉じられた瞳で俺を見上げた。
「どうせ隣だしな」
大食堂の中央。長テーブルの自分のふられた番号のところの席につく。
「昨日の問題は解けましたか、アスター」
「問題ない。ほんの少し応用を効かせるだけだ」
テーブルの上に銀色の蓋をした皿とイヤホン、リンカーと呼ばれる機械が運ばれてくる。
「………ぁ、間に合った!?」
装着していると栗色の髪の少女が走ってきた。ふぅ、といきを付きニコッと少女は笑いかけた。
「おはようっ。アスター、ロウリエ」
元気のいい明るい声で言った。
「おはようございます、ケラシー」
「朝からうるさいぞケラシー」
ロウリエと俺が続きケラシーは俺の目の前の席に付き準備を始める。
「今日は何かなぁ」
スイッチを入れリンカーをアースへつなげる。銀色の蓋を開ければそこには白い皿の上に10粒のカプセルが置いてあった。
『人工知能アースへの接続を確認。これより食事を開始します』
テロップが流れ味覚、嗅覚、視覚、触覚がアースの作り出した疑似世界へと飛ばされる。
バリッ。バリッ。プチ、プチ。
疑似世界へつくと同時俺たちは一斉に
カプセルへ手を伸ばした。
食事の時間はものの3分程度。
「戻りましょうか。アスター、ケラシー」
イヤホンとリンカーを外したロウリエが微笑み言った。
「本日は生物学と化学でしたよね」
「………となると、部屋は―――」
ガタァァァンッッッッ。
視界のはしで何かが揺れた。椅子の倒れる音とともにケラシーが呻き声を上げながら倒れていた。
「ケラシー……………!!」
ロウリエが名前を叫び他の奴らの悲鳴が上がる。
「………ぅ………ぇ、ガハッ…………ゴホ……」
心臓のあたりを手で抑え苦しげに血を吐き出した。
何が、起きている。
今日も昨日と変わらない、ページを繰り返すような日々が続くのではなかったのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます