第29話 武闘派組織とダグドの話

 次の日。アックスとガードンは会って欲しい人物がいると、屋敷に何人かを連れてきた。


「んで? そいつらが昨日遊んでやった覇乱轟とかいう奴らか?」


「おう。ダグドに聞いたが、水迅断もそこそこ手を焼いていたらしい」


 覇乱轟は完全な武闘派組織だ。全員がごつい体格をしており、強面揃いときている。まぁガードンに比べたら可愛いもんだが。


「何でも水迅断みたいに、商売熱心な組織が管轄する地域を狙っては暴れていたらしいぜ」


「今までもそうして手打ち金をせしめては、またエリアを変えて暴れていたらしい」


「へぇ……」


 悪い商人は一般人からぼったくるが、こいつらは金回りの良い組織をターゲットにして縄張りを荒らしていた。


 聞けば全員が旧グラスヴァン王国という国の出身だという。全部で30名。人数は少なくとも、共に育った身内の様な関係といったところか。


「こういう見た目だし、地元でも腫物扱いだったそうでな。で、そんな奴らが集まって帝都に乗り込んで来た」


「暴れるためにか?」


「いやぁ、それがな。最初はちゃんと働くつもりだったらしいぜ」


 だが帝都でも職を探すのは容易ではなかった。見た目もあるが、旧グラスヴァン王国出身だというのがまずかったらしい。


「帝国には平民にもある種の階級みたいな意識があるらしいんだ。で、帝国と戦った上で負けた国の国民は、それだけで見下されがちなんだと」


「なんだそりゃ」


「もちろんそんなのは一部の話だとは思うが」


 地域性もあるのかもしれないな。城壁外ではあまりそういった空気は感じなかった。


「貴族だとそういうのもありそうだがな。案外そんな貴族と取引している金持ちの商人を通じて、一部の平民にも伝染したのかねぇ」


 そして巡り巡って、こいつらは暴力で結束する組織を作ったそうだ。


 しかし一般人に手を出せば、兵士が飛んできかねない。そこで抱えている武闘派の数は少ないが、金回りの良い組織が支配する地域で暴れることにしたそうだ。


「で、黒狼会が水迅断を乗っ取った後もこうして暴れていた訳か」


「そうだ。昨日も暴れていたが、俺たちで片付けた」


 見れば30人の男たちは全員、顔や身体に痣が見られる。重傷者は少なそうだが、中には包帯を巻いている者もいた。ガードンは1人の男に視線で促す。


「挨拶が遅れて申し訳ありやせん。俺は覇乱轟でボスをやっていたズオウといいやす。この度はご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ございませんした」


 そう言うとズオウは頭を下げた。しかしこいつもでかいな。頭を下げて俺の身長くらいだ。


「ズオウ。目の前の男こそ、俺たち黒狼会をまとめるボスの中のボス。ヴェルトだ」


「あのアックスさんとガードンさんが従っているとは……」


「でもガードンさんの方が強そうに見えるけど……」


「ばかやろう! アックスさんもああ見えて、俺たち手も足もでなかったじゃねぇか!」


「ガードンさんたちがボスと認めるお方だぞ!」


 でかい男たちがざわついている。聞けばズオウたちは当初、水迅断がなくなった事で一部の地域を切り取ろうとしたらしい。


 水迅断の幹部たちが黒狼会に惨たらしい殺され方をした話は聞いていたらしいが、自分たちは腕に自信があったので、新参の組織なんざ恐れる理由はないと息巻いていたとのことだ。


「ところが30人もそろって、2人の男にやられたと」


「へい。今では調子にのっていたと反省しておりやす。ですが聞いたところによると、黒狼会は一般人には親切にをモットーにしておられるとか。それを聞いて、俺たちも傘下に加えていただけないかと、お願いに参った次第です」


