コーラとビールとコーヒーで

ヒビヲツヅル

髪を切る

髪を切る、長かった髪を突然短くする、女子にとってその行為は失恋を意味するという。かくも最近の女子にとってはその意味は薄れつつあり、昭和かよ、という突っ込みが聞こえてきそうだが。髪の短い女性はどちらかというと、大人な印象が僕にはある。なぜだろう?ふと思い浮かぶのは、髪を切るという動作が一種の切り替えのタイミングだからだろうか。


この前テレビをも観ていたときの、ある女性アイドルが言っていた言葉が脳裏に引っかかった。「いつになったらかわいい衣装を着て、青春を感じられる歌を歌えるのだろうか?」という言葉だ。そのアイドルの所属するグループはどちらかというと、社会に反抗する思春期の葛藤をコンセプトにしている、その点がファンの心をつかんでいるのだろうが、彼女にとってそれは当初のなりたい像からは遠いところにあったのかもしれない。本当は憧れのアイドルがいて、そこに近づくべくオーディションを経て一般人が歩む世界から外れた芸能界への歩みを始めた…しかし、求められるのはキラキラした世界の側面に存在する思春期のダークな一面を代弁するアイドル。当初の彼女はロングヘアで自分がなりたいアイドルをその反中で模索していたのかもしれない、彼女に求められる世界と自分のなりたかった姿のすり合わせを何とかできないか、自分の気持ちとは裏腹にグループのコンセプトは世間に浸透していく。止まることのない急行列車のように。グループの他のメンバーも同様の気持ちだったのだろうか。次第にグループは代弁者としての使命に飲み込まれていった。結成当初は希望にあふれていただろう。夢だったアイドルのスタート台に建てた。ここから自分の未来は光り輝くのだと。しかし、見渡してみるとグループを脱退する仲間がぽつぽつと現れ始めた。そんな時、彼女は髪を切った。何かに折り合いをつけるように、もしくは少女だった自分とさよならを告げたのかもしれない。自分に求められている使命を知って彼女は大人になった。短くなった髪は彼女のトレードマークとなっている。


僕にとって髪を切るとは、今の自分と別れを告げるものだと思う。そんな大それたものではないかもしれないけどね。

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