第37話「フルボッコで稼ぎまくる」
全身黒ずくめの男は、彫りの深い顔から吸血鬼特有の鋭い犬歯を覗かせる。
闇の中でも白さが分かる程、その顔には血の気が無く漆黒の髪がその白さをさらに際立たせている。
黒ずくめの体は、どうやらマントを手で押さえている為のようで時代錯誤も甚だしい、伝説上の吸血鬼の姿を地で行っていた。
周囲の闇の帳は耳をよく澄ますと、微かなエンジン音が聞こえ、それがドローン数基によって張られて暗幕だと分かる。
単純な手ではあるが、日中野外で活動するには効果的な方法だと言えた。
太陽を科学でもって疑似的に克服したダンジョン吸血鬼は余裕の面持ちでホリィと対峙する。闇の中では自身が最強だという自負を持って。
「さて、貴方が例の聖女様というやつかな? 我が名は、ブルート・ストーカーと申します」
「名前……」
「ええ、高い知性を有する我らは、貴方達人間を模して便宜上の名前をつけているのですよ。つまりそれは、強者の証。お嬢さん今なら優しく、我の支配下にしてあげますが、どうかな?」
ダンジョン吸血鬼はいつの間にかホリィの背後に回り込み、ホリィの髪をかき上げると、うなじを露わにした。
「さすが聖女、うつく――ぶへっ!!」
ホリィの裏拳がブルートの顔面を捉えた。
「うえぇ~、気持ち悪っ! ストーカーって名前だけあるわ」
その顔には嫌悪感しかないといった表情で、せっかくの可愛らしい顔もこの時ばかりは歪んで見るに堪えなかった。
「伊東エリックがしきりにダンジョン産とは違うって言ってたのも納得ね。確かにこれと一緒にされたくはないわね。そのことだけは今度謝ろう」
ハンマーを手にし、まるで害虫を潰すように容赦なく振るう。
「さっさと地獄に落ちろっ!!」
「ちょっ、まっ、待てっ!! ごはっ!!」
ブルートは何度も迫りくるハンマーにボコボコにされながらも、なんとか脱出し距離を取る。
「ふっ、あくまで抵抗するというのですね。では、少々痛い目を見ることになりま――、ぎゃあああああああああああっ!!」
投げつけられた聖書がブルートに見事ヒットし、まるで太陽に焼き尽くされたかのような痛みが襲う。
「聖書って強いのね!! さすが師匠!!」
初めて聖書としての活躍(?)をしたことにホリィも驚き、心無しか聖書も喜んでいるかのように、地面に落ちた後、パラパラとページが捲れた。
「くっ、これは聖なる力か!? 攻撃力ではこちらが不利ということか、ならば、スピードで翻弄するまでよっ!!」
先ほどは力の違いを見せつける為だけの行為でホリィの背後に周り込んだが、今回は明確に攻撃する為、真横へと高速移動。そして、相手を掴むように両手を広げて襲い掛かる。
「え? バカなの?」
素早く反応したホリィは目にも止まらぬ速さで、ブルートの顎を打ち抜く。
「ぐっ、おっおおっ」
脳が揺さぶられ、よろめく吸血鬼の脇腹に二の太刀としてハンマーが食い込む。
「ごはっ!! な、なぜ?」
「いや、せっかく早いスピードで動いても攻撃する瞬間止まったら、普通に反撃受けるわよね? えっと、アタシ、何か変なこと言ってる?」
もしここにエリックがいたなら全力でホリィを支持していただろう。
それだけに、ダンジョン吸血鬼は理に叶わない、見栄えだけの攻撃をしていた。
「ちゃんと、一連の動作で攻撃しなくちゃ!」
ホリィはハンマーを持って走り出すと、動きながらハンマーを振るう。
「その程度のスピード、回避もたやす――ぐへっ!!」
ハンマーを確かに避けたと思っていたブルートだったが、結果は、キレイに顔面にヒットしていた。
「な、なぜだ! 確かに避けたと思って、いや、攻撃が来る方向を誤認させられたのか!? フェイントという技術だな。だが、ここまで高度なものは、あの女冒険者でも使えなかったぞ!」
「そりゃ、あんたが安い洗脳なんかしてるからでしょっ!!」
さらに不可避の攻撃がブルートを襲う。
「つ、強いっ! これが、聖女……、聖女なのか? 完全に修羅だ。この女は戦いの修羅だっ!!」
吸血鬼すら畏れ慄く聖女。最も恐るるべきはそれが聖女としての力ではないという点であり、エリックもその点に関しては同意しかない。
ブルートは這いずりながら逃げるという吸血鬼にあるまじき醜態をさらす。
そんな醜態を見たからといって、ホリィに慈悲の心など芽生える訳もなく、ハンマーの追撃が容赦なく襲う。
「うぼあぁぁぁーーっ!!」
ゴム毬のようにごろごろと転がるダンジョン吸血鬼は、しかし、そこでニヤリと笑みを浮かべた。
「はぁ、はぁ、はぁ、たったこれしきの距離なのに、ここまで来るのは地獄のように長かった。だが、ワタシは辿り着いたぞ! 逆転の一手を手にしたっ!!」
叫ぶブルートの傍らには、先ほどホリィが倒した女冒険者の体があった。
「人間とは、赤の他人だろうと、放っておけないのだろう。ましてや、聖女様なら尚更なぁっ!!」
ブルートは、その女性の体を掴むと、屋上から投げ捨てた。
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