 覇乱轟からすれば、水迅断の様な一般人から財を巻き上げている輩であれば、金を奪っても良いだろうと考えていたらしい。


 そしてそれを市井で消費することで還元しているつもりだった。まぁ詭弁以外のなにものでもないが。


 結局こいつらも徒党を組んで、暴力で飯を食う快感に取りつかれただけだろう。


「まったく。うちはそれなりの規模になったとはいえ、いくつか商売は閉じさせているからな。決して人を増やす余裕がある訳じゃないぞ」


「いや~、それがよぉ! 何でもしますからお願いしますって泣きつかれちまってなぁ!」


「なんでもねぇ……」


 まぁズオウたちの立場も分からないでもない。暴力で成り上がった以上、一度でも敗北すれば帝都に混在する多くの組織から舐められる事になる。


 暴力一辺倒は強い存在感を打ち出せる一方で、負けてしまえば一気に地におちてしまうのだ。それまで築いた強さへの信頼やブランドが無くなるからな。


 一方で、黒狼会にこうした手の者たちが少ないのは事実だ。現状、俺たち6人の極端な力で引っ張っている様なものだからな。


 組織の規模が大きくなっても、実力者が6人だけでは手が回らない箇所も出てしまう。


「この中で殺しの経験がある奴は?」


 俺の問いかけに、ズオウを含めた数人が手を上げる。元々祖国でも暴れ者だった奴らだ。実戦経験は無いが、勢いあまっての殺人は経験があるとの事だった。


「ま、殺しについては今さら綺麗ごとを言うつもりはねぇから安心しろ。んでアックス、ガードン。実際使いもんになりそうなのか?」


「ちょっと使いに出すくらいなら問題ねぇだろ」


「ああ。しかし現状では不満があるのも確かだ。もし必要なら、俺が鍛えてやってもいい」


「……うへぇ、嫌なことを思い出しちまった」


 俺も昔はガードンに鍛えてもらった時期があるからな。まぁガードンはそういう面倒見の良いところがあるし、そのガードンが言うなら別にいいか。


「分かった。ただし掟は徹底させろよ」


 ダグドに30人増えたからよろしく、て伝えておくか……。





 昼からはロイと一緒に視察に回る。城壁外はレッドとログが上手く管理してくれていた。


 現状、黒狼会の評判は上々といったところだろう。旧青鋼や水迅断の様な無理は言わず、脅しもない。


 そして組織同士の抗争が無くなり、いくらか治安がましになったのだ。金を納めている店には、何かあった時には応援に行かせている。


 ある程度目的を果たしたところで、帰ろうとする。しかしその道中、こちらに向かって走ってくる男がいた。


「あれは……ダグドの部下ですね」


「え、顔分かるのか?」


「ええ。あの人、よく本拠地にも使いで来てますので」


 ロイが言った通り、その男はダグドの部下だった。男はやや緊張した顔つきで要件を述べる。


「今からダグドの家に来てほしい?」


「は、はい。もちろん、お忙しい様でしたら明日か今晩、ダグド様から出向くとのことです」


 あいつには黒狼会の運営関連をほとんど任せているからな。きっと忙しくて、自身が動く時間を作るのも一苦労なのだろう。


「いいぜ、今から行ってやるよ。ロイはどうする?」


「もちろんご一緒します」


 男はダグドに俺たちの来訪を告げるため、来た道を走って戻っていく。あれもあれで大変だな……。


 しばらく歩いたが、俺たちはダグドの家に着く。ダグドは玄関まで迎えに来ていた。


「ヴェルト様、すみません……! ご足労いただきまして……!」


「かまわんって。んで、何の様だ?」


「ここではなんですので、中へお入りください」


 ダグドが先導し、広い部屋へと通される。そのまま人払いを済ませると、ダグドは口を開いた。


「実は二つ……いや三つ……いやいや、四つほどお伝えしたい事があるのです」


「多いな……」


 きっと普段から、どこまでであれば自分の裁量で決めていいか、どういう内容であれば俺の判断を仰ぐかを考えているのだろう。


 もう少しダグドとはコミュニケーションをとる様にした方がいいかもしれない。


「まずは一つ目ですが。雷弓真という組織から私宛に書状が届きました」


「知らない名前だな。というか裏組織同士、手紙のやり取りなんてあるのか」


