第44話「かくれんぼで稼ぎまくる」
エリックはホリィが向かってくるまでの短い時間を使い、見つからないように公園で息を殺して隠れ、見つかる時間を稼ぐ。
ホリィが公園に辿り着くまでの間にマンホールの爆破でぐしゃぐしゃになった右手はなんとかナイフを握れるくらいには回復しており、ハンマーで叩かれた頭も徐々に復活し、モヤが晴れたように思考がクリアになってくる。
(最後の策は、頭がしっかりしてないと使えないからな。かち割られたときは本当に焦った。あそこでホリィが攻撃を容赦なく続けていたら、確実に死んでいたね)
しかし、死と隣合わせの状況は未だ継続中である。
ざっざっ。
公園の土を踏みしめる音がエリックの耳に届く。
落下地点はホリィからは見えていないはずだが、おおよその位置、そして隠れられそうなものがあるという点で公園に訪れた可能性が高い。
(もう少し、回復したい。時間が欲しい! どうか、神様、ホリィが気づきませんように)
聖女から逃げるのに神様に願い事をするという訳の分からない状況であるが、他にすがるものも思いつかず、なんでもいいやと神頼みする。
この公園は最近にしては珍しく、しっかりと遊具がある。
ジャングルジムにブランコ、すべり台に、シーソー、砂場もある。
周囲には花壇に草木が植えられ、緑が楽しめる。
最初に見上げた時計は無機質に時を刻む。
この公園の中で人が隠れられそうな場所は、ジャングルジムとすべり台のかげ。それから周囲の花壇の茂みくらいであった。
ざっ。ざっ。
足音がジャングルジムに向かう。
ところどころに壁板があるタイプのジャングルジムだが、死角がいくらかあるだけで、すぐに隠れているかどうか分かってしまう為、足音はそこで、少し留まってから、すぐに移動していく。
次に向かった先はすべり台へ足音は向かう。
すべり台も四方が壁に囲まれたスペースがあるが、やはりほとんど死角はなく、こちらでも少し留まってから次の花壇の茂みへ。
(見つかるな。見つかるな!)
ホリィはハンマーを振るって一気に花壇を破壊することはせず、手で優しく草木をかき分けてエリックを探した。
草木の心配をし、効率を落とした行動はそれなりに時間が掛かり、結局、
「おかしい。いないわね。ここじゃないのかしら?」
目ぼしいところは全て探したがエリックを見つけることが出来ず、周囲をうろうろとうろつく。
「何か、音でもすれば分かりそうだけど……」
ホリィは周囲に耳を澄ませてみたが、
「チッ。この変な音が邪魔ね」
ずっと耳障りに「ぶぅーー」と鳴り響く異音が索敵を邪魔する。
それでも、ホリィはもう少し頑張り、耳を澄ます。
(確か人間の中にはソナー並みに耳が良い人間が居るって言うのを聞いたことあるし、盲目の人間は音の反響を感じ取ることが出来るっていうのもあった。これって、呼吸どころか、心臓の鼓動ひとつでもまずいんじゃ……)
エリックはもともと殺していた息はそのままに、心臓も鼓動しないように止めてみせる。吸血鬼ならでは解決法であった。
その甲斐あってか、
ざっ。ざっ。
足音が遠ざかる。
(ふぅ~、なんとかなったか?)
エリックはなんとか隠れ切れたと安堵の息をもらしてしまった。
「見~つけた」
「っ!?」
ホリィの無邪気な子供のような声と共に砂場にハンマーが振り下ろされる。
「うわああぁぁぁっ!!」
砂場の中に潜っていたエリックは、音を完全に消し、砂と夜の闇をもって隠れていたが、たった一呼吸でホリィに見つかってしまった。
心境は、ホラーの怪物に狙われたヒロインのようで、慌てて砂場から脱出する。
「砂にまみれるとかエリートっぽくないことまでして隠れていたのに。一瞬の油断で見つかるとか報われなさすぎだろっ!!」
「随分饒舌になったわね。回復はもう充分ってことかしら?」
「できれば、左手が生えてくるまで待ってほしいんだけど」
「生えてくるの、それ? でも、折角の有利を手放すと思う?」
「いや、全然思わないね」
「ぶぅーー」という音が一際大きくなり、エリックの真っ白い顔はどことなく上気し赤くなっているように月明かりの下、見える。
「ようやく、
エリックは優雅な仕草で体についた砂を叩く。
砂がぱらぱらと地面に落ちたと思った瞬間、ホリィの喉元にエリックのつま先が寸止めで捉えていた。
「さっきまではホリィを倒すまでの損。ここからは俺が一方的に得をするところだ」
「ふ~ん。いつもの伊東エリックだと思わない方がいいってことね。でも寸止めなんて余裕じゃない。いまのが最初で最後のチャンスだったかもしれないのに」
「遺言を聞いてくれようとしたお返しだよ」
エリックとホリィは共に悪人のような笑みを浮かべあった。
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