第42話「街頭スピーカーで稼ぎまくる」
「くっ……」
ホリィはその賛美歌を聞くとハンマーを落とし、両手で耳を塞ぐ。
「あのダンジョン吸血鬼の洗脳もあって、どうやら俺の音波洗脳も効くみたいだね。さて、それじゃ、軽く戦闘不能になってもらうよ」
エリックは懐から今度はスタンガンを取り出す。
もともと一方的に勝てた場合、あまり傷つけずに気絶させる方法として装備していたのが、まさか役に立つとはと驚き半分ありつつ、スイッチを入れる。
「くっ、ううっ。これしき……、あ、ああ……」
耳を塞ぐだけではエリックの洗脳は防げないようで、いつの間にか耳を押さえていた手はだらんと下がり、抵抗の意思が見えなくなる。
「勝った! これで夢のタワマンに近づいたぞっ!!」
スタンガンをホリィの首元に押し付けようとした瞬間――。
ぐさっ!
エリックの太ももに鋭い痛みが走り、急いでその場から立ち退いた。
太ももを見ると、そこには深々とロザリオが突き刺さる。
「ふぅ、危なかったわ。もう少しで洗脳されるところだったわね」
額の汗を拭い、洗脳に対し別の何かで必死に対抗したという面持ちであった。
「いやいや、何、自力で危機を乗り越えましたみたいな面してんのっ!? そう言うのって普通、自分の太もも刺して乗り越えるだろっ! 人を刺して正気を取り戻すってどういうこと!?」
「魔が差してやりました。今は正気です。大変申し訳ないことをしたと反省していま……せん」
「反省の色なしっ!! くそっ、罪悪感とかそういう倫理感どうなってんだよ! どうしたらこんなバケモノに勝てるんだっ!!」
「小細工なんかしないで掛かってくるのが一番勝率高いんじゃない?」
煽る様なセリフだが、嘘をつかない聖女。本当に心からの言葉なのだろう。
「いーや。ホリィは俺を安く見積もりすぎだな。小細工して優雅に勝つのがエリートとしての矜持。策はまだまだあるっ!」
エリックは公園脇に位置するマンションの壁を登り、距離を取る。
そして、丁度真ん中くらいで留まるとホリィが追ってくるのを待った。
「良し良し。ついて来たな。この位置関係は一番俺が地の利を得られる場所っ! そこから上をただ眺めながら倒れるといいっ!」
地上にいるホリィに向かって、エリックは伊東屋特性のフォークとナイフを無数に取り出し、投げつけた。
重力も加わり、かなりのスピードでホリィを襲う。
「っ!!」
多くはホリィのハンマーによって防がれたが、それでも何本かのフォークとナイフはホリィに傷をつけた。
「良しっ! 初ダメージっ!! こっちにはフォークもナイフもまだまだあるから、このままガンガン行くぞっ!!」
再びフォーク・ナイフを投げようとしたとき、目の前に翼が見えた。
そして、その翼の下には人型と不気味な形状の影。
「地獄の黙示録かな……」
それは、機関銃を構え、カントリちゃんに掴んでもらって飛翔するフランだった。
キュルルと機関銃が唸りをあげた次の瞬間、弾丸が雨あられと降り注ぐ。
「うええっ! カントリは卑怯だろっ!! しかも、マンションに穴がっ!! どうすんだよこれっ!! バカスカやりやがって。こっちは騒音にならないように消音装置まで用意したって言うのによっ!!」
壁を走り、なんとか銃弾を避けながら叫ぶエリックに対し、
「え~? お金で解決で良くないですか~。ちゃんと事前に買収してあるので、騒音も破壊もオーケーですよ~」
全く悪びれる様子も無くフランは言い放つ。
「お金で解決は一度は言ってみたい言葉第一位っ!! あっ――」
弾丸を避けるのに夢中で、足場が無くなっていることに気づかなかったエリックはそのままホリィが待ち受ける地面へと落下する。
「くそっ! 本当に地獄は下にあるのかよっ!! だが、独りじゃ落ちないっ!!」
エリックはナイフをフランへと投げつける。食器用のナイフは機関銃へ深々と突き刺さり、使用不能にする。
さらにスタンガンも投げつけ、カントリにショックを
与えたことで、飛行不能な状態に追い込む。
「あらあら~」
カントリの決死の頑張りにより、なんとか墜落は免れたようだが、フランはマンションの真ん中ほどのベランダに着地を余儀なくされた。
(良し。これでフランさんとカントリは封じた。あとは最大の障害、聖女ホリィだけだ!)
急速に迫る地面。エリックは衝撃を散らすように体全身で受け身を取る。
吸血鬼でなければ即死のダメージだが、エリックは体はピンピンしていた。
しかし、目の前に立つホリィの存在にメンタルはボロボロだった。
「はぁ、人間強すぎません? この策はスマートじゃないし年寄りって感じがするから使いたくなかったけど仕方ない」
エリックはスマホのアプリを起動させた。
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