「大体の組織は何かしらの商売をしている以上、調べれば本拠地や幹部の家が分かりますからね。分からないのは暗殺などを生業にしている闇組織とかですよ」


 まぁ裏組織なんて言っても、住民に知られている組織は多いからな。黒狼会なんかもそうだ、今は真っ当に商会の看板も掲げている。


 本当にヤバイことだけをしている組織は、表に出てこないか。あるいはどこかの組織の裏の顔になっているのだろう。


「雷弓真は冥狼の下部組織です」


「ほう……」


「水迅断は冥狼の派閥でしたからね。雷弓真とは多少の親交がありました。その伝手で私に連絡がきたのでしょう」


「なるほどな。で、なんて書いてあったんだ?」


 想像はつくがな。むしろやっときたかといったところだ。


「はい。黒狼会のボスに、冥狼の派閥に入る様に伝えろと記載されていました。また雷弓真のボスが一度ヴェルト様にお会いになりたいそうです」


「ふぅん……?」


 裏組織は裏組織同士、仲良くして生きましょうってか。まぁ平民や貴族の間で存在感を出していくためにも、こういう繋がりは重要なんだろうが。


「今は正直言ってどこの組織も、黒狼会のボスの顔を一度は見てみたいと考えています。何しろ帝都に来て短期間でこれほどの組織を立ち上げたのですから」


「ああ、道理で外に出たらたくさん視線を感じると思った。中には明らかに俺をマークしている気配もあったからな」


「ええ……!?」


 きっとどこかの組織からの回し者だったのだろう。しかし俺は今まで暴れる時、いつも黒曜腕駆の兜を身に付けていた。にも関わらず俺にマークを絞るとは。


 まぁいつも屋敷にいるし、ロイたちと出かけていればあたりはつけられるか。


「日にちは指定されているのか?」


「はい。5日後、城壁内北西部の高級料理店を指定しています。おそらく雷弓真の息がかかった店でしょう」


 雷弓真について詳しく教えてもらう。組織の規模としては、水迅断よりも大きいとのことだった。


 しかも冥狼の下部組織だけあり、金回りも武力もそろえているとの事だ。


「何しろ大組織の直接の傘下ですからね。足りない人材は冥狼からも回されているはずです。そして雷弓真は、風俗街など歓楽街を中心に拠点を築いているのです」


 歓楽街とこういう組織は関係が深いからな。そして性産業は動く金も大きいし、金貸し屋とも繋がりが太い。


 冥狼の下部組織だけあり、相応の市場を任されているのだろう。


「冥狼と影狼を除けば、雷弓真はトップグループに入る組織です」


「うかつに手をだせば、親組織である冥狼も黙ってはいない。縄張りを荒らされる心配もなく商売ができている、か」


「その通りです。おそらく冥狼の下部組織のボスと、黒狼会のボスが会ったという事実を作りたいのかと」


 それで自分の縄張りまでこさせるとは。どちらが上の立場なのか、暗に伝えてきているつもりだろうか。


「派閥には入らないが、冥狼の情報を集めたいのは確かだ。まぁ後で考えるよ。で、二つ目は?」


「はい。チェスカールという貴族が、面会を求めています」


「貴族ぅ!?」


 チェスカール・ユニカール。領地を持たないそこそこの貴族らしい。


 聞けば水迅断は元々、このチェスカールと関係があり、良い商売相手だったそうだ。


「実はヒアデスが、フェルグレット聖王国民の奴隷を売る約束をしていまして。おそらくその件かと」


「ああ……そっちの方が面倒そうだな……」


 ヒアデスは5人の聖王国民全員売るつもりだったらしい。しかしヒアデスは既に死んでおり、水迅断は黒狼会が乗っ取った。


 奴隷商売自体は合法のため、今も商売をさせている。そのことを知ったチェスカールは、今度は黒狼会から奴隷を買うつもりなのだろう。


「まったく……。お前も厄介の種を作ったもんだ」


「す、すみません……!」


「聖王国民の奴隷は違法なんだろ? チェスカールとやらに売ってから、そのことが他に知られたらどうなる? 絶対他の貴族に自慢するだろ、そいつ。チェスカールから黒狼会の名が出ても面倒だし、噂を聞きつけていろんな奴らが奴隷を売ってくれと殺到してみろ。あっという間に違法奴隷を取り扱っていると知られるぞ。下手したら騎士が取り締まりにくる」


