第14話 ウミウシ時間
★「おしゃれ」「お母さん」→マンモス白珊瑚の森に住む。おしゃれ金平糖ウミウシ。
★「いちご」→船形石珊瑚に住む「おしゃれ」の心友。いちごジャムウミウシ。
★「兄」→マンモス白珊瑚の森に住む14匹の魚たちの長男。青くて大きめの魚。過度の心配性の特徴あり。
★「妹」→マンモス白珊瑚の森に住む14匹の魚たちの末っ子。オレンジ色の小さな魚。しっかり者の性分。
「そうよ。今夜はいい星の晩だわ。いちごさんの所へ行かなくちゃ。このままほっておくと、お母さんがかわいそうだわ。まだ動かないで、じっとしたままなのよ。お食事とか、ちゃんととっていらっしゃるのかしら? 心配だわ。いっこくも早く、いちごさんになんとかしてもらいましょう」
マンモス白珊瑚の森から、ウミウシ時間で南へ五時間ぬたった所に「いちご」が暮らす《星の船》がある。「ぬたった」とは、ウミウシ言葉で「歩いた」という意味である。
「ウミウシ時間」。
それは通常の海の生き物たちの時間に合わせて生活することができないウミウシの習性から生まれた。
ウミウシたちは、明日を知らない。未来を考えることが出来ない。
だからウミウシたちには、明日や未来に向かって行動する、という大それたことはありえないのだ。
ウミウシたちには、「いま」がすべてだ。
「いま」が生き続けている限り、ずっと続いていく。
ゆっくりしたペースで生きるウミウシスタイルは、「明日」「未来」という言葉を取り去り、そこへ「いま」を置く。
すると、どうなるだろうか。
「いま」は「明日という、いま」とつながり、結局、時は、「いま」「いま」「いま」と積み重なっていく。ずっと「いま」がつながっていくのだ。
そうだとしても、「いま」だから、変化しないということではない。
とにかくのんびりとした時間だけれども、確実に時間は過ぎている。
ただ、「いま」に終わりがないだけなのだ。
どうしてなのだろう?
あまりにもゆっくりとしたウミウシの生の営みが、
ついには他の海の生き物たちの時間というものにはついていけなくなり、
やがてそれ独自の、いわゆる「ウミウシ時間」を創り出すことになったのだろうか?
ウミウシの生態や文化・進化の研究は、おそらくまだ未知の領域に止まっている段階なのであろう。
彼らのことが詳しく解明されるまでには、まだ時間がかかりそうだ。
〈続く〉
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