強く握って、どうか離さないで
夜摘
1.幼馴染と悪い予感
ひらり、ひらり
毎散る桜の花を見ているふりをして
その向こう、並んで歩いていく二人の後姿を複雑な思いで見つめていた
"絵になる二人"を見せ付けられるようで
どうしてあそこにいるのが自分ではないのだろう?なんて、泣きたい気持ちになる
空しくて、惨めで、悲しくて、苦しくて
頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって、おかしくなりそうだった
どうしてこんな風になってしまったんだろう
私はただ一緒に居られたら良かったのに…
それだけで良かったのに
きっかけは突然。
いつまでも変わらないと信じていた、いつも通りの日常の日々の中、突然に訪れた。
私、佐伯茜とあいつ、原田祐希は幼馴染。
家も隣だったから、別に約束していたわけでもなかったけれどいつも一緒に下校していた。
お互いに部活もやっていなかったし、私に一緒に帰るような友人が他に居なかったのも多分その理由の一つだったと思う。
こう考えるとお互い新しい友達が作れなかったコミュ障同士みたいで情けなくはあるけれど、少なくとも私はそれをそこまで悪いものとは思って居なかったし、多分祐希にとってもそうだろうって何の疑いもなく信じていた。
「ごめん。今日は一緒に帰れない」
ある日、そんな風に告げられた時は、思わず驚いてしまったくらい
私たちは当たり前のようにいつも一緒だった。
「え、どうしたの?先生に何か頼まれたとか?」
「そう言う訳じゃないんだけど…」
どこか煮え切らない、言い淀む姿に私は嫌な予感がした。
何か私に隠してる?
そんな風に思いながらもそれを問い詰める勇気は出なかった。
「別にいいけど…」
「…それじゃあ先に帰るね」
困った顔を見続けるのが何となく苦しくて、私はそう言ってあげた。
案の定、私がそう答えると祐希は安堵したように小さく息を吐いて、
なんだかそれがとても不愉快だった。
「気をつけてね」
私は祐希に見送られて教室を出た。
ここでムキになって問い詰めるのもなんだか変な感じに思えるし、
明日にでも「そう言えば昨日の」なんて、何でもない世間話みたいに話を切り出して、さりげなく今日のことを聞いてみよう。
そしたら、案外何でもないことで拍子抜けしてしまうのかも。
そうであって欲しい。
きっとそう。
そんな風に、不安になる心を何とか誤魔化しながら、
私は普段より足早に帰路を歩いた。
「ただいま~」
夕飯の支度をする母親に声をかけ、
二階へ続く階段を上がり、自室のドアを開けて部屋に入ると、
私は鞄を乱暴に床に投げ落としてベッドに飛び込んだ。
お気に入りの羊の形のクッションに顔を埋めると、
その肌触りが心地よくて思わず少しだけ顔が緩むのが分かる。
こういう時自分の心を癒してくれるのは甘いものと、ふわふわもこもこだ。
クッションの柔らかさを堪能しつつ、また頭に浮かんでしまうのは先ほどのこと。
「あいつの用事って本当になんだったんだろう…」
一人でいると気になって気になって仕方なくなってしまう。
勉強机に向かっても、お風呂で浴槽に使っていても、
寝てしまおうと布団に潜り込んでからも。
もしかして他の誰かと一緒に帰ったのかな?
誰と?
私の他に仲良しの相手が出来た?
私はもう要らないの?
私のこと、嫌いなっちゃったの?
そんな風にごちゃごちゃ悩んでいるうちに
いつの間にか寝てしまっていたようで
私は次の朝、泣きながら目が覚めた。
最悪の気分だった。
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