 そもそも何故フェルグレット聖王国民の奴隷を連れてきてはいけないのか。何か違法になる理由があるはずだ。どう考えてもリスクしかない。


「んで、チェスカールも日時を指定しているのか?」


「はい。明日、黒狼会の本拠地……ヴェルト様のお屋敷に行くので、場をセッティングする様にと」


「おいおい、いきなりだな……」


 とはいえ、これも分からないでもない。俺も元は貴族としての教育を受けた者だからな。自分の都合を優先し、明日空いているのなら明日にするかと判断するだろう。


 あいつらは基本的に、平民の都合は考えないからな。


「まぁいい。会うだけ会ってやる。だが奴隷は売らないし、それで関係が絶たれるのならそれまでの相手だ。どうせ貴族街から飛び出てこんな組織の世話になる奴だ、無視しても大した影響がある奴じゃないだろう」


「は、はぁ……」


 ダグドは少し戸惑った反応を見せる。貴族といってもピンキリだし、ましてやここは大帝国の帝都だ。並の商人よりも大したことのない貴族なんて、掃いて捨てるほどいるだろう。


 貴族だからというだけで、一々相手をしていたら時間がもったいない。


「三つめは?」


「はい。黒狼会の運転資金です。いくつか商売を閉じましたので、今は水迅断の時ほどの儲けがありません。それに水迅断の時には金を納めていた店も、黒狼会には様子見で金を納めていないところもあるのです」


「その上30人の大男たちも入ったしなぁ……」


 水迅断の商売の中で、一般人に迷惑をかけるものは全てやり方を変えさせた。辞めたら辞めたで、他の組織が代わりに商売を始めるだけだからな。  


 ダグドや元水迅断の幹部に知恵を出させ、あくまで掟の範囲内で商売する様にと伝えている。


「そもそもお前らも私兵を持ちすぎなんだ。覇乱轟とか役に立ちそうな奴らならともかく、居ても居なくても変わらん奴も多いだろう。どうせ縁故採用とかで増やしたんだろうが、良い機会だ。いくらか金を握らせて、一般社会でやり直せそうな奴は放逐しろ」


「え……」


「ただし事務仕事が有能な奴、それなりに働ける奴は残しておけ。あと社会に出したら暴れそうな奴もだ。放逐するのは毒にも薬にもならない奴らに限定しろ」


「は、はい……」


 要するに収入に対する人員の規模が合っていないのだ。根本的な解決にはなっていないが、ある程度人員は絞りたいので構わない。


「実はそれに関してなのですが。黒狼会の評判を聞いて、何人かヴェルト様と会いたいと話している商人もいるのです」


「……ん?」


「彼らを上手く味方に付ければ、黒狼会へ資金も出してくれます。一度会ってみてくれませんか……?」


 雷弓真、チェスカールに続いて今度は商人に会えってか。


 だが前者の2人に比べると、こっちは会う価値が高い。俺は帝都に来たばかりの時のことを思い出す。


「商人は帝都を出る時、護衛を連れて行くんだよな。そしてその護衛は俺たちみたいな組織が用意している訳だ」


「全部が全部という訳ではありませんが、おおむねその通りです。そして組織には護衛料が支払われます」


 取り扱う商品や、移動距離によって金額は変動するだろうが。護衛料を高く設定し過ぎると輸送コストも跳ね上がるため、金額自体はそれほど期待はできないだろう。

  

 しかし商人の間で評判には繋がるし、小遣い稼ぎくらいは期待できるか。


「商人たち中には、ヴェルト様のやり方……特にこれまでの組織とは違う姿勢に、強い興味を持っている人もいるようです」


「分かった。場所は任せるから、セッティングしておいてくれ。四つめは?」


「……これは少し小耳に挟んだことなのですが。ヴェルト様は閃刺鉄鷲という組織を聞いたことがありますでしょうか?」


 ロイに視線を向けるが、首を横に振る。そもそもここに来て日が浅い俺たちは、そこまで事情に通じている訳ではない。


「いや、知らないな。有名なのか?」


「一部ではとても有名な暗殺組織です」


「ほう……」


 これぞ裏組織と言うやつがきたな。俺たちの様な地域振興会ではなく、本物の闇組織だ。


 しかし名が知られているのは間抜けなのか、本物なのか……。


「これも商人たちから聞いたのですが。彼らの一部が今、ここ帝都に潜伏しているらしいのです」


「そりゃ物騒だな。商人の口に上るくらいだ、騎士も放っておかんだろ」


「そう願いたいのですが、どうやら影狼か冥狼かに雇われているみたいでして……」


「……最悪な組み合わせじゃねぇか」


 つまりもっと上流を辿れば、どこかの貴族に行き当たる可能性もあるということだ。こりゃ騎士は動かんかな。


「彼らは最近、人探しをしている様なのです」


「暗殺者が人探しねぇ……」


「何でも仕事を邪魔した少女を探しているとか」


 暗殺者の仕事を邪魔し、狙われることになった少女か。そりゃ可哀そうだ。


「仕事を邪魔されたことといい、えらく詳しいんだな」


「何でもその少女は、仕事中の暗殺者たちを全員気絶させたらしいのです。そして後からかけつけた衛兵が連行していった」


「なるほど。でもよく暗殺者たちも自分たちの所属を話したな」


 だから名が知られているんだろう。拷問に負けたかな。やっぱり大したことはなさそうだ。しかしダグドは複雑な表情を浮かべた。


「それが……。暗殺者たちは遅効性の毒を飲んでいたらしく、全員口を割る前に死んだとのことなんです」


「……なに」


 話が一気に物騒になったな。どうやら本物の方だったか。俺の中で暗殺者たちの評価がどんどん入れ替わる。


「じゃなんで閃刺鉄鷲とかいうところの暗殺者だって分かったんだ?」


「閃刺鉄鷲も歴史が長い組織なんですよ。断片的ではありますが、いくつか知られていることもあります。その中の一つに、閃刺鉄鷲の構成員は、身体のどこかに二本の剣と大鷲を模った刺青があるという話があるのですよ」


「なんだと……!?」


 二本の剣と大鷲。それを聞き、俺とロイは両目を大きく見開く。俺たちにとってそれは、忘れられない文様だ。


「……どんな文様なのか分かるか?」


「すいません、そこまでは……」


 さすがにそこまでは分からないか。裂閃爪鷲と何か関係があるのか、照合しようと思ったんだが。


「まぁでも大体読めたぜ。そんな狂ったマジモンの暗殺者たちだ、仕事をする時は離れた場所に見届け人を用意していたんだろう。実行犯は死んだが、その見届け人が仕事を邪魔した少女を目撃していたんだな」


「なるほど……。それで少女の情報が回っていたのですね……」


 しかしその情報もどこからか意図して流されたものだろう。


 わざわざ暗殺者の恥になる情報を流すんだ。目的は広く情報を集めることか、炙りだすことか……。


「それでですな。私はその少女、フィン様ではないかと思っているのですが」


「……あん?」


「い、いえ! その、閃刺鉄鷲の手練れたちを何とかできる方と言えば、ヴェルト様たちしか思い当たらなかったので……! 心当たりがないのなら別に構わないのです……!」


 何を言うかと思えば……。フィンが暗殺者と戦った話なんて、聞いたことがない。


 しかしここまで静かに聞いていたロイが口を挟んだ。


「ヴェルトさん、あれじゃないですか。貴族街でさらわれそうだった女の子たちを助けたという……」


「いや、ありゃフィンが掟に則って暴漢たちと遊んだってだけだろ。大した相手でもなかったみたいだし」


「そう言われたらそうですね。フィンは全員、気絶させるだけの手加減ができる余裕があったみたいですし。……あれ? そういえばそのごろつきたち、全身黒づくめで仮面を付けていたとか話していませんでした?」


「おお、そういやそんな事を言ってたな! まるで暗殺者みたいな恰好じゃないか! ……」


「…………」


「…………」


「………………」


 あの時聞き流していたフィンの話を思い出す。


 ……あれ、もしかしてフィンが相手してたのって……。


「あの……。暗殺者たちは衛兵に連れて行かれたと話しましたが。つまり直ぐに衛兵が来られる場所……現場は貴族街だったのではないかと言われているんです……。というかフィン様、貴族街の中に潜入していたのですか……。いや、それ絶対フィン様ですよぉ! 閃刺鉄鷲の暗殺者たちが探している少女、やっぱりフィン様じゃないですかぁ!」


 うーむ。そう言われたらそんな気がしてきた。ダグドが話す4つの話題はどれも厄介ごとの匂いしかしねぇな……